FP1級実技|不整形地を正面突破する① 2021/10/10 PartⅡ
FP1級実技面接のPart II(不動産)では、概況図をひと目見ただけで、「難しい」と感じる設例があります。
不整形な形状の土地もそのひとつでしょう。
2021年10月10日と2023年2月5日Part IIの設例で、2路線に接するなどかなり複雑なパターンで出題されました。
今後の出題可能性も見越して、未知あるいはあいまいになりがちなこの論点に、2回にわたって真正面から取り組んでみることにします。
Image by Gerd Altmann via Pixabay
また出題された不整形地
FP1実技面接2023/2/5 PartⅡで、難解な設例が出題されました。
図を見ただけでも、嫌な感じになる三角形の不整形地。
角地で、正面路線と側方路線に接しています。
しかもこの土地は複数の単独地からなり、その上に共有の賃貸ビルが建っているという、権利関係が複雑に絡み合った状態にあります。
その単独地のひとつについて、相続税評価額と固定資産税評価額の算出法を問うという難問でした。
不整形の評価と言えば、すぐに思い浮かぶのは、2021年10月10日 PartⅡの設例です。
こちらは交換を経て一体化された不整形地で、正面路線と裏面路線に接し、容積率の異なる2つの地域にまたがる土地でした。
この設例については、以前の記事で対策問題集(通称ピンク本)の解説の別解を示したことがあります。
記事では地積規模の大きな宅地の評価が適用できる点を指摘しましたが、不整形地補正や容積率が異なる場合の補正など、ピンク本が提示している論点は難しすぎるからと、理解を諦めてしまう形になってしまいました。
その不整形地の評価が、さらに難度を上げて、2023/2/5 PartⅡで出題されたことになります。
今後の出題可能性も鑑みて、この際、ピンク本のアプローチに沿って不整形地の相続税評価額の計算方法まで含めて理解しておく必要性を感じました。
以下、2021年10月10日 PartⅡ「交換後の土地が相続上有利になる点」について、実技面接ベースの答えを確定した上で、相続税評価額の計算式を示し、不整形地補正率などピンク本の解説では説明が不足している点を補いながら実際に計算してみることにします。(2023/2/5 PartⅡの設例については改めて解説記事をアップする予定です)
2021/10/10 PartⅡ 不整形地の評価
実技面接ではどう答えるか?
Q4:「交換後の土地が相続上有利になる理由として、どのようなことが考えられますか」(ピンク本260ページ)
まず、詳細な計算を行う前に、実技面接ベースでの応答内容を確定しておきましょう。
ピンク本の解説では、相続上有利になる理由として、甲と乙を一体利用すると、評価額は二方路線影響加算の対象になるものの、不整形地補正と容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価による減価を行うことができるから、としています。
実際には、甲乙一体地の路線価の増減要因は以下の通りです。
増額要因:
「二方路線影響加算率」減額要因:
「奥行価格補正率」、「不整形地補正率」、容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価適用による「控除割合」※ピンク本に記載あり、別解で示した地籍規模の大きな宅地の評価適用による「規模格差補正率」
以上を踏まえて、実技面接では次のように答えておけば十分でしょう。
相続税評価額の計算式(II案)
それでは甲乙一体地の相続税評価額の計算式について、II案を例に具体的に見ていきましょう。
甲乙一体地は幅員12mの道路(路線価500C)と幅員6mの道路(路線価300D)に接していますから、
甲乙一体地の相続税評価額の計算式は
路線価500千円に奥行価格補正率を掛ける。
路線価300千円に奥行価格補正率を掛ける。
1.と 2.の価額の高い方を正面路線、低い方を裏面路線とする。
正面路線価×奥行価格補正率に、裏面路線価×奥行価格補正率×二方路線影響加算率を足す。
上記4.の結果に不整形地補正率、規模格差補正率、容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地評価の(1-控除割合)をそれぞれ掛ける。
さらに地積870㎡を掛ける。
となります。
(※)以前の記事で示したように規模格差補正率は0.78となります。
奥行価格補正率を求める
不整形地の奥行距離は一定ではないため、次の算式により、まず計算上の奥行距離を求めます。
次に奥行価格補正率表(国税庁HP)で、奥行距離とその土地が属する地区から、該当する補正率を探し当てます。
幅員12mの路線(500C)に接する甲土地450㎡(間口22.5m×奥行20m)は普通商業・併用住宅地区に属し、幅員6mの路線(300D)に接する乙土地420㎡(間口21m×奥行20m)は普通住宅地区に属しますから、まず正面路線か裏面路線かの判定は次のようになります。
幅員12mの路線の奥行価格補正率:
870㎡÷甲土地の間口距離22.5m=38,666・・・<40 ∴38.66m
⇒奥行価格補正率表によれば普通商業・併用住宅地区で間口距離が36m以上40m未満は補正率が0.95となる。幅員6mの路線の奥行価格補正率:
870㎡÷乙土地の間口距離21m=41,428・・・>40 ∴40m
⇒奥行価格補正率表によれば普通住宅地区で間口距離が40m以上44m未満は補正率が0.91となる。幅員12mの路線価500千円×0.95>幅員6mの路線価300千円×0.91より、幅員12mが正面路線、幅員6mが裏面路線となる。
【ここで注意❗️】
幅員12mが正面路線となったので、以降の計算では、甲乙一体地が属する地区は普通商業・併用住宅地区となり、補正率表での探索もこれに従います。
ですから幅員6mの裏面路線価に掛ける奥行価格補正率も、上記の判定の際に用いた普通住宅地区に該当する値0.91ではなく、普通商業・併用住宅地区に該当する値0.93を用います。
◆(正面路線価500,000円×奥行価格補正率0.95+裏面路線価300,000円×奥行価格補正率0.93)
二方路線影響加算率を求める
二方路線影響加算率表(国税庁HP)より、普通商業・併用住宅地区の土地は加算率が0.05となります。
【ここで注意❗️】
不整形地の二方路線影響加算においては、その裏面路線の間口距離(21m)が想定整形地の間口距離(26mと仮定。下図参照)より短い場合は、調整割合(裏面路線の間口距離÷ 想定整形地の間口距離)を二方路線影響加算率に掛けて調整します。
調整割合:21m÷26m=0.80(小数点2位未満切り捨て)
◆(正面路線価500,000円×奥行価格補正率0.95+裏面路線価300,000円×奥行価格補正率0.93×二方路線影響加算率0.05×調整割合0.80)
不整形地補正率を求める
まず、対象となる不整形地の全域を囲む長方形または正方形の土地を想定します。これを「想定整形地」と言います。
想定整形地のうち、対象となる不整形地以外の部分を「かげ地」と言います。(下図の黒い網掛け部分)
「かげ地割合」を求めます。
次に、地積区分表と不整形地補正率表(国税庁HP)から該当する不整形地補正率を探し当てます。
想定整形地の地積は、間口距離を26mと仮定した場合、26m×40m=1,040㎡となる。(下図参照)
かげ地割合は
(1,040㎡-870㎡)÷1040㎡×100%=16.34•••%地積区分表から、普通商業・併用住宅地区で650㎡以上1000㎡未満の土地はBにあたる。
次に不整形地補正率表から普通商業・併用住宅地区でかげ地割合が15%以上20%未満のBの土地は補正率が0.99となる。
※上図で黒の網掛け部分が「かげ地」。かげ地の間口距離は設例では与えられていませんが、ここでは甲土地側3.5m、乙土地側5mと仮定します。
◆(正面路線価500,000円×奥行価格補正率0.95+裏面路線価300,000円×奥行価格補正率0.93×二方路線影響加算率0.05×調整割合0.80)×不整形地補正率0.99
控除割合を求める(ピンク本260ページ)
控除割合=(1-① / ②)×③(小数点三位未満四捨五入)
甲土地450㎡は12mの道路に接しているので容積率は300%(=指定容積率)、乙土地420㎡は6mの道路に接しているので、6m×4/10×100=240>200(=指定容積率) ∴200%。
① 容積率の異なる部分の各部分に適用される容積率に各部分の地積を乗じて計算した数値の合計:
300%×450㎡+200%×420㎡=219,000② 正面路線(幅員12m)に接する部分の容積率×宅地の総地積:
300%×870㎡=261,000③ 容積率が価額に及ぼす影響度:
ピンク本に記載の表より普通商業・併用住宅地区は0.5
従って
控除割合
=(1-219,000 / 261,000)×0.5=0.080(小数点三位未満四捨五入)
相続税評価額は?
以上より、甲乙一体地の相続税評価額は次のようになります。
いかがだったでしょうか?
相続税評価額の詳細な計算結果を示して、いわば不整形地の正面突破を図った形ですが、実技面接ではもちろん計算結果が求められることはありませんし、そのような計算をする時間的余裕もありません。
しかしながら、面接の場で不安なく自信を持って受け答えするには、論点への深い理解の裏付けが必要となります。
各補正率の細かな計算方法まではともかく、相続税評価額の全体の計算式については、是非ともこの機会に押さえておくことをお薦めします。