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【設例解説】FP1級実技面接 2024/9/29 PartⅠ・Ⅱ
10月3日、金財の公式サイトに、先頃行われたFP1級実技面接の設例が掲載されました。
各設例の主な論点について、速報で解説します。
修正や追加があれば随時更新します。
設例中に示された論点、予想される質問について解説しました。実際の面接では、このような質問がなかったり、別の論点に関する質問が出ている可能性があります。
冒頭や最後の定番問題の解説は省略しました。
ラスパーが考える最適解(できるだけ受検生の口頭レベルに近づけたもの)を示し、必要な場合はそれについての【解説】を付しました。
【補足】では論点のさらなる詳細や深堀り、関連事項などを記載しました。
設例は金財公式サイトをご参照下さい。
※当記事は一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験(資産相談業務)2024年9月を一部改変して使用しています。
2024年9月29日 PartⅠ
【設例概要】
主人公は、社団医療法人Xクリニックの理事長であるAさん(70歳)。
2023/2/4 PartⅠ以来の、待ちに待った(?)医療法人の出題です。
弟Eさんも理事としてXクリニックに勤務しており、現在、Xクリニックの社員は、Aさん、妻B さん、弟Eさんの3名で、出資持分はAさんが100%有しています。
Aさんは、Xクリニックに内科医として勤務している長男Cさんへの事業承継や 出資持分の相続・贈与対策のため、2024年4月にXクリニックの持分なし医療法人への移 行計画を厚生労働大臣に提出し、認定医療法人の認定を受けていますが、現在、Aさんは出資持分の放棄は行っていません。
主な論点は以下の6点です。
認定医療法人制度について
持分の放棄前に相続が発生した場合どうなるか?
医療法人にも遺留分に関する民法の特例が適用できるか?
長男Cさん家族と住むために自宅を二世帯住宅に建て替える点
ジュニアNISA口座内にある投資信託はいつまで非課税で保有することができるのか?
贈与税の改正を受けてどんな生前 贈与を行えばよいのか?
他の出資者がおらず、Aさんの持分が100%というシンプルな設定です。
他の出資者に持分を放棄してもらうための調整やら何やらは一切必要なく、Aさん1人が持分を全て放棄し定款を変更しさえすれば、それで移行完了となります。
出資持分の放棄をする前に自分の相続が発生したらどうしよう…、遺留分は…、などと悩む前に、さっさと放棄してしまえばと思うのですが、長年利益が蓄積されてきた持分(=財産権)を無償で簡単に手放すことに、大いなる躊躇があるのは当然です。
◆ Xクリニックは認定医療法人の認定を受けていますが、持分なし医療法人への移行期限は何年ですか?
認定から5年以内です。
【解説】
R5税制改正で、移行期限は認定から3年以内が5年以内へと緩和されました。
◆ 相続発生後に認定医療法人制度を利用することはできますか?
できます。
但しその場合も、移行計画の認定期限は2026年12月31日までとなります。
【解説】
XクリニックはAさんの相続発生前に移行を計画的に行っていますが、相続発生後に制度を利用したい場合もあり得ます。
その場合、認定期限は2026年12月31日までで、かつ移行計画の認定は相続税の申告期限(相続発生後10カ月以内)までに受ける必要があります。
認定を受ければ、持分あり医療法人の持分を相続した承継者に課される相続税は、その納税が猶予され、移行期限内(認定から5年以内)に出資持分を全て放棄して持分なし医療法人へ移行すれば、納税が免除されます。
◆ 認定医療法人制度における税制上の優遇措置を説明して下さい。
移行計画の認定を受けて一定の要件を満たせば、出資者の持分放棄に伴うみなし贈与税が免除され、移行前の相続税や贈与税の納税も猶予・免除されます。
【解説】
出資者が出資持分を全て放棄して、持分なし医療法人へ移行する際、医療法人に課されるみなし贈与税が免除されます。
移行計画の認定を受けた後、移行前に、医療法人の出資者が死亡した場合、相続人に課される相続税の納税は猶予され、その後、出資者が出資持分を全て放棄して持分なし医療法人へ移行した際に、猶予されていた納税が免除されます。
移行計画の認定を受けた後、移行前に、一部の出資者が出資持分を放棄した場合、他の出資者に課されるみなし贈与税の納税は猶予され、その後、出資者が出資持分を全て放棄して持分なし医療法人へ移行した際に、猶予されていた納税が免除されます。
◆ Aさんの出資持分の評価額はどのように計算されますか?
Xクリニックは中会社の小ですから、L=0.6 の併用方式を用います。
類似業種比準価額2,000円×0.6+純資産価額4,000円×(1-0.6)=2,800円
2,800円×4万口=1億1,200万円
となります、
◆ 医療法人の類似業種比準価額の計算上、留意する点は何ですか?
医療法人は配当がないことから、比準要素は「利益金額」と「簿価純資産価額」の2つで、比準割合を算出する際の分母は「2」となります。
【解説】
これは2024/5:/26のFP1級学科(基礎編)で出題されました。
▶︎以下の記事の「FP1級学科で「医療法人」出題。実技面接でも要警戒!」を参照して下さい。
◆ Aさんが持分を放棄する前にAさんの相続が発生した場合はどうなりますか?
Xクリニックは認定医療法人ですから、Aさんの持分を相続することになる長男Cさんに課される相続税は納税が猶予され、Cさんが持分を全て放棄して移行が完了すれば、免除されます。
◆ 医療法人に遺留分に関する民法の特例を適用できますか?
できません。
【解説】
遺留分に関する民法の特例の対象となるのは、中小企業基本法上の「中小企業者」であり、医療法人はこれに該当しません。
【補足】
この他、各税制特例における医療法人の扱いについてまとめておきます。
法人版事業承継税制は、非上場株式を対象とするものですから、株式のない医療法人には適用できません。
→その代わりに、持分あり医療法人の場合は、認定医療法人制度における贈与税と相続税の納税猶予・免除の特例があります。個人版事業承継税制は、個人事業の開業医に適用できます。
小規模宅地等の特例における特定事業用宅地等は、個人事業の開業医に適用できます。
小規模宅地等の特例における特定同族会社事業用宅地等は、持分あり医療法人に適用できます。
◆ 持分なし医療法人に移行した後、長男Cさんへの経営権の承継はどのように行いますか?
社員総会で長男Cさんを理事に選出した後、理事会で理事長に選出し、定款を変更し、登記します。
【解説】
医療法人では、1人につき1つの議決権を持つ「社員」が「社員総会」を構成します。(会社で言えば株主総会のようなものですが、持分あり医療法人の場合でも社員は持分を持っているとは限りません。医療法人では持分と社員の立場は分離されています)
社員総会で選ばれた「理事」と「監事」が「理事会」を構成し、理事の中から「理事長」が互選されます。(理事は社員である必要はありません。理事長は医師であることが原則です)
◆ 財産権を無償で手放してしまうAさんに、何か報いる手立てはありませんか?
適正な範囲内で相応の額の退職慰労金を支給します。
◆ 長男Cさん家族と住むために自宅を二世帯住宅に建て替える点について、何かアドバイスすることはありますか?
住宅取得等資金の贈与の非課税制度を利用して、Cさんに住宅資金の一部を贈与し、Aさん・Cさん出資で二世帯住宅に建て替えて、建物を共有名義とします。
Aさんに相続が発生した場合、妻BさんまたはCさんのいずれが相続しても、敷地のすべてが小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)の対象となります。
◆ ジュニアNISA口座内にある 投資信託をいつまで非課税で保有することができますか?
「継続管理勘定」で18歳になるまで、非課税で保有することができます。
【補足】
2024年以降はいつでも非課税で払い出しが可能ですが、払い出す場合は、保有している商品や現金の全てを払い出し、口座を閉鎖する必要があります。
また、新NISAの非課税枠への移管はできません。
◆ Aさんはどんな生前贈与を行えばよいですか?
税制改正により、持ち戻し不要の基礎控除110万円が創設された相続時精算課税の活用を提案します。
また、長男Cさんへは二世帯住宅建て替えに際して住宅取得等資金の贈与の非課税、4人の孫へは教育資金の一括贈与の非課税を活用した生前贈与を提案します。
2024年9月29日 PartⅡ
【設例概要】
テーマは、相続で取得した甲土地(600m²)の有効活用。
事業用定期借地権方式か等価交換方式か、そのメリットとデメリットを検討し、計画変更を提案させる題意です。
甲土地はAさん(60歳)と妹Bさんが各2分の1の持分で共有しており、Aさんは甲土地の活用により安定した収益を得たいと考え、妹Bさんは甲土地のうち 3,000万円相当部分を売却し、その売却後の手取額を長女夫婦のマ イホームの購入支援に充てたいと考えていて、意見が一致していません。
土地の有効活用を図りたいものの、土地が共有状態であり、共有者の一方がまとまったキャッシュを必要とする状況であるため、計画をどのように変更すべきか?
これは、まさに2024/9/21 Part IIと相似形の展開です。
【甲土地の概要】
三大都市圏の既成市街地であるM市内のS駅から徒歩5分の商店街に所在
地積:600m²
固定資産税評価額:2億1,000万円
商業地域、建蔽率80%、容積率400%、防火地域
時価は3億円
【X社の提案内容】
甲土地に、借地期間30年の事業用定期借地権方式によりドラッグストアとクリニックが入居する鉄骨造2階建て店舗(延べ面積1,000m²)を建築する。
X社は、Aさんと妹Bさんに合計で年間地代1,080万円を支払い、保証金540万円を差し入れる。
固定資産税と都市計画税を支払った後のAさんと妹Bさんの1人当たりの手取額は360万円。
【Y社の提案内容】
甲土地に、等価交換方式により鉄筋コンクリート造8階建てのマンションを建築し、Y社の取得する部分は分譲マンションとする。
マンションは、延べ面積2,400m²、専有面積2,100m²、Y社の資金負担10億円
Aさんと妹Bさんが取得するマンション居室は合計専有面積420m²、賃貸した場合の満室想定賃料年額1,440万円、年間維持管理費360万円(固定資産税、都市計画税、マンション管理費・修繕積立金、損害保険料等)。
Aさんと妹Bさん1人当たりの年間手取額は540万円。
◆ X社が提案する事業用定期借地権方式のメリットは何ですか?
甲土地の所有権を手放すことなく、安定した賃料収入を確保できることです。
特約を付して契約することにより、契約の更新がなく、存続期間の延長もなく、期間満了時の建物買取請求権も生じず、30年後に甲土地は確実に手元に戻ってきます。
◆ 事業用定期借地権方式におけるAさんと妹Bさんにとっての問題点は何ですか?
現在の計画のままでは、甲土地の共有状態は解消できません。
また、Bさんは長女夫婦のマイホーム購入を支援する資金が得られません。
◆ その問題点を解決するために、どのような計画案の変更が考えられますか?
事業用定期借地権の契約を前払地代方式にすれば、Aさんはまとめて受け取った地代でBさんの持分を買い取って共有状態を解消することができ、Bさんも長女夫婦を支援する資金を得ることができます。
仮に、持分に応じたAさんの 30年間分の受取地代(1,080万円×30年×2分の1=1億6,200万円)のうち1億5,000万円を前払地代方式で受け取ることができれば、AさんはBさんの甲土地の持分(3億円×2分の1=1億5,000万円)を買い取り、共有状態を解消することができます。
◆ Y社が提案する等価交換方式によりマンションを建設するメリットは何ですか?
自己資金なしで区分所有建物を得て、自己の居住用や賃貸物件として活用したり、一部を売却して現金化できる点、相続時の遺産分割が比較的容易になる点、税制優遇措置(立体買替えの特例)がある点などです。
◆ 等価交換方式におけるAさんと妹Bさんにとっての問題点は何ですか?
現在の計画では、Aさんと妹Bさんはマンションの居室を複数取得することになっており、Bさんは長女夫婦のマイホーム購入を支援する資金が得らません。
また、安定した賃料収入を得たいと思っているAさんにとっては、Y社の提案する賃料年額はあくまでも満室を想定したもので確実性に欠け、空室が生じれば想定した賃料収入は見込めません。
築年数が経過すると、修繕費などの管理コストもかさみ、周辺の賃貸マンションの需給状況によっては、賃料を値下げせざるを得ないリスクも生じます。
【補足】
Y社の提案では、Aさんと妹Bさんに還元される専有床面積は420㎡となっていますが、原価積上方式で計算すると、483㎡(※)となります。Y社側は別の方式(市場性比較方式)により算出しているのかもしれませんが、交渉の余地があるかもしれません。
(※)
土地評価額3億円÷(土地評価額3億円+建設費10億円)≒0.23
専有面積2,100㎡×0.23=483㎡
◆ その問題点を解決するために、どのような計画案の変更が考えられますか?
マンション居室の一部(3,000万円相当分)を現金で受け取る形に変更します。
また、残りのマンション居室を賃貸に出す場合は、賃料保証型のサブリース方式とし、空室が生じても一定の家賃収入が保証される形にします。
【解説】
但し、賃料保証型のサブリース方式とした場合は、当然相応のコストがかかるため、賃料の受取り年額は現在の計画よりも少なくなります。
また、賃料保証型のサブリース方式でも、契約更新時には保証される家賃額が値下げされたり、契約が終了したりするリスクがあります。