【再公開します】彼の翻訳者であれますように…
私の大好きな子どものことを聞いてくれる??
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先輩職員から聞いた、彼の様子はなかなかに衝撃的で、「どんな子なんだろう?」と半分ワクワク、半分不安もありました。先輩職員も一番の困難ケースと聞かされていました。彼のいいところは、人の役に立ちたい面や、困っている人をほっとけない性格のところ。その反面、自分より力のある先輩たちにも構わず向かって行ってしまったり、自分が不公平と感じると怒りを止められず、衝動的に手が出てしまうところもあり、周りからあまり良く思われていない部分もありました。また嫌いと思ってしまった相手のことはなかなか許せず、その気持ちを引きずってしまうところもあります。
でも、明るく初対面の人でも物おじせずに話せるところ、集中し始めるととてつもない勢いで頑張れるところ、とっても素敵な面がたくさんある子でもあります。
彼は今まで学校生活でしんどい思いを抱えてきています。彼自身も衝動的に手が出てしまったり、興味本位でものを投げたり、突然体を動かしたことで、相手をケガさせてしまったりして、周りから誤解され、事件が起こると全部「●●くんのせいだ」と非難されていたそうです。彼は今でも、「俺はどこにいっても嫌われるし…」とぽつりぽつりと吐き出してくれることもあります。
私が他の子の対応をしていると、「○○ばっかりずるい」とすねることもあります。問題を別に起こして(壁をむしる、電気を消す、ものを壊すなど)、注意を受ける場面を作ってしまうこともあります。
理由を聞くと、「だってどうせどこ行っても怒られるし。○○ばっかりずるいし。俺だって話聞いて欲しかった。」と気持ちを吐き出してくれます。
少しずつ彼と対話をしていくうちに、周りから誤解され続けたことで、自分の本当の気持ちをうまく表現する機会があまりなかったり、どうせ誤解されるなら、じゃあもういいやと感じる彼の寂しさが行動の裏にあるのではないかと感じます。
こんなこともありました。ある年下の子がおごってくれる状況に、彼自身も心配し、「もう、おれにおごんなくていいから」とその子に伝えたそうです。しかし、それを相手の年下の子に伝えてもあまり伝わっておらず、おごり続ける。しびれを切らした彼は、手を出してしまったといいます。
年下の子は彼のことも大好きで、感謝の気持ちがあっておごってくれている部分も分かっているのですが、彼自身がとっても不器用でうまく言えなくて、手を出してしまったのです。
年下の子はしばらく、「●●くんは、僕をなぐった。僕嫌われちゃった」と誤解をしてしまっていました。
私が、彼とも、年下の子にも個別に話をしました。年下の子には、「●●君は、○○くんのこと大好きなんだよ。でも、言葉で伝えるのがちょっとだけ苦手だから、言葉の前に手が出てしまったんだよ」と。
彼には、「○○くんは、●●くんのこと大好きで、大好きすぎるから、どうしてもおごりたかったんだと思うよ。『いい。おれはいらない』って言われたけど、それでもおごってあげたいってくらい大好きなんだね。」と。
少しずつですが、お互いが歩み寄り、今週になって一緒に楽しそうに、施設に来て帰っていくという日常が戻りました。
君は、本当は手なんて出したくなかったんだよね。本当は「おれはいいよ、お前が心配だよ」って言いたかったんかな?
君は、私が工作の材料を買っているのをみつけて(たまたまお店であった)「先生、みんなに買いすぎると先生貧乏になるぞ」って心配してくれるくらい優しい子だもんね。
先生のがみんなの前で頑張る時も「俺がこれ読もうか?」って聞くぐらい優しい子だもんね。
お母さんのことも「母さん、怒ってばっかなんだ。母さんに喜んでほしくて」って工作を作って大事そうに持って帰っていく君。怒られている理由はバツが悪くて言いたくないのか、それとも分かっていないのか(私の見立てだとエピソードとしてつながっていない気がする。)それでも、一生懸命自分の大切な人を思っているのだと思います。
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彼との支援で意識したことは2つあります。
1つは、彼自身の言動の裏には、「本当は○○したかったんだ」と感じる願いがあるということ。その願いを一緒に悩みながら、その願いが誰も傷つけないもの(彼自身も周りの人も)ならば一緒に悩みながら叶えていこうとしたこと。
彼が好ましくない行動をしていても、どうしてそうしてしまったのだろう?と考えました。考えるだけでなく、①彼自身に「どうして○○したの?」と聞いていきながらその行動をしてしまった彼の気持ちを受け止めながら関わっていきました。②発達検査や知能検査などのアセスメント情報を見て、また普段の彼の関わりの中での強み・弱みをしっかり見据えたうえで、彼の強みに合わせて支援をしていったことです。彼の強みはつらい気持ちをしっかり1対1で話せば言語化できるところだったので、しっかりお話をしていく中で彼の気持ちと向き合っていきました。
2つ目は、彼に何があっても味方だよ、私はあなたのこと大切に思っているよと言葉でも行動でも伝えていったことです。
学校に行きたくないと彼が愚痴った時、「あなたのことを本当に思っているから、私はあなたが辛いことがとっても悲しい。」、「悩んだら相談していいんだよ」と伝えていくこと等で彼自身が辛い気持ちを吐き出してくれたり、相談してくれたりするようになりました。
私は大切に思っているよ、大好きだよと言葉だけでなく言動で伝えていくことも大切なのかなと感じました。
私にとって彼が支えのように、私との関わりも彼にとって支えになっていたらいいのになと感じます。
彼や子ども達のために、一人ひとりと向き合いながら、彼ら一人一人の願いを大切にしながら関わっていきたいなと感じます。