かくして、またストーリーは始まる。
UNISON SQUARE GARDEN というバンドがある。
今年2024年7月24日、めでたく結成20周年を迎えたバンドだ。
彼らとの出会いは高校生にまでさかのぼる。
学校も嫌だ、家も嫌だ、よく分からないけど何もかも全部嫌だという思春期真っただ中にいた自分を、
年上の友人がドライブに連れて行ってくれたことがある。
その時に車内でずっと流れていたのがUNISON SQUARE GARDENだった。
歌詞が早口すぎて何を言っているのか聞き取れず、帰ってから友人に「流してたあの曲、何?」と面白半分で聞いてみたところ、
「天国と地獄だよ」と曲名を教えてくれた。
「天国と地獄~~? 運動会の曲じゃん」と鼻で笑いながらYoutubeで検索した。
当時は確か、10周年記念アルバムの発売記念か何かでまだMVが残っていた時期だったと思う。
なんじゃこりゃ。
衝撃だった。
とても三人で演奏していると思えなかった。
あんな細い体をしていてもこんなに芯のある声が出せるのか。
こんなに暴れていてもベースを弾けるのか。
たった一人で叩いているのに、ドラムからこれだけの音が鳴るものなのか。
ていうか、このMVなんだよ。人生ゲームってこと?なんでトマト投げてんだよ。
三人の演奏と、訳の分からないMVに笑ってしまった。
そもそも「天国と地獄」という曲は彼らの曲の中でもかなりとがった曲に入る方だ。それを知ったのはもっと後のことだった。
そんなとがった曲を一番初めに聞いてしまったのだからあとはお察しだろう。
結成10周年を迎えた直後の2015年の夏。初めて好きなロックバンドができた。
友人が「今度ファンクラブもできるから入りなよ」と教えてくれた。
全部の曲を聞いたわけじゃないのに、気づいたら勢いだけで入会していた。
人生初めてのライブはファンクラブ先行で当てたプログラムcontinuedのツアーだった。
今はもうなくなってしまった新木場のSTUDIO COASTで、初めて彼らの生演奏を聴いた。
あの時の、音が地面を揺らす感覚がいまだに忘れられない。足を伝って体に衝撃が来る感覚。
高校生ながら、物理の授業で「音波」って習ったけど、音って本当に波なんだなあと実感した。
大学生の頃だっただろうか。余りの忙しさに彼らを見る余裕もなくなり、ファンクラブの更新が切れてしまいそうになったこともある。というか、切れていた。
ファンクラブには「有効期限が切れても30日が経過するまでは、継続会員として手続きが可能」という制度があり、その30日を過ぎるか過ぎないかギリギリのタイミングだったと思う。
メールボックスにファンクラブ更新についてのメールが入っていたのを見て気づいた。
もうずいぶん見てないし、ファンクラブもやめようかな。
今は忙しすぎてライブがどうとか考えられないし、正直タダじゃないんだから。
本気でそう思って、ただそこでふと、ベーシストの言葉も思い出した。
「あ、今このまま何もしなかったら、彼らと会うことはもう二度とないかもしれない。ここが縁の切れ目になるかもしれない」
直感的にそう思った。慌てて近くのコンビニに駆け込んで、ATMから年会費を引き出し、そのままレジで支払いを済ませた。
ベーシストはこう言ってくれているけど、結局は受け手が足を向けない限り音楽は浴びられない。自分は一度興味を失ったものに対して再度熱を持つことがほとんどないから、このまま足が遠のいてしまう予感が十分にあった。
無事「継続完了」のメールが届いたときにはほっと胸をなでおろした。
その年が終わった翌年の始まりに、「15周年を記念した野外ライブをする」とファンクラブメールが届いた。
15周年記念ライブは、初めての遠征だった。新大阪駅で彼らのライブTシャツを着ている人とたくさんすれ違った。
ライブ会場に入ったときにはあまりの人の多さにぽかーんと口を開けてしまった。聞けばその場に約2万5000人のファンが集まったという。
「このバンドのファンってこんなにたくさんいたんだ」と素直に思った。こんなにたくさんの「物好き」を見たのは初めてだった。
「ドラムはバンドの皿のようなものだと思っている」と語ったドラマー。
「UNISON SQUARE GARDENちゅうのは、すげえバンドだな!!」両腕を組んでそう言ったベーシスト。
「僕たちは僕たちが好きな音楽を続けていこうと思います」と再度そのスタンスを示したギタリスト。
再編成されたプログラムcontinued(15th style)の曲間に、各ブロックから「おめでとう!!」の声が響き渡った。夢のような時間だった。
彼らと出会って約9年が経った。
出会った当初の2015年夏というと、10周年記念となる武道館公演があった。ただ自分はその公演が終了した後に彼らを知った。
fun time 724のライブDVDは発売直後に買って、何度も何度も再生した。彼らの音楽を聴けば聴くほど、武道館で彼らを見たかったという気持ちは強まる一方だった。
だから今年2024年。
新年あけて早々、武道館で20周年記念ライブをやると知ったときには、スマホ片手に号泣してしまった。
約9年前、ベーシストは武道館に対し「10年で立つのは早すぎたかもしれない」と言葉をこぼしていた。
この「まだ早い」をずっと覚えていた。そんな彼らが再び武道館に立つ日が来る。
『これからも気が向いた時にライブに来たり、CDを聴いたりするといい。』
そう言っていた彼らが、こう告げた。
2024年7月24日。
物好きが全国から東京に集まった。六角形の会場に入ると、どこを見ても人人人だった。
ここだ。あのDVDを見てからずっと来てみたかったと思い続けていた武道館。
初めて生演奏を聴いた、あの時の感覚を追い続けてここまで来た。
約9年前の自分に言いたい。
天国と地獄を鼻で笑ってもいいが、お前はそのロックバンドに何度も勝手に救われることになると。
約9年追い続けたその先に、ずっとずっと願っていたあの場所でのライブがあると。
セトリも演出も何もかも、決して慢心せず油断せず進み続けたロックバンドと、彼らを信じてライブを作り上げたスタッフの集大成だった。
いつかの少年を語る彼らを見て、勝手に自分もこの数年間を思い出す。
あー、確かあの曲の時はすごい荒れてたな。そうそう、この曲のこの歌詞がすごく好きなんだよね。これライブで聞いてめっちゃテンション上がったなー! とか。
「20年、バンドを続けるのは大変だった」
「UNISON SQUARE GARDENがなくなるきっかけはたくさんあった」
そんな内容を彼らはMCで話した。
それを聞いて、自分がファンクラブを抜けようか、と思った時のことを思い出した。
そうか。縁が切れる可能性は、彼らにも等しくあったのかと思った。
ただ、ただ、だ。
5年前の舞洲で自分は皿だ、いかに前の二人を彩れるかを考えていると語ったドラマーは「このバンドがかっこいいのは俺のおかげ!!」と笑ってくれた。
9年前、「この言葉は10年やそこらで言っていい言葉ではないと感じたので、今回は言わないでおく」とそっと言葉を秘めたベーシストは、「誰にも分からないように後ろを向いた。そしたら、君がいた。好きでいてくれた君のおかげでロックバンドはここにいる。君のおかげだ。ありがとう!」と言葉をかみしめた。
そしてこの20年間、フロントマンとして立ち続けたギタリストは最後に、「本日は、UNISON SQUARE GARDEN、20周年おめでとうございます!!」と叫んで手を挙げた。
縁を紡ぐ努力を怠らない彼らが目の前にいた。
もうしばらくは、勝手に救われるままでもいいかなと思った。
15周年の舞洲では「おめでとう」が多かった。
20周年のこの日は「ありがとう」が多く聞こえた。
ありがとう、UNISON SQUARE GARDEN。
20年って長いよね。
そりゃ、立ち止まりそうになったことだってあるわな。
これからもずっと、好きな音楽をずっとずっと続けていて欲しい。いや、なんか、嫌になったら止めてもらってもいいんだ。強制とかそんなんじゃなくてさ。
好きにやってほしいんだ。
好きに暴れてる君らが好きなんだ。
客のことなんて気にしなくていい。
安心して欲しい。我々はいつでも君らの後ろにいる。ずっと見ている。
正しかろうが正しくなかろうが。
1回しかないなら、1回だけで十分だ。
そう歌ってきた君たちをこれからもずっと。
祝福の鐘よ、鳴れ!