【セカンドブライド】第10話 初めてのフルマラソン挑戦記①
楽しみなことがあると、目覚めると同時にパッと起きてしまうのは大人も子供も変わらないと思う。前日の夜は子供達とぐっすり寝て、フルマラソンの大会当日になった。
覚醒する様に起きた朝、直ぐにリビングのカーテンを開けて空を確認した。空には薄く雲がかかって少し寒いものの、雲の間から青空が見えていて風もなく穏やかな日だった。
娘は、ガールスカウトの遠足だったのでお弁当を作り、いつもの様に少し早めに来てくれた母に子供達をお願いした。
クラブの練習会が行われるいつもの公園がマラソン大会の会場だった。
いつもは閑散とした公園が、この日だけは人でいっぱいになる。日本陸連の公認記録になるこの大会には、県内外から合わせて約1万人の人が集結する。公園の中の駐車場は使えないので、クラブメンバーの職場の駐車場に停めさせてもらって、クラブの陣地に向かった。
陣地には、クラブの名前の旗が立てられ、大きなブルーシートが敷かれていた。そして、練習会にはあまり顔を出さないメンバーも集まっていた。「久しぶり。元気だった?」とか「おはよう。」とか挨拶しながら、荷物を置いて準備を始めた。
「おはよう。調子はどうだい?」とタカさんに聞かれたので、「多分、大丈夫。ちょっとだけ緊張してる。」と答えた。タカさんが「まあ、苦しいのがフルマラソンだから、今日はお互い苦しもうや。」と言った。
シートの対角線上で、ハリーさんが手招きをした。そちらに行くと、「良いですか。フルマラソンは一旦しんどくなってもそのまま走ってると、急に楽になったりします。しんどくなっても目の前の気持ちに負けないで走り続けてください。」と言った。
コジマさんが、「今日は歩くとちょっと寒そうなので、頑張って走りましょう。スタート直後はスピードを上げたくなっちゃいますが、気持ち良い速度で走ると良いですよ。気楽に楽しんで下さい。」と言った。
皆がくれる言葉に、アスリートになったみたいだと嬉しかった。
少しするとカエルさんが「トイレ、すごく混んでる。」と言いながらやってきた。そして、私に「おはよう。今日は一緒にがんばろうねー!」と言った。
スタート時刻が近づき、みなでワイワイ話しながらスタート地点に向かった。マラソン大会のスタートは、速く走れる人が前方に並ぶ。タイムの速い順にAブロック、Bブロックとブロック分けされていて、速い順から整列していく。
私は、5時間で完走すると言う予想タイムで申請し、Gブロックだった。カエルさんもフルマラソン完走の持ちタイムが4時間55分だったので同じブロックだった。彼は当たり前の様に隣で「頑張ろうね!」とウキウキしていた。その時、私は正直未だ少し、カエルさんと一緒に走ることに迷いを感じていた。今日は、母が「応援に行くね。」と言っていたので、母から変な風に誤解されて心配をかけるのが嫌だった。でも、目の前で嬉しそうなカエルさんを見てしまうと今さら言えないと思った。聞いていた音楽のイヤホンを外して微笑み、「頑張ろうね!」と返した。
スタートの直前で、少し緊張が高まって来た。周りを見回すと、周りは自分と同じフルマラソンを走るランナーでいっぱいだった。自分にとって特別な挑戦も、皆にとっては普通のことなんだと思った。きっと大丈夫。肩の力を抜こうと、手を振ってぶらぶらさせた。
私は、どんなことを感じるのかな?
自分の限界を感じたりもするのかな?
今日の目標、自分との約束は「無事にゴールする」その一つだけ。
せっかくだから、目一杯楽しもうと思った。
少なくとも「もうだめだ」とか格好悪い弱音を吐くのは止めようと思った。
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