【セカンドブライド】第21話 カエルさんとの口論
モヤモヤ感と言うのは厄介だと思う。それは寝かすほどに醸造され、言葉にしたタイミングでは、聞き手との温度感に開きが出来てしまっている。だから、出来るだけ、漏れ出す感情を抑える様にして話し出した。
「ごめん。あのね、お夕飯は、実家で食べもらえるかな?」
「え?何で?実家には朝ごはん食べに行ってるから、夜はぱるちゃんのご飯が良いな。」
「そんな風に思ってくれてありがとう。でもなんか、ここ最近ね、優先順位が狂ちゃってて嫌なの。しんどいんだ。」
「え?何が狂っちゃてるの?」
「うーん。例えば今月ね、タカヤの上靴に穴が開いてるのに、お金が足りなくて買い替えてあげられてないの。だから、ごめんね。」
「え?それって、オレとは関係なく無い?上靴買い替えられないのはオレのせいなの?」
「うん。多分、私はそう思ってる。今まではやりくり出来ていたし。正直、カエルさんが家に来る様になってから、家の家計が火の車なんだ。この出費が無ければって思ってる。ごめんね。」
「でも、だって、ぱるちゃん、東京まで働きに行ってるじゃん?ちゃんと稼いでるでしょ?」
「うん。東京まで働きに行ってるよ。でも、私の収入だと一人親の公的支援は何も受けられないの。両親が揃っているほどの収入は無いのに、子供達のお金はかかるんだよ。だから、毎月ギリギリで過ごしてるんだ。」
シングルマザーの家庭は、全員が一人親の公的支援を受けていると勘違いされることも多いが、所得で受けられるか受けられないかが決まる。養育費も払われていなかったし、毎月、家賃、光熱費、教育費、学資保険、食費とギリギリの中で生活していた。東京まで働きに行ってるからと言って、収入を宛てにされるのは嫌だった。
トゲトゲした雰囲気になっていった。不意に言い合いが始まってしまったことを後悔した。きっとこう言う話は、冷静に落ち着いた状態で話さなきゃいけなかった。でも、そもそもお金の話題と言うのは、品が無い感じがして言い出し辛い。今までも、言おうと言おうと思っていて言えなかったことだった。だから、この機会にこのまま言い切ってしまおうと思った。
「だけどさ、オレは週末、ご馳走してるじゃん。」
「ありがとう。それはとっても嬉しいよ。でもね、週に1回、ラーメンご馳走してもらって、週に5回お夕飯をご馳走しなきゃいけないなら、やっぱりしんどいって思っちゃうよ。」
「そか。ぱるちゃんってお金に細かいんだね。ガッカリだな。」
「うん。細かいと思うならそれで良いよ。でもね、私は子供達との生活を守らなきゃいけないから、今のこの状態のまま、カエルさんの食費を援助するわけに行かないの。余裕が無いの。ごめんね。」
「それに…、何だかお金の話ばっかになっちゃったけど、子供達とゆっくり過ごす時間も欲しいの。私、最近、夜はずっと次の日のお夕飯の準備してる。私が専業主婦なら、子供達が居ない間に出来るんだけど。」ゆったりした気持ちで、子供達とテレビを観たり、話をしたり、触れ合いたかった。
沈黙が続き、カエルさんが大きなため息をついた。
「分かった。じゃ、もう来ないから。」
そう言って、玄関に向かって歩きだした。感情を逆撫でしない様に、私も見送りに出た。
カエルさんが、暗い中、靴を履かずにこちらに背を向けて立ち止まる。どうしたら良いか分からないので、少し後ろに黙って立っていた。
カエルさんは、また大きなため息を一つ吐き、黙ったまま靴を履いて帰って行った。
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