【セカンドブライド】第15話 カエルさんの決意表明
初めてのフルマラソンは、私にとって4時間34分の旅だった。
昔から旅行が好きだった。でも、小さな子供を抱えるシングルマザーは旅行に行くこともままならない。仕事に家事に育児にと、毎日生活することで手一杯だった。頑張っている割には、時間やお金に余裕を生み出すことも出来なかった。だからこそ、少し違った目線で世界を見てリフレッシュしたかったのかも知れない。当時の私にとってフルマラソンは、「冒険」と言える様な、久しぶりにワクワクする体験だった。
完走することが出来て嬉しかった一方で、掲げてきた目標を達成し、目指すところを失ってしまったことが少しだけ寂しかった。
クラブのメンバーからは「次はサブ4(4時間以内でゴールすること)だね。」と言われた。マラソンはタイムを縮めて行くことがステップアップに繋がるスポーツなので、タイムを目標にしてもう少しマラソンを続けてみるのも悪くないと思った。だから、今まで通り継続して練習会に参加することにした。
4月初めの春うららかな日のことだった。いつもの様にメンバーとの練習を終え、駐車場で車のジュニアシートに息子を乗せていると、後ろにカエルさんがやって来た。
そして、「ぱるちゃん、ちょっと良いかな?」と言った。
ジュニアシートはしっかり固定しないと息子がすぐに抜け出してしまう。「ちょっと待ってね。」と言いながら、ジュニアシートがきっちり固定される様に、シートベルトをカチっと装着した。それから振り返ると、カエルさんは、何だかすごく嬉しいことがあったかの様に笑った。そして、私の目を真っ直ぐに見て言った。
「ぱるちゃん、オレ決心したことがあるから!後でメールするね!」
直接メールを送ってくれれば読むのに、改まって「なんだろう?」と思った。けれど、シートベルトに固定した息子が飽きないか心配だった。だから、「うん。分かった。楽しみにしてるね。」と言った。
バイバイをして駐車場から、車を出した。息子がアニメのDVDを観たいと言い、カーナビの小さな画面にアニメを写しながら帰って来た。
マンションの駐車場に着き、気になってスマホを確認したら、メールが届いてた。
件名:オレの一大決心!!
「ぱるちゃん、オレ決めた!離婚する!!
離婚したら、お迎え行くね〜🐸」
それはとても明るい口調で、でも、ものすごいことが書かれていた。思考が一旦停止し、その後で、頭がグルグルと急回転しだした。
「お迎え」ってことは、私と付き合いたいと言うことなのかな?
このメールに対して私はどうしたら良いのかな?
離婚ってそんなに簡単じゃないの、分かってるのかな?
止めた方が良いのかな?
大切な局面だと思えば思うほど、どうしたら良いかが分からなかった。
フルマラソンを一緒に走り、サポートもしてもらったことで、一緒に走る前よりも彼のことを良い人だと感じる様になっていた。優しいし、癒されるし、ほっとした様な気持ちにもなる。私も確かに好意を持ち始めてはいた。
でも、「恋愛なのか?」「好きなのか?」「付き合いたいのか?」「人生をかけたいか?」と聞かれると、正直そこまで気持ちが行きついていなかった。それに、やはり、子供達のことも気になった。
素直な気持ちを返すことにした。
「すごい宣言だね。でも、ごめん。どう返信して良いか分からないよ〜。」
間髪入れずにカエルさんから電話が来た。
「少し話せる?今、外だから、このままぱるちゃんの家の近くまで行くよ。」
私の家の近くの公園で落ち合うことになった。