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【セカンドブライド】第11話 初めてのフルマラソン挑戦記②

フルマラソンのスタートラインは、思っていたそれとは少し違っていた。

Gブロックから最前列は到底見えない。人の列が長く続いていた。ランニングウェアを身に付けたカラフルなランナーの集団の中で、「ドン」とお腹に響く音で花火が上がり、スタートしたことを知った。そろそろとランナーの列が動きだす。それは、車が渋滞を抜ける瞬間に似ていた。最初はゆっくりとスピードが上がり、しばらくすると皆がそれぞれにばらけてスピードに乗っていく。

私たちのGブロックから、スタートラインまでは、200メートルくらい走るので、スタートしてからスタート出来るまでタイムラグがあった。
「スタート地点までこんなに走るなんて、42.195キロより長いじゃん。」と言ったら、カエルさんが「うん。遅い人だけもらえるオマケだよ。」と真顔で答えたので可笑しかった。

スタートラインの横に作られたピンク色のやぐらの上で、有名な女性のゲストランナーがマイクを持ち、手を振りながら「楽しんでー!」とみんなを送り出していた。

スタートラインに用意された計測用の青いマットを踏むと同時に、自分の腕時計の計測をスタートさせた。その時、急に「私、とうとう走るんだ」と思った。「フルマラソンを完走したい」と思った日から、1年温めた「挑戦したい」気持ち。

このレースを目一杯楽しもうと思った。初のフルマラソンを目の前にして、ワクワクしていた。盛り上がった気持ちで、「行ってきまーす!」と大声でやぐらの上のゲストランナーに手を振った。

マイクの声が「お。良い笑顔ですね。そうそう。レースは楽しまないとですよ!頑張ってー!」と返って来た。エールに背中を押される様な気持ちになった。

ランナーの流れは一定の速度で前進していった。時々、横からすごい速さで抜いていく人もいたけれど、私は流れと同じ速度で走った。

沿道には応援の人達が「頑張って」と声をかけ、スポンサーの新聞社が配った旗を振って応援してくれていた。プラスチックの棒の先についた紙の旗をシャカシャカと振っている風景が「箱根駅伝みたい」だと思った。何でもない市民ランナーの私たちをそんな風に応援してくれる人がいることに驚き、そして嬉しかった。沿道に向かってありがとうございますと手を振り、小さい子が応援してくれている時には「応援ありがとう」と言いながらハイタッチをした。ただただ、楽しい気持ちだった。

カエルさんが私の方を見たので、「楽しいね!」と言った。「うん。」とカエルさんが答える。そして、少し荒い呼吸で「ぱるちゃん、ちょっと速いよ。ペース。キロ7くらいまで落とさないと。」と言った。自分の時計を確認したら、1キロを6分15秒、時速で言うと9.5キロくらいで走っていた。その時の私にとって、息も苦しくないし、決して無理のある速度では無かった。ペースを落としてしまうと「リズムが崩れる」と感じた。

「このペースがちょうど心地良いから、このまま行くね。」と答えた。カエルさんが「分かった。」と言い、「ヨシ。俺も本気出さなくっちゃ。」と呟いているのが聞こえた。

7キロ走った時、カエルさんが「ストレッチする?」と聞いたので、
「未だ、大丈夫!」と答えた。身体も温まりリズムに乗ってきたところで止まりたくなかった。どんどん前に進みたいと言う気持ちが強かった。

カエルさんの申し出を2回連続で断ったことで、何だか人の好意に背いている様な気持ちになった。カエルさんに対して申し訳ないと思った。

私は、学生時代は長距離走が苦手だった。高校生の時に、天候不良で長距離走大会中止の連絡を聞いた時には、ガッツポーズをして喜んだほどだった。そんな私がランニングを始めたのは、産後ダイエットが目的だった。娘を産んだ時はすぐに体重が戻ったのだが、息子を産んだら一年経っても体重が元に戻らない。ママ友達と「20代と30代は戻りが違うよね。」と笑って話しながら、内心焦っていた。

子育て中の運動としてランニングは最適だった。旦那さんと子供達が寝ている隙間時間で出来たし、靴一足で出来てリーズナブルで、子供との鬼ごっこも疲れにくくなった。なにより、身体を動かすと頭と身体がスッキリした。たまにレースに参加すれば、「5キロ走れた」「10キロ走れた」「ハーフを走れた」と少しずつ走れる様になることも面白かった。

シングルマザーになってからは、心身ともに子供が中心で、自分のことは二の次だった。だから、フルマラソンへの挑戦は唯一、自分を主役に出来る時間だった。結果がどうであれ自分の思った様にレースを進めたかった。

だから、カエルさんの申し出に応えられなかったことを「申し訳ない」と思う一方で、「私らしく走ることに意味がある」とも思っていた。

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