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#聖剣なんていらナイト 応援ノベル 『蒼炎の守護士《パラディン》』プロローグ

             ■ □ ■ □

 太陽が彼方へと沈み暗闇が空を覆う頃、静寂を裂くように町を駆ける三つの影があった。一つが先行し、後の二つがそれに続く形だ。

 ―――いや、「追い回す」と表現する方が今は正しいだろう。

 追われの身の人物は、右に左に道を変えながらなりふり構わず町中にあるバケツ、木箱、あらゆる物で後の二人の進路を塞ぐも、完全に振り切ることができずにいた。そして、事が進むには多くの時間は要さなかった。やがて、三人の視界の前に現れたのは行く手を阻む壁、追われの身の人物は遂に光の差さない路地裏へと追い詰められた。追われの身の人物は、壁から後ろへと向き直り、追ってきた二人と対峙する。
「手間取らせやがって。これと言って恨みもないが、例の情報を教えてもらおうか」
 対峙するや否や追ってきた内の一人が言葉を放つ。三人とも顔の隠れるローブを纏っていたが、その声は低く、重みのある男の声だった。
「……」
「簡単なことだ。持ってる情報を教えてくれたら命だけは助けてやる。だが、吐かない場合は力づくでも教えてもらうぜ」
 男は、左の手の平を前へと向けると、その前の空間にゴウゴウと鳴る音と何かが集中して「それ」は現れた。それは、「火」であった。日々の生活と共にあり、時には恐れられる存在である火を男はあっという間に球状へと変形させる。
 男が使用したその力は他ならぬ《魔術》と呼ばれる力だった。
 
 《魔術》は、この世界において、何時、何処で、どうやって現れた力か未だに謎が多く残る異能の力であった。この世界では、《魔術》は人々の生活に溶け込んでおり、日常生活で役立てる者も少なくない。しかし、当然のことであるが、この異能を己の権力、力を誇示するための道具として使用する者も後を絶たなかった。それ故、人々は《魔術》を次のように表す。
―――『悪魔より授かりし力』と。

「怪我すんのは嫌だろ?大人しく吐いちまった方が楽だぜ?」
 フードから見え隠れする口が邪悪な笑みを浮かべる。生成された火の球は先ほどよりも大きくなり、立てる音も激しくなっている。この場で放たれた場合、ただでは済まないだろう。
「………」
「……ん?」
 予想外にも、追われていた身の人物が懐から一枚の紙を差し出し、男たちに歩み寄り始めた。「その気になったか」と男は火の球を宙に浮かべながら紙を受け取りに近づいていく。一歩、また一歩、ついに二人の距離は手を伸ばせば互いに触れられる距離となるほど近づいた。
「逃げた時はどうしてやろうかと思ってたが、素直なやつは嫌いじゃない。さ、その紙をこっちに……っ?!」
 男がもう片方の手を伸ばし、その指先が紙に触れた瞬間、事態は急変した。追われていた人物も手を伸ばし、男が生成していた火の球に触れんとしていた。男の筋骨隆々とした腕と対照的に、火によって照らされて見えた細く透き通った白いその腕の先にある手は、あっという間に火の球を掴む。
 後方で見守っていたもう一人の人物もそれに気づき、何かを懐から取り出そうとしたが遅かった。

「♦◎×●◇♦」

 ハッキリとはわからない、小さなトーンの高い囁き声が男の耳に届いたときには火の球は目の前で爆ぜていた。轟音が鳴り響いてから少しずつ町中に光が灯り始めた。三人のいた場所は煙が立ち籠め互いの姿を見えなくする。
「さすがにこのままではまずいか……ずらかるぞ」
 先ほどまで声を発しなかった追跡者の一人が提案をする。もう一方の男とは違い、纏ったローブの怪しさとは裏腹に若々しく爽やかな男性の声だった。爆発を目の前で浴びた男は、標的を探すのを諦めると小さく舌打ちをし、もう一人と合流する。爆発の衝撃で破れた素肌から露出した腕には、異様な模様が浮かび上がっていた。

「……何とかなったわね」
 男たちが退散していくのを、近所の民家の屋根の上から先ほどまで追われていた人物だった。纏っていたローブは爆発によって、見るも無残な姿に変わっている。
「これももうダメね」
 独り言のようにか細く呟き、ローブを脱ぎ捨てる。
 薄っすらと注がれる月の光に照らされ、鮮やかな緋色の髪とそれを纏める大きな黒いリボンが露わになった。服の上からでも見受けられる少し膨らんだ胸や、髪色と対照的な白い柔肌はこの人物が「少女」であると物語る。
 少女は屋根の人目につかない位置に移動し、騒がしくなった町の様子を眺めながらつかの間の休憩を取る。ふと違和感に気づき、自身の脚に目を運ばせると、先ほどの爆発によってなのか、それとも追われている時に出来たものか、傷が出来てしまっていた。その部分だけではない、他にも数か所、流血や切り傷のような痕が嫌でも目についた。
「はぁ……」

 わざとらしく溜息をつきながら懐から包帯を取り出し、自身で手当てを始める。

「聖剣なんて、この世にいらない」

 少女は溜息交じりにもう一度だけ吐き捨てた。
 しかし、騒がしくなった町では、そんな彼女の吐露も虚しく溶けていくのであった。

               ■ □ ■ □


※本作は11月8日(金)夜開催の
『聖剣なんていらナイト』のコンセプト及びフライヤーの女の子から生み出されたジョークPR作品です。
実在の人物、団体とは一切関係がございません。

https://twipla.jp/events/635315

〜以下、1日で組んだ設定〜
<世界観>
◎ルイス王国
魔力と武力による統治の下、国民の平和と安寧を築き上げたが、20年ほど前に国境近くの《忘れられた墓場(ロスト・ダンジョン)》から剣聖イカロス・シュピーネの裏切りを綴った古文書が見つかり、超保守的な当時の国王による一声で、刀剣は不浄な物として扱われ、多くの刀剣が回収・廃棄される事態になった。以降、刀剣を所持する者はこの地ではカーストの最下層に位置付けられ、虐げられている。また、所持している者にも強い罰が与えられる。


◎トウヤタ自治区
刀剣が回収・廃棄されるルイス王国内で唯一刀狩りを免れた自治区であり、現在も断固として拒否している為、軍も手を焼いている。この地区から優秀な武人が多く輩出されているため強制排除ができないとされている。


<人物>
◎クロノス・アッシュベルト
ルイス王立魔法学院に通う生徒。
魔法の才がないわけではないが、どうにも調整が効かない傾向にあり、出力オーバーを起こしたりする。
※これは、自身の『蒼炎』の属性を認識していない為である。
魔術の基礎は自身の属性を理解することが基礎となる為、理解できていないクロノスは度々魔力調整が疎かになってしまう。

勉学のやる気はほどほどしかない為、日々テストは落第ギリギリ。

物語が進んだ後
使用魔法は『蒼炎』の属性(レア)
柄から先のない剣二つを持つ。
柄から先に蒼炎を出現させ、敵を斬るのではなく焼き払う・焼き斬る特殊な戦闘スタイルを持つ。

◎セイナ・イーグリット
本作のヒロイン(見た目のイメージ:フライヤーの女の子)
ルイス王立魔法学院に転入してきた女の子。
かつてこの地にいたと言い伝えられる剣聖イカロス・シュピーネを奉るアークプリズム教団の信仰者の両親の間に産まれ、剣聖が扱ったとされる聖剣・ファンタズムの情報を握っていると噂される人物。
本人は聖剣について何も知らない。
使用魔法属性は『炎』と、親から授かった愛剣・ヴァナディスを使用。
名前の由来は「聖ナイ」

◎シャーリー・フォン・ロックハート
礼儀正しく真面目なお嬢様。
この国に存在している魔法一家ロックハート家の一人娘であり、将来の跡継ぎ予定者。ルイス王立魔法学院創立以来のトップクラスの秀才。
使用魔法は『氷』の属性

◎ヒジリ・クラウベル
トウヤタ自治区の事実上の長。モモカ・ティラタップの師であり、現在の世では並ぶ者がいないと言われるを剣の腕を持つ人物。現在は温厚な性格ではあるが、かつてはさすらいの身で国中の強者と対戦を挑んでいたとされる。
モモカ・ティラタップにかつての自身の愛剣・ヒテンを授ける。

◎モモカ・ティラタップ
トウヤタ自治区在住。
刀剣至上主義+刀剣マニアでその辺の歴史に詳しい女の子。(刀ナイフライヤーの女の子イメージ)

師であるヒジリ・クラウベルに捨て子であった時期に拾われ、それ以来恩に感じ、トウヤタ自治区に骨を埋めるつもりで日々を過ごしている。
本人はもっぱら肉体派だが、魔力も十分に備わっており使用魔術は『風』の属性。
愛剣・ヒテンの刀身に「やさしく」触れることで『風』の属性を付与し、臨機応変に戦闘を行う。
※やさしく触れることが、武器に属性を付与するに辺り、ヒジリの教えの基本かつポリシーの為意識して守っている

◎ラン・コーネリウス
名前の由来は香◎。
名前だけ決まってるらしい。

◎アリス・ルナリム
ルイス王国の治安統率機構《人々を導きし船》(通称:ノア)の最高権力者。
見た目はただの金髪ロ◎。
時折魔法学院を訪れては生徒にちょっかいを出して帰る。

ここまで考えたけど続きはありません。多分。


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