かが・のと百物語(2)猿鬼はどこから来たのか、そしてどこへ行くのか/峰守ひろかず

 前回は猿鬼退治譚のバリエーションをかいつまんで一通り紹介することで、「退治される悪役」としての猿鬼の定着っぷりを見ていただきましたが、今回は猿鬼本人(本猿?)の掘り下げです。

大幡神杉伊豆牟比咩神社蔵「猿鬼退治図額」(1854)。左にいる赤いものが猿鬼。
(石川県立歴史博物館にて、筆者撮影)

1.猿鬼はどこから来たのか

 古今東西、人気のあるキャラは善玉悪玉問わずエピソードが足されるのが世の常ですから、あれだけ人気のある猿鬼の場合、当然のようにその出自を解説する話も語られています。いわゆるエピソードゼロ(エピソード1?)ですね。
 誰と戦ったのかについては山のようにバリエーションのある猿鬼ですが、幸い、出自についての話のパターンはそこまで多くありません。というか退治譚に比べると出自譚は事例自体が少ないんですよね。

 話の舞台もおおむね限られており、どこかと言えば輪島の大西山です。とはいえ、そこに伝わる話も一つではないのが猿鬼の一筋縄ではいかないところでして、まずは猿鬼前日譚のバリエーションをご紹介いたします。

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