囲炉裏/藤本透
わたしの上にはいつも板のお布団があって、一年のうちのほとんどを眠って過ごします。
わたしが起きるのは、一年のうち二回ほど。
二回ともたくさんの人たちがわたしを囲んで、とても楽しげな笑顔を見せてくれます。だからちっとも淋しくありません。
ほら、今日もわたしの上の板のお布団が取り除かれました。
冬の冷えた空気が流れてきますが、気になりません。いつものおじいさんが、赤くぱちぱちと弾ける炭を入れてくれるからです。
久しぶりに見たお家の中には、小さな子どもさんが増えていました。普段は離れて暮らしているお孫さんでしょう。
きっと「里帰り」なのでしょう。
神様棚は、大掃除が行われたようでぴかぴかです。
秋に見た時とは違う新しい紅白の「ほうらい」が飾られています。
赤色の紙の上に白い切り紙細工の紙を重ねた「ほうらい」には、「福寿」という文字と、宝船。
蝋燭も灯り、柔らかな光に照らされています。
「この家には、お仏壇と神様棚、火の神様、水の神様、大黒様がおるんやぞ」
お孫さんにそう教えながら、おじいさんがまるいお餅をわたしの縁に置きました。
わたしも火を扱うので、火の神様というわけです。
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