【シロアリのロイヤルフード】シロアリ女王の食事の成分分析に成功したぞ
ロイヤルフードには、シロアリの王と女王が活動的長寿を実現するために必要な機能性分子が含まれていることが明らかになりました。この研究は、生物の老化・寿命を制御する代謝機構の理解を深めるだけでなく、人間の健康寿命の延伸に関する医学・健康科学分野の研究開発においても重要な示唆を与えるものです。
シロアリは、社会性昆虫として高度な分業システムを確立しています。コロニー内では、繁殖する個体(王と女王)と労働する個体(働きアリ)で役割が分かれており、それぞれの個体は形態や生理的特徴だけでなく、遺伝子発現パターンや代謝なども異なっています。一般的に、生物は活発に活動するほど寿命は短くなるというトレードオフがありますが、シロアリでは最も活発に繁殖する王と女王が最も長寿であり、このトレードオフを打破しています。その秘密は、働きアリから口移しで受け取るロイヤルフードにあります。
しかし、シロアリのロイヤルフードについてはほとんど知られていませんでした。その理由は、王や女王を大量に採集することや、微量な給餌物を採取・分析することが非常に困難だったからです。そこで、本研究では、シロアリの王と女王への給餌を観察し、ロイヤルフードの採取と分析に世界で初めて成功しました。その結果、ロイヤルフードにはアセチル-L-カルニチンなど複数の機能性候補分子が含まれていることが判明しました。これらの分子は、シロアリの王と女王が活動的長寿を実現するために必要な代謝調節や抗酸化作用などを担っている可能性があります。
さらに、本研究では、働きアリが採餌したセルロースからロイヤルフードが作られる過程や、コロニー内で個体間代謝経路が形成されていることも明らかにしました。これらの知見は、シロアリの社会性進化や長寿代謝機構の解明に貢献するだけでなく、他の社会性昆虫や人間を含む生物全般の老化・寿命制御メカニズムの理解を促進することが期待されます。
本研究成果は、2023年7月4日に国際学術誌「PNAS Nexus」にオンライン掲載されました。
本研究では、シロアリの王と女王の食物であるロイヤルフードの採取・分析技術を開発し、その化学成分と生合成経路を明らかにしました。また、シロアリの消化管の構造と機能の違いをマイクロ CT により解析し、シロアリ社会における採餌と消化の役割分担を明らかにしました。以下に具体的な手法と成果を述べます。
まず、野外でヤマトシロアリのコロニー(巣)から王と女王を採集し、ガラス製の容器で飼育しました。この容器は行動観察とロイヤルフードの採取に適した構造になっており、働きアリが王と女王に給餌する様子を詳細に観察することができました。働きアリは王と女王を識別し、食べ物を選択的に与えていることが分かりました。王・女王それぞれに給餌中の働きアリから直接ロイヤルフードを採取することに成功し、LC-MS/MS分析(液体クロマグラフ質量分析)により、シロアリの王と女王の食物が異なる成分組成であることを突き止めました。ロイヤルフードの成分にはスフィンゴ脂質、ジアシルグリセロール、短鎖ペプチド、タンパク質などが含まれていました。
次に、安定同位体( 13 C)標識したセルロースを働きアリに食べさせ、DESI-MSI(脱離エレクトロスプレーイオン化-質量分析イメージング)により 13 C 標識物質を追跡しました。セルロースからロイヤルフード成分であるホスファチジルイノシトールとアセチル-L-カルニチンが作られ、働きアリの経口給餌によって女王の体内に移行することが確認されました。つまり、シロアリの個体間に存在する代謝経路を介して、ロイヤルフードが作られ、渡されていることが分かりました。
最後に、マイクロ CT(昆虫など小さな生物の内部構造を非破壊的に三次元的に可視化する装置)を用いた消化管の構造の比較では、王・女王と働きアリの間で中腸と後腸の体積比に顕著な違いがありました。働きアリは共生微生物を保有して木の分解を行う場である後腸が大きな割合を占め、一方、王・女王は栄養吸収器官である中腸が大きいことが分かりました。採餌と消化の役割分担が基盤となり、労働と繁殖の分業システムを支えていることが明らかになりました。
社会性昆虫の繁殖虫の食べ物は、高い活動性と長寿を実現しているため、機能性成分の宝庫です。ミツバチでは女王になる幼虫に与えられるロイヤルゼリーがよく知られており、その生物学的・医学的・健康科学的な意義や応用が盛んに研究されてきました。本研究によって、シロアリのロイヤルフードという新たな研究領域の扉を開くことが出来ました。本研究グループが構築したロイヤルフードの採取・分析技術や化学成分データベースを用いてさらに研究を進めることにより、ヒトの健康長寿にも貢献する新たな機能性成分や情報を得ることが期待されます。
BingAIで作成
働き蜂が女王蜂の育成のために作ってくれるロイヤルゼリー。特別な餌を摂取して、女王蜂は大きくなっていく。その恩恵にあずかりたいと人間もロイヤルゼリーをありがたがる。ロイヤルゼリーは働き蜂が花粉や蜂蜜を食べて体内で分解と合成し、アゴの咽頭腺や唾液腺から分泌される物質。
成分はビタミンBやアミノ酸を含むタンパク質、いくつかのミネラルや葉酸、などが含まれている。古くはヨーロッパの各国で1900年代より本格的に行われており、当時のローマ教皇が危篤状態に陥った際にロイヤルゼリーを投与したところ回復したという。
と言うことがきっかけで、蜂の分泌物がこんなに人気になってしまったけれども、今回の研究でシロアリのロイヤルフードがどれほどの薬効が確認できるだろうか。
シロアリというとちょっとイメージが悪いけれど、古くから親しまれているロイヤルゼリーに対する新たなスーパーフードがサプリ棚に現れるのかな。
昔から養蜂家がいるけれど、養蟻家なんて、職業が現れるかもね。