同人即売会やDJイベントの取材者が増えない理由

 なかなか執筆の時間が取れないのにいろいろな締切が迫っているので、アインニュイでニヒルを通り越してはっきりと不機嫌なParsleyです。ごきげんよう。

 これでも『コミックマーケット』だけでなく、サークル数が二桁の小規模イベントや、DJイベントなどに関して、かなりの数をこなしている身ではあるのですが。というか、日本で一番この手の取材をして、記事にアウトプットするところまでやっているという自負があるわけなのだけど、これは単に他の人がやっていないからなんですよね。

 で、なんで結構ムーブメントになるとわかっていても、この手の取材者が増えないかというと、トラブルのリスクが大きすぎるから。端的にいえば、撮影や名前を出したくない、といったトラブル。仮に主催者に許可を得たとしても、あとからさまざまなクレームがやってくること、多いんですよね……。

 あるDJイベントなど、主催者だけでなく出演DJや許可を得たレイヤーさんすべてに撮影の許諾を一言かけていたのに、記事にした途端、「写真が出るなんて聞いてない……」みたいなツイートがやってきて、こっちとしては「はぁ(溜息)」ということがあったりもします。こういった、「許諾書用意しないとダメか?」みたいな案件、ほんとうに多いんです。

 ほかにも、全景写真の片隅に5mm程度写った一般参加者から「肖像権ガー」みたいなクレームがやってきたことがあって、「ありえないだろ」というようなこと、ザラにあります。あのね、「肖像権」を規定した法律って、日本には存在していなくて、人格権や財産権に基いて裁かれるものなのだけど、人格権はそれが名誉毀損に当たるものでない限りは認められないし、その名前が有名で誰でも知っている人ならばさまざまな判例が出ている「パブリシティ権」にしても、無名の人が写っていることで何の商業的価値があるの、という話になるわけですよね。つまり、「肖像権」が何であるか理解せずに、クレームが送られてくること、本当に多いわけです。

 同人即売会にしても、DJイベントにしても、いわゆる「身バレ」があって不利益を被る、という場合に関しては「配慮」をするのが望ましい、ということは、僕自身もかれこれ8年くらいこの手のイベントを取材しているので、重々承知したうえで臨んでいます。これすら取材者にとっては「面倒」なので、なかなか取材をするメディアが増えず、同人イベントでコスプレイヤーばかりの記事ばかりが上がる理由になっているわけですが。

 まず日本の法律の立て付けとして、表現の自由は公共の場では個人の権利よりも上に置かれているという事実について、踏まえていない人が多いなという感想を個人的に持っています。その上で、先述した人格権および著作人格権の話になるわけですが、前者に関しては「社会正義に照らして許容できないレベルのものに対して認められる」ものであるのでほぼ認められない。写真に著作物が写った際には「著作者人格権」に抵触する可能性があるけれど、その際には写っているものが著作物(この場合は頒布物やポスター)まる写しといった場合ならば問題になる可能性があります。逆にいえば、写真のいち部分(たとえば1/4程度)ならば、撮影者=取材者の「権利」ということになるのが一般的と言えると思います。

 こういった法律上の知識は、多くのイベントの参加者は有していない。だからこそ問題になることが後を絶たないし、「面倒なことは最初からやめよう」という判断になるわけです。

 「自分たちが楽しんでいればそれでいい」ということならば結構。でも、その割には「なぜこのムーブメントを取り上げないマスコミはクソ」とか「頑張って出ているけれど(自サークルの)売上が上がらないのはナゼ?」といった話がよく聞かれたりします。そりゃそうだよ、と個人的には思います。前述のように、記事化して発表をするリスクが大きすぎるからです。イベントの主催者やオーガナイザーがメディア対応に慣れていないケースも多いし、それを重視していない人はさらに多い。取材者も人間なので、面倒を踏まえつつ、取材して、記事化して、さらにクレームの対応までしなければならないとなれば、二の足を踏むでしょう。

 それでも僕が同人即売会やDJイベントを取材し続けるのは、「この時代を切り取ってアーカイブにすること」に意味を見出しているからなのだけど。主催者あるいは参加者からの「隔意」あるいは「敵意」に遭遇すると、心が折れそうになることも事実だし、多くのメディアが取材しないという選択をしていることを「そりゃそうだよなぁ」と思うのも確かだったりするのです。

 ま、いずれにしても、僕は僕で興味を持ったことに対しては好きに取材して好きにアウトプットしますけれどね。そのための理屈やらは勉強しているし配慮やらは十分にしているし、そこからはみ出て「迷惑」感じる人の存在も知っている。それでも「出す」ほうを選んでいる、という話でした。


 


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