なぜ『いらすとや』は天下を取ったのか? あるいはメディアの立場でのイラストのお話
『ガジェット通信』で何度か紹介記事を配信させて頂いているはこしろさんが、「絵柄を増やすことのリスク」についてお書きになられていたので、ざざっとネットメディアの立場における「イラスト」の意味について個人的に考えていることをメモしておきたい。
自分がはこしろさんのことを注目したのは、『FF7』のクラウドを「新人フリーランス」として、どのように顧客を獲得したのか、というプロセスのイラストをTwitterで公開されていたことだった。
基本的に、絵柄のシンプルさは、ビジネスやライフハック系の記事と相性が良い。これまでの出版では実写風のイラストが多かった。2010年以降はラノベの表紙とアニメ絵の中間のイラストが参入してきているが、リソースが限られるネットメディアだとイラストに「そこまで予算つけられない」というのが実情だった。
そこの現れたのが、みんな大好き『いらすとや』。
今やまとめサイトだけでなく、そこそこ大手なネットメディア、果ては某アニメでも使われるように至っているわけだが、それは何も「フリー素材だから」「いろいろな種類のイラストが揃っているから」というのだけが理由ではない。絵柄にクセがなく、どんな内容のコンテンツにも違和感が少ないというのはもちろんなのだが、「誰もが使っていて、多くの人が目にしていて、絵柄に馴染みがある」という状況になったからこそ、そのイラストを使う意味が出てくる。今や手塚治虫先生や藤子不二雄先生、長谷川町子先生の絵柄に比肩する程の影響力があるとさえ思う。
『いらすとや』のブランディングと成長戦略は、次のように整理できると思われる。
①著作権フリーによって、多くの人にイラストを使ってもらう。
②絵柄を変えず、点数を増やすことによって、多くの人のニーズに応える。
③ネット上に『いらすとや』を使ったコンテンツが増えることにより、目に触れる機会を増やす。
④メディアなどの使用(露出)により、ニーズが拡大。
⑤ネットにおけるイラスト=『いらすとや』という図式の意識づけに成功。
同じようにその存在が認知されたものとして『現場猫』も近しいが、さまざまなシーンを用意して「絵柄」をブランド化させている『いらすとや』と、「ヨシッ」というポーズをする猫というキャラクターを派生させていくという『現場猫』では、アプローチの根本が違っているということを踏まえるべきだろう。
ところで、私自身は記事に『いらすとや』を基本的に使わない(他の『ガジェ通』のスタッフは使っているけど)。理由は他の記事との差異化を図りたいから。ただでさえまとめブログの記事とネットメディアの記事の区別がつきにくい状況なのに、同じイラストを使っているのではブランディング的に悪手だし、芸がなさすぎる。
なので、どれだけ『いらすとや』を使うコンテンツが増えて「シェア」が圧倒的になったとしても、「イラストレーター」にお願いする需要というのはなくならない。女性系のメディアならば、少女マンガ的なイラストが欲しいし実際に使っていたりもするのが好例だろう。
記事だけでなく、例えば動画のサムネイルなどによって閲覧数が左右される現在のネット環境では、画像選びはコンテンツの内容以上に重要性が増している。
それだけに、「絵柄」に特徴があるイラストレーターさんならお仕事が振りやすいし、企画などの趣旨への理解力がある方だとなおさら良い。だからはこしろさんが「絵柄」ではなく「派生」させるという考えはニュートラルだし理にかなっている。もっといえば「絵柄」こそがイラストの「ブランディング」になるということに自信をもってもらいたいな~と思ったのでした。