#劇団ノーミーツ『 #むこうのくに 』は未来のようで現代の物語だった
新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言により、公演の自粛に追い込まれた演劇界において、いち早く「何か出来ること」を探り、アップデートしている劇団ノーミーツ。TwitterやYouTubeを用いた短編の「Zoom演劇」が話題になり、初の長編作品『門外不出モラトリアム』で、大学4年間をフルリモートで過ごした学生たちの恋と葛藤を紡いでみせた。そこから2ヶ月という短期間で、二回目の長編となる『むこうのくに』が7月23日から26日まで生配信での上映がなされている最中だが、まずそのアウトプットの速さに驚かされる。
私は23日の20時からの上映を観劇させて頂いたので、ネタバレにならない程度の感想をメモしておきたい。
現実世界と仮想世界が入り交じる2025年の世界を舞台にした『むこうのくに』。仮想世界の『ヘルベチカ』には、観劇した人があたかもその空間に参加しているような絵作りがなされている。完全にZoomにより現実での繋がりが隔絶された社会を題材にした前作よりも、コメント欄の上に投票により質問への「気分」を投票できる仕掛けがあり、「参加型」という要素が強まった。「投票」と言っても、あくまで「感情の共有」であり、何かを「決定」するわけではない、という社会像が興味深い。ある意味では、現在のSNSでの「アンケート」が大掛かりになったものだと捉えることも出来そうだ。
このシステムについて、えふしんさんは次のようにツイートしている。
単に「オンライン会議システムを使ってフルリモートでやりました」というところから、約二ヶ月でここまでの世界観を既存のサービスを組み合わせることによって、5G以上の通信環境が整備され、AIの学習機能が向上した社会の、ひとつの形を見せつけた、ということだけでも、意義はあるし一見の価値は確実にあるように感じる。
とはいえ、物語自体は「友達がいないからつくりたい」という一人の青年の想いからはじまる。これは、外出が「気軽に」できなくなった2020年の現在ともシンクロするし、もっと以前からの「孤立」をテーマにしていると捉えることもできるだろう。ある意味では語り尽くされたように思えるストーリーであるけれども、それを「アバター」ならば交流することができる人がいるというのは、SNSなどを匿名で使って「ペルソナ」を被っているアカウントに溢れている「現代」のメタファーでもある。当然、そこにはハレーションも起きて、理想と現実の乖離も描かれているあたり、何よりも脚本が誠実だと思った。
劇団ノーミーツは、「新しい演劇」のひとつの形を見せている。ただし、それが生の公演の「アンチテーゼ」ではないということも強調しておきたい。あくまで「新しい舞台の方法」を示しているので、今後は舞台とオンラインをミックスさせた手法なども想定できるだろう。観客に対してストーリーと世界観、演者さんたちの熱量を届ける手段が増えたということが、何よりも重要だろう。
『むこうのくに』に関していうならば、キャストが多彩で、アバターを活用して非現実感を演出している一方で、議員役の浅場万矢さん・青山郁代さん、刑事役の渡辺芳博さんといった実力のある演者さんを配して、「生っぽさ」「舞台っぽさ」を絶妙に活かしているように感じられた。繰り返しになるが、オンラインとオフラインを対立する概念のように見せて、混在させていく演出は、「2020年現在の演劇」として記憶にも記録にも残されて欲しいと思うので、未見の方はまだ間に合うので体感してほしいな、というのが率直な気持ちだ。
最後に、DJめがね役のめがねさん。この世界の語り部という大事な役回りを絶妙なテンションで演じていらっしゃったし、この作品が「演劇」だということを見る側に理解させて没入させる役割を果たしていた。『門外不出モラトリアム』では学長役の浅場さんが似た立場をこなしていたのだけど、めがねさんもそれを世界観に沿う形で自然にこなしていたのが印象的だった。これから観る方はぜひ注目してほしい……といっても、間違いなくチュートリアルで彼女に触れることになるのだけどね!
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