【今日もデニーズで】病むこと病まれること

 僕はファミレスの中ではデニーズとロイヤルホストが好き。どちらもホットケーキが美味しいというのがあるのだけど、ファミレスにはファミレスの「特別感」が必要で、両者にはそれがまだ残っている。子どもの頃憧れていた場所や食べ物を、好きな時に行けて好きなものを食べれる、というのは大人の特権として許されてしかるべきだろう、と思うのだけれど、デニーズにしろロイホにしろ、ハンバーグひとつパフェひとつにあの頃の憧憬を食べているのだと実感して、歳をとることも悪いことばかりでない、とつくづく感じるわけだ。まぁ、主に行ってやることは込み入った原稿なのだけど。

 幸い、近所にデニーズがあって、そこに入り浸ってドリップコーヒーを何杯も飲むのが常な僕ではあるのだけど、これだけ通っていると「常連」が誰なのか、だいたいわかってくる。僕のようにPCを広げてデータとにらめっこする人もいれば、これから入稿するゲラを確認している人もいる(近所に同人誌印刷所があるのだ)。

 そんな常連の中でも、僕が気がかりに感じる父娘がいる。父のほうが80歳前後、娘のほうは60手前くらいだろうか。なぜ気になるのかというと、娘の方が父の一挙手一投足に対して、「なんでそんなことするの!?」「それだから困るのよ!」といったクレームをつけ続けているからだ。

 どうやら父親の方は徘徊癖があるようで、深夜にこの父娘に出来わすこともあった。周囲が何らかの作業や勉強、もしくは眠ろうとしている中、娘のなじる声が響くのは異様な印象を与えると分かろうものだが、娘にとっては父を「しつける」ことが何よりも重要なことのように見えた。

 ある朝、僕がモーニングを食べがてら作業をしようと奥の席に陣取ると、例の父娘が絶賛説教中だった。朝からご苦労様、と心で皮肉をつぶやきつつホットケーキにバターを塗ってシロップを染み込ませていると、おもむろに娘のほうが袋を取り出し「今飲まないといけないでしょ?」と絡みながら薬をいくつか開けだした。おそらく10粒近くはあっただろうか。

 それまで、僕が父のほうが「病んでいるのだな」と思っていた。それはおそらく間違っていない。しかし、より病んでいるのは娘のほうなのだと、なんとなく悟ったのはその時だ。

 もう一つ、この父娘がデニーズにいる時は、いつも一緒にいるというのも病むスパイラルに陥っている理由なんじゃないか、と思ったりもした。はたから見ていると、ふたりで世界が完結している。それ以外の登場人物がまったく存在してないかのように、ふたりとも振舞っている。

 今夜も、娘が口うるさく父の態度に文句をつけているのを耳にしながら、ふたりがどうしてこのような日常になってしまったのか、ちょっと考える。考えたところで、推し量りようもないので、ヘッドフォンからいつもより音量を大きくして、僕は自分の原稿へと意識を戻すことに専念した。これがこのデニーズでのありふれた光景。誰もが疑問を差し挟まない光景だと思いながら。


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