そもそもメディアで食べていくのは超大変だというお話
ここのところ天候不順で、頭痛持ちの身としてはかなりキツい日々だった。それに伴って気分も乱高下を繰り返して、パフォーマンスを保つのが精一杯。みんなどうやって体調を維持しているのかマジで不思議なのだけど、こればっかりは他人は他人で、自分は自分だと受け入れるしかない。幸い、昨年の今頃と比較すればむっちゃ稼働できているし……。
さて。弁護士ドットコムニュースで高橋ユキさんがウェブライターの報酬問題とウェブメディアの収益構造に関する記事を拝読して、頷ける部分とそうでない部分が半々といったところだったので、メモがわりにざざっと記しておきたいと思う。
まず、クラウドソーシングサイトでのライティング案件で文字単価が1円を割る案件が未だに多数あるのは事実で、多くのウェブメディアが広告頼みのビジネスモデルで原稿料を上げられないというのもおおむねその通りだろう。あ、細かい点だけど「SEO案件」で受注した仕事をさらに単価を下げて再発注というのは大手のクラウドソーシングサイトでは禁止するようになったし、非常にグレーなケースがあるから注意が必要だろう。
ところで、この記事では低単価案件が問題視される端緒として2016年の『WELQ』の騒動に触れているけれど、その時に「1文字1円ライター」の存在がフォーカスされたに過ぎず、それ以前より稿料の低い案件なんて山ほどあった。これも以前に書いたが、2005年前後には「ブログ執筆」とか「メルマガ執筆」とかで1本300〜500円みたいな求人はゴロゴロあった。
一連の記事では、「紙よりウェブの方が単価が安い」といった論調で進んでいるが、これもピンキリだし、いささか単純化しすぎているように感じる。例えばコンテンツ広告の案件ならばウェブでも原稿料が6桁行くだろうし、紙媒体でも発行部数が少ない媒体だと報酬なし(!)という場合がある。ある文化誌が原稿料安くて執筆者の間で「1◯◯(誌名)」という単位で呼ばれていたという笑い話があるが、自分など「◯千円もくれるのか」と思ったものだ。
また、紙媒体出身の編集者が手取り足取り教えてくれて執筆にまつわる準備をしてくれる人ばかりではない。自分が請け負ったある案件では、編集で「てにをは」の校正をしてくれたのみで、取材先への確認などの一切合切を投げられて「報酬に見合わないな」となったこともある(むしろそういう方が多いまである)。
ここの記事で登場する「企画」という言葉も厄介だ。どんなメディアの編集だって、媒体特性に合致した企画に飢えている。が、持ち込みの企画は大抵の場合はライターが「やりたい」ことが書かれていて、お互いをすり合わせる時間的なコストを見積もると途方もないことになる場合も多々ある。個人的には「書きたい」ものは「『note』で出せばいいや」となるのだけど、多くのライターにとって、「熱意」を持って取り組める「企画」を持ち合わせていないことの方が多いのではないか、と思わざるを得ない。
ライターのキャリアパスとしては、編集/ディレクターを兼ねて、大学や専門学校の講師にありつく。あるいは自分で独立してメディアやプロダクションを立ち上げるといったものが挙げられる。もっとも、これらを登りきれる人は、ほんの一握りだろう。少なくとも自分は半ば諦めている(笑)。
これもどこかのタイミングで記したのだけど、紙媒体で企画を練って、取材をして、それを執筆して、さらに編集のフィードバックを得て、加筆修正をして出版物として世に出るという工程が「マラソン」だとするならば、Webメディアの企画から取材、執筆、WordPressなどへの入稿、公開の作業までを高回転でまわすのは「短距離走」なので、時間軸がまるで違う。
仮に1本20万円で紙媒体のお仕事に1ヶ月まるまる使うのと、1本3000円の記事を月に100本書くのとどっちがラクか、といえば人によるのではないか。自分の場合はどちらも経験したことがあるので案件ごとに対応できるが、「どっちかしかできない」というのだとそりゃキツいな、と思う。「紙よりWebが厳しい」と感じている人は、ここのギャップに戸惑っているケースが多いようにも感じる。むしろWebで短距離走を繰り返していた人が紙媒体に行った方が時間的な余裕が与えられる分だけアジャストしやすいかもしれない。
これは自分のところに「ライターになりたい」と相談された時に必ずする話なのだけど、本業一本でやりたいのか、それとも副業でいくらか経験してみたいのか、月/年いくら稼ぎたいのか、ジャンルを選ぶのか選ばないのか、それによっても向き合い方が変わってくるということ。
仮に本業としてライターあるいはメディアでお仕事したいならば、ジャンルを選べるというのは幻想だから、とりあえず今の仕事は辞めずに自分でブログを書いて、誰かの目に止まるのを待つというのが最適解になるよ、という話になる。
あるいは、月40万稼ぐことを目標に設定するならば、1本1000文字の記事を月100本書く力を養い、その上で編集/ディレクターの仕事のやり方を学んで、オウンドメディアの立ち上げに関わるといったキャリアをひとまず想定することになるだろう。いずれにしても、最初から1本で諭吉さん以上の原稿料を貰えるということは、よほどの著名人でないとあり得ない。
おそらく、高橋さんとしては、ライター1本で生きていけるのか不安が残る多くの同業者を代弁し、広告依存の強いメディア構造について課題意識を喚起したいのだと推察するし、そこは自分も共感する部分が大きい。とはいえ、メディア側も無い袖は振れない状態なので、現状にアジャストしつつ「請負業者」としての権利を主張していく、というまったくもって面白みのない結論に落ち着いてしまう。
まぁ、弁護士ドットコムニュースもオウンドメディアだし、Web媒体としてはまだ体力がある方なので、そういったメディアでのお仕事をいかに取ってくるのか、というのが短期的な処世術としては有効。要は、闇雲にお仕事を受けるのではなく、掲載メディアのビジネスモデルや経営を精査した上で選べるくらいには実力を付けていくためにはどうすればいいのか、ということを考える必要があるのではないかしら。
と、つらつら書き連ねてきたけれど。どんなライター/編集のお仕事にもそれぞれに楽しさがあって、他のお仕事では得られない学びや気付きがそこら中に転がっている。それを丁寧に拾っていける人ならば、どんな向かい風が吹きすさぶ中でも立ち続けることが出来るはずなので、あまり悲観しすぎずに毎日生きましょうね!