イエというシステム【台本】5話
ちえちゃん、男の子が生まれて安泰だねぇー
ってよく言われます。なんで?
【導入】
・結婚したら名字はどちら?
・農家は3兄弟の誰が継ぐ?世帯主は夫?妻?
なんで?
そう決まっているわけではないのに!
■よく聞きそうな言い分
・伝統的な日本の伝統。
・日本は、伝統的な単一民族国家であり、イエというのは代々続いてきたもの。だからこそ名字もイエも、代々長男が引き継ぐべき。
・動物的な性差は決まっている。男性が権威を持ったほうが都合が合理的だっただけ。優秀な人を取り入れたら男性が多くなっただけ。
今日は、その幻想をぶっこわす!
今日のテーマ
「イエというシステム」
【本題】
今回取り上げるイエは、建物の家ではない。共同体としての家
■イエって?日本の伝統的な「家」の特徴:農村社会学からの視点
イエは、人々の基本的な単位の一つ
①家は財産としての家産:例)農家や漁師などで想像しやすい
②家は先人である先祖を祀り、そして家は相続して、繁栄することを重視する。
→この「家」の定義に男女は出てこない。
鳥越皓之『家と村の社会学』世界思想社,1993年増版(1985年初版).
■いろんな家族の形があり、相続の方法があった
柳田國男「家の話」『柳田國男全集20』ちくま文庫.より引用
柳田國男「日本の先祖信仰の特徴は、死者が母系・父系のような血のつながりがなくても、養子や結婚その他の縁故があれば、祖霊のなかに入れられる」
姉家督:女性が家督を相続する。明治期にあった
末子相続:末っ子が相続する
→近世に見られた。
・なぜ末っ子が相続するのか?
長男・次男に開墾地を与える。そして末っ子が自然にもとの屋敷に戻る。
つまり、分割相続の一つ。
前田卓・奥村芳和「明治初期の姉家督慣行の諸形態」『関西大学社会学部紀要』6巻2号.
柄谷行人『世界史の実験』岩波新書.
■近世の農家の人たちの男女
女性は、ヌシ、オカミ、などと呼ばれて、権威を持っていた。
主婦が一家を仕切っていたのは、イエが労働組織だったからである。
農村における伝統的な家というのは、
日本は双系制で、女性にも権力があった。
これを聞いて、実感ありますか?
近世における「イエ」と、近代に考えられている伝統的な「イエ」規範は、なんか一致していない気がする。
では、今考えられる家とはどこから来ている?
■近世において女性が権力を持っていなかった人たちもいる。
労働組織ではない武士のイエでは、女性が権力を持つことはなかった。
そして、この少数派の武家のあり方が、標準化されていったのが「近代化」
■なぜ武士の「家父長制」規範が、大衆化したのか?
明治期以降、天皇崇拝を進めるために、長兄に家督を相続させる大日本帝国憲法が作られた。
苗字の文化も武士のものであった。これが大衆に普及したのが明治維新以降。
伝統的な家というのは、明治政府によって作られた規範。当たり前の幸福というのは、人為的に作られた共同幻想。
川島武宜『日本社会の家族的構成』岩波現代文庫,2000年.
■まとめ
現在、みんなが幸せだと考え込んでいる家のあり方、実は明治から作り上げられたもの。
伝統的な家のあり方というのは幻想にすぎない。
幻想の幸せを追うのやめませんか?
私は、結婚式を挙げられなかった、学生結婚をして批判殺到だった。私の家族の在り方というのは実は普通ではない。歳の差だし、6歳下の息子がいる。噂が地域の中で回りに回って、自分にまで伝わったこともある。
周囲の目を気にして、本当に辛かった。外に出られなかった時もある。
しかし、知識という武器を身につけて、馬鹿げたイエの幻想に振り回されなくなった。
私は、今の家族のあり方が幸せです。
それが正解。
時代の変化とともに、結婚、子供、普通の幸せが普通でなくなってきた。
家のシステムなんて幻想なんだから、辛かったら追いかけるのやめよう!
これからの社会、どんなコミュニティのあり方になっていくのか…
わかりませんが、幸せを追い求めるために、コミュニティのあり方をじっくり考えて行きたいと思う。
[参考文献]
鳥越皓之『家と村の社会学』世界思想社,1993年増版(1985年初版).
柳田國男「家の話」『柳田國男全集20』ちくま文庫.
前田卓・奥村芳和「明治初期の姉家督慣行の諸形態」『関西大学社会学部紀要』6巻2号.
柄谷行人『世界史の実験』岩波新書.
川島武宜『日本社会の家族的構成』岩波現代文庫,2000年.
落合恵美子『21世紀家族へ:家族の戦後体制の見かた・超えかた(第4版)』有斐閣選書,2019年.
【編集後記】
家というシステムを、どのような学問の切り口から考えていくのかが、最初はとても悩んだ。
しかし、私は農学を学んできた身である。だから、農学の視点から考えるということを選んだ。
他にも女性学からの視点や家族社会学からの視点、歴史学からの視点、いろいろあるだろう。しかし、私は民衆に視点を当てた学問が好きだ。台本を作りながら、そのことがよくわかった。ちなみにこの家というシステムについて語り足りない部分がまだまだたくさんある。違う機会でまた話していきたいと思った。
まずは、私の盛大なテーマにお耳をお貸しいただき、ありがとうございました。