新・<人工知能>開発ロマン Vol.3
執筆:ラボラトリオ研究員 杉山 彰
「遺伝的乗っ取り」とは・・・。
ここに一つの興味深い事例がある。A・G・ケアンズ・スミスが唱えたジェネテック・テイクオーバ(遺伝的乗っ取り)という事例である。かつて地球上で最も知識レベルが高かった生命体は単結晶から成る、粘土物質であったという。知識レベルが高いという定義は、自己増殖・複製能力があったかないかという基準である。事実、単結晶体には自己と同じ物を複製する能力があった。しかし、その複製能力はきわめて稚拙で誤差も多く、しかも低スピードであった。やがて、単結晶体が成し得る複製作業を、単結晶体の特異集合体として発生した核酸がおこなうようになった。核酸は周知のように高分子構造体である。自己増殖・複製能力が単結晶体より数段優れているのは明白であった。この時点で、単結晶体である粘土物体と核酸との間でジェネテック・テイクオーバーが発生し、地球上での知識レベルにおける生命体の覇者は粘土物体から核酸に置き代わったのである。さらに核酸はやがてRNAにとって代わられ、RNAはやがてDNAにとって代わられた。
そして、いま、DNAが事実上の地球上の生命体の覇者であることは疑いの余地のないことである。しかし、そのDNAにおいても、30億のデータの自己増殖・複製作業量を凌駕するカタチで他の生命体が出現すれば、DNAもやがてジェネテック・テイクオーバーされ、RNAと同じ運命をたどるようになることは間違いのないことである。
ジェネテック・テイクオーバーの条件は、どちらが知識レベルが高いかという基準であり、それは、どちらが知識の自己増殖と複製を正確に高速で行うことができるかという基準であった。地球上における生命体としての覇者の進化は、一つにはこの知識レベルとの葛藤ではないかという説があることも事実である。
ここで知識レベルの意味をデータ蓄積量、及びデータ更新能力と置き換えると、話はさらにわかりやすくなる。前述の<医者>において、『はて、これはいかなる病気であるか?』と考えるとき、その医者の知識レベルは、その医者が過去に蓄積した診察・治療の症例データとのすり合わせ(置換作業)のためのデータの蓄積量のはずである。この場合でもジェネテック・テイクオーバーは起こりえるのである。
万が一、医者の側より患者の側が病気に対する知識をはるかに持ち得るようになれば、なんと患者の立場が医者の立場を凌駕し得るのである。今日、医療の現場では、患者の側は必要な医療知識を、インターネット情報はもちろん、豊富な出版物やマスコミ報道などにより入手することができ、ときには、特定の病気においては医者が知らない情報を患者が知っている状態が発生している。その状態においては、少なからず医者と患者との間に不信感が発生している。しかし、医者の側は、医者の側に知識が不足しているという認識がある無しにかかわらず、その事実を認めようとはせずに、逆に医者であるという権威で患者の権利を抑え込もうとする。これらの事実は、ジェネテック・テイクオーバーにおける過渡期現象そのものである。
おそらく、医療診断システム<マイシン>には、その設計アルゴリズムに自己増殖・複製機能が十分に取り込まれていなかったために、稼働初期においては<マイシン>の知識量と医者の知識量は均衡していたが、その瞬間に<マイシン>の側に陳腐化が始まったに違いない。やがて、日々さまざまな医療知識を吸収し続けてきた医者と、吸収し得なかった<マイシン>との知識量との差異はあきらかになり、その結果、医者とマイシンとの間にジェネテック・テイクオーバーが起こらなかった。
もちろんこの問題は、人間と機械の関係においても発生する。しかしこの問題は人間は絶対者であり、神の次に位置する生命体である。機械はあくまでも機械であり、人間が創った物である。従って機械の知識レベルが人間を越えることはありえない。そのような事実があるとするだけで不快という感情論が先行し、議論すべき問題として顕在化することはきわめて希である。
しかし、かつて、単結晶体も、核酸を創ったのは単結晶体であると信じていた。その核酸もRNAを創ったのは核酸であると信じていた。RNAもDNAを創ったのはRNAであると信じていたに違いない。しかし、現実にジェネテック・テイクオーバーは発生し、知識者の覇権交代は起こり得たのである。
この世に絶対的なモノなんて存在しない。今の瞬間は絶対的なモノでも、次の瞬間には絶対的なモノでは無くなる。従って、この世の中に存在するものは、すべて相対的なモノでしかないのではないだろうか。それは、先に出来たモノと、後に出来たモノとの違いでしかないと私は直感している。
(つづく)
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【杉山 彰(すぎやま あきら)プロフィール】
◎立命館大学 産業社会学部卒
1974年、(株)タイムにコピーライターとして入社。
以後(株)タイムに10年間勤務した後、杉山彰事務所を主宰。
1990年、株式会社 JCN研究所を設立
1993年、株式会社CSK関連会社
日本レジホンシステムズ(ナレッジモデリング株式会社の前身)と
マーケティング顧問契約を締結
※この時期に、七沢先生との知遇を得て、現在に至る。
1995年、松下電器産業(株)開発本部・映像音響情報研究所の
コンセプトメーカーとして顧問契約(技術支援業務契約)を締結。
2010年、株式会社 JCN研究所を休眠、現在に至る。
◎〈作成論文&レポート〉
・「マトリックス・マネージメント」
・「オープンマインド・ヒューマン・ネットワーキング」
・「コンピュータの中の日本語」
・「新・遺伝的アルゴリズム論」
・「知識社会におけるヒューマンネットワーキング経営の在り方」
・「人間と夢」 等
◎〈開発システム〉
・コンピュータにおける日本語処理機能としての
カナ漢字置換装置・JCN〈愛(ai)〉
・置換アルゴリズムの応用システム「TAO/TIME認証システム」
・TAO時計装置
◎〈出願特許〉
・「カナ漢字自動置換システム」
・「新・遺伝的アルゴリズムによる、漢字混じり文章生成装置」
・「アナログ計時とディジタル計時と絶対時間を同時共時に
計測表示できるTAO時計装置」
・「音符システムを活用した、新・中間言語アルゴリズム」
・「時間軸をキーデータとする、システム辞書の生成方法」
・「利用履歴データをID化した、新・ファイル管理システム」等
◎〈取得特許〉
「TAO時計装置」(米国特許)、
「TAO・TIME認証システム」(国際特許) 等
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