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(小説) ゆらぎ(前編) 8.炭住にひびく労働歌・革命歌
8. 炭住にひびく労働歌・革命歌
「万国の労働者よ、団結せよ!」マルクス・エンゲルス『共産党宣言』
炭住の子どもたちは、大人がしていることを見ながら育つ。
赤ん坊の頃から、赤い鉢巻きをした母親に背負われて、赤旗の波の中の集会やらデモやらに動員されていたのだろうから、母親の自覚・意識とは全く関係ないところで、いや、時には正反対のところで、いわば、インターナショナルや、労働組合歌を子守歌代わりにして育ったことになる。炭住のこどもたちにとって、原風景なのである。
ヨチヨチ歩きの幼児たちも、必然的に、そんな歌を口ずさんだり、デモごっこしたりしてあそんだ。
巧の耳にも、いまだに残っている。
「燃やせ、燃やせ・・♪」
「立て、飢えたるものよ・・♪」
それと「あんぽはんたい、あんぽはんたい」
「ピッーピーワッショイ、ピッーピーワッショイ」
・・と、わけも知らずに、「ごっこ」遊びしていた。
集会やデモに参加した人なら分かるだろうが、言葉に言い表せないフィーリングと言うかパトスと言うか、ある種の集団興奮状態の熱気がある。
幼児だと、それがストレートに入り込む。
善し悪しの判断を超えた超感覚的な場所で、「赤旗」の意味する「本質的な何か」が、スポンジに吸い込まれる水のように、幼児の中に、巧の中に、すーっと、はいっていった。
それは、あたかも、放射性物質の体内被爆のように、炭住のこどもたちの一生に作用を及ぼし続ける。親の感情や意思とはまったく別のところで。