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『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』に感動

 アクションシーンにおける香港映画へのオマージュ、身体表現の振り付け、ストーリーラインの全てが1作目と2作目を超えた完成形だと思う。1作目と2作目があったからこその3作目という感じ。制作予算が増えたというのもあるが、おそらく監督のこのシリーズに対する扱い方、作り方がしっかり確立されたからかもしれない。まひろとちさとのシスターフッド感は継続されているし、お二人の身体の動きっぷり、銃の使い方には見惚れてしまう。伊澤彩織さんの地に足のついた戦闘術はジャッキー•チェンの『スパルタンX』のオマージュがあり、見ていて爽快だった。本当に動ける方なんだなぁと感動…ボクシングを主軸とした振り付けがリアリティを生み出しており、うまい。また髙石あかりさんの銃の撃ち方は素早くて、綺麗。魅了されてしまいますよ…
 そして何より、池松壮亮さんのキャラが常軌を逸しており、最高に狂っていた。控えめに言ってすごく好みのサイコパスだった。向上心と努力により殺しを日常にした結果、狂いに狂った姿は作品のシリアス度を非常に高めていた。まひろとちさとのパートはコミカルに描いていた分、そのシリアスな池松壮亮さんのパートのギャップには感動してしまった。緊張感もあったし。ただそのシリアスの中にもユーモアがあり、笑えるところがある。これが演出における凄さだった。例えば、かえでが拘りの日記手帳を見つけた瞬間や、クリームシチューを食べながら銃の手入れをするところ、血だらけになり仲間を一生懸命説得するところなど、彼のキャラクターから憎めない青年感とサイコパス感が良い方向で滲み出ていた。クスッと笑えて、愛おしいサイコパスという感じだった。自己顕示欲が強く、孤独で、完璧主義。このバランスがたまらない。まひろとちさととは対照的で良い味が出ている。悪役のキャラクター性がシリーズ一よかった理由はこれかもしれない。
 まひろとちさと以外に二人キャラが加わったのも新しい試みで好き。前田敦子とちさとのやり取りは、Z世代の社員と上司を見ているようで、コメディという観点でうまく機能していた。筋肉大好きマッチョマンは、どこか抜けているが優しく、推しキャラだった。プロテインを飲んでいる瞬間が愛おしくて好き!
 個人的にカップラーメンをテント内で食べるシーンはエモーショナルだった。今までのまひろとちさとの絆がより深まっており、二十歳を越える大人への移行が垣間見えた。現代風に言うこのエモさもアクション映画としてのバランスを見事に形成していた。
 撮影と技術に関して、贅沢な空撮ショットやbaselightを用いたカラーグレーディングもシリーズで1番、拘りと美しさを感じた。大作感が出ている。
 加えてショットの画角に北野武映画を感じた。途中、駐車場で自分を裏切った男を射殺するショットは引きで、日常の中の非日常という冷酷さを感じた。少しシュールな感じが逆に怖さを生み出しており、1990年代の邦画アクションを彷彿とさせる。殺し屋集団、ファームを全滅させた後、血だらけになった池松壮亮さんもアート映画に近かった。ちょっと目つきがバキバキで、これがまたいいんだよなぁ…以上、この作品は誰が言おうと間違いなく、今年1番の邦画アクション映画だと思う。

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