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【 ZINE REVIEW 】 COLLECTIVE エントリー ㊺ イデグチ マサヤ 『屋内母子』(鳥取県東伯郡)

江戸川区の平井時代から含めて約6年。パークで個展や展示に参加してくれた作家さんは数知れず。今でも交流のあるアーティストもいれば、引越しや義理を欠いたり、一緒に何かする機会もなく、なんとなく疎遠になってしまってる人も多々いるのも確か。音楽や飲食店をやっていた時にも感じてたけれど、人の流れって時期で変わっていくんだなって。中にはずっといる人もいるんだけれど、飽きるんだろうね。いつか通り過ぎてしまう(みんなどこに行ったんだろう)。作家だけではなく、いつものように通ってくれてたあんな人、こんな人、いろいろな人のいろいろなドラマがありましたが、多くの人はパークでの展示後にフィールドが広がり、その活躍の幅を広げているように思います。背中を見るのは寂しいなと思う時もあるけれど、お互いそれぞれまっすぐ道を歩いていれば、いずれ縁のある人とは会うのかなと思ってます。パークももっと帰って来たくなる場所になれるように、背筋を伸ばさないとなと思います。

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これは母と子の愛おしい日々の記録。ではない。

1年に1度の COLLECTIVE も、お盆の帰省みたいに作家が作品を持って帰ってくるような回になればと思う。今回紹介する ZINE『屋内母子』の作者でもあるイデグチマサヤくんも、パークで写真の展示をして、その後、フィールドを広げて行った人の1人。しかも活躍の『場』という意味のフィールドだけではなく、住む『場所』としてのフィールドを『鳥取』へ移住し、広げた。というわけで、ZINE『屋内母子』は記念すべき鳥取からのエントリー。2018年の3月に鳥取へ移住し、その年の COLLECTIVE 2018 には鳥取から参加。当時は日常を切り取ったスナップ作品が多かったけれど、移住後、世界的に名高い鳥取を誇る写真家・植田正治に魅せられ、演出写真へとシフト。2年ぶりの COLLECTIVE へのエントリーで、その進化が発揮される。

イデグチくんが鳥取ではじめたのは『ニューブッテ』というオルタナティブスペース。発展途上の小屋とされているが、展示ができたり、お酒が飲めたり、おでんが食べれたりする(まるで田舎のパーク!)。『屋内母子』は、7月にそんなニューブッテで開催された写真展の図録的な立ち位置の1冊。コロナ禍で STAY HOME を余儀なくされた親子が、不安と戸惑いの中で生み出した作品の連続。何もしないわけにはいかない、というエクスキューズが、ユーモア溢れる写真あそびへと転じていく。

植田正治がフォトジェニックな写真が撮れる近所の鳥取砂丘に家族を連れ出して(植田調と呼ばれる)写真あそびをしたように、コロナ禍では、家の中の砂丘のようなところを見つけ出して、フォトジェニックな1枚を切り取っていく。子は置物のように鎮座する。母は、まるで意思を失ったかのような表情をしているが、子への心配や、まだ首が座ったばかりであろう子への緊張感がそっと伝わってくる(バレてるに近い)。冒頭で「これは母と子の愛おしい日々の記録。ではない。」と言いながらも、これは母と子の愛おしい日々の記録、になってしまっている。ぬくもりのある藁半紙もそれを助長させる。誰かが言ってた「写真は時に言葉よりも語ってしまうよね」とは、まさにこのこと。

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もともとバイタリティとユーモアの塊のような人だから、こういう写真を撮らせたらおもしろい。植田正治もきっと「やってみちゃえ」と思って、いろんなこと投げ出してやっちゃってたこと多かったと思う。ギャラリーでおでんを炊こうが、酒を飲もうがいいのだ。「やってみちゃえ」という精神が切り開いていくカルチャーの連続の上にぼくらは立っている。上品にデザインされた行儀のいいカルチャーは経済は回すけど、感動は生まない。1度くらい踏み外さないと、想像外の世界にはいけない。

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イデグチマサヤの写真家としての一歩を見た気がする。これからが楽しみ。今後の成長を見越して、彼の才能にドネーションする感覚で ZINE を購入してみるのもいいかも。だって1冊200円(税別)。

そしてコロナが落ち着いたら、ぜひ鳥取はニューブッテで、パーク展を開催したい。待ってるよ!


レビュー by 加藤 淳也(PARK GALLERY)


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作家名:イデグチ マサヤ(鳥取県東伯郡)
ぼんやりと頭の中に漂っていたやりたい事をするべく、2018 年3月に神奈川県から鳥取県へ移住。2016年頃からスナップ写真を撮り始め、2018年に植田正治の影響を受け、演出写真を始める。ピントをほどほどに合わせて適正露光で撮れるようになるのが当面の目標。
https://www.instagram.com/idepp
【 街の魅力 】
東郷池と温泉がある町。ゲストハウス「たみ」を中心に老若男女が集うコミュニティーがあり、移住者も多く、住み良いとこ。
【 街のオススメ 】
① 汽水空港(書店) ... 店主のモリくんがとにかくすごい。お店は自分で建ててしまうし、自分の気持ちに真っ直ぐで、失敗したり、人に笑われても屈せずにやりたい事を実現する人。そんなモリ君の空想が実現している場所。
https://www.kisuikuko.com

② 寿湯(温泉) ... めちゃくちゃ熱い。男湯と女湯を隔てる壁のどこかにビー玉くらいの穴がある。店主のおっちゃんは一日の疲れを閉店後の女湯で洗い流す。
https://hikyou.jp/report/kyoudouyu/60694

③ hishito(ヘアサロン) ... カット台が一席だけの小さなお店。
カット前のカウンセリングがとても丁寧で、カット後に思っていたのと違うけど何も言えないという現象になりにくい。2階ではたまに展示などのイベントも開催される楽しい場所。
https://hishito.com


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