バイクで泳いでた、ような。
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疲れたー。もうかえろ。
うわ外暗、雨ふってるし。雨具ない。
でも大したことない雨だしプロテクターあるし。ぬれるけど、ま、バイクで帰れるな。
家まで40分。
バイクにまたがる。ジーンズびしょぬれだけどどうでもいいや。
エンジンかけてUターン。うわ、足ついたらちょっと滑った。怖いな。ぜったいコケたくない。
信号を抜けて大通りへ、ゆっくり左折。車の流れに合流する。
それは突然訪れた。いや自分はすでに、その中にいた。
あれ。
なんで。
なんだろう。綺麗。
いつもは表情を殺しているだけの殺風景な国道が、眼前で全く別のもののような姿をして輝いていた。
雨粒がアスファルトの上に反射する。すべての動くものたちが雨に濡れ、夜を灯す色々の光に照らされてほのかな光を放っていた。絶え間ない道路の動きは、ひとつの命を持つ綺麗な生き物みたいで、誰にも気づかれないように、たしかにそこに生きていた。
自分も、その一部だった。
バイクと一緒に、風景の一部になった。
全身で、身体とバイクに降りつける雨を感じる。
濡れた地面を走るバイクの車体とタイヤの動きに、いつも以上に神経を配る。
遠心力を感じながら、カーブの先へ。
意識するよりずっと前に、バイクと一体になって、夢中で、夢中で走っていた。
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気がつくと、家に到着していた。バイクを止めて、いそいそと自室に戻る。あとはいつも通り濡れた服を乾かしたり、シャワーを浴びたりして、なんのことはない日常に戻るだけだ。
揺らぐ感情というのは流動的で、この雨が止んだらさながら水のように蒸発してしまい、後にはその姿は残さないのだろう。だから、この気持ちをそのシルエットだけでも捉えて残しておきたかった。
なんだったのだろう。この不思議な感覚は、オートバイでしか感じたことがない。
憂鬱な雨も、バイクと一緒なら一体になれる。
雨とバイク、いいな。
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