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地域格差なんか怖くない!グラフで分かる家庭環境ベスト&ワースト4

Iターン、Uターンなどで地方に移り住んだ方であれば、教育の地域格差に対して不安を覚える人は一定数いるかと思います。

今回は、子供の学力達成度を高めるために家庭内環境をどのように変えれば良いのかをデータを使って解説します。参考にしたメタ分析の数は50本と多いので、紹介は一部割愛することになります。

効果的な方法ベスト4と、逆効果となるワースト4の合わせて8種類を解説していきます。

結論

早速ですが、結論を一枚のスライドにまとめました。

緑の棒グラフが良い影響を与えるもの、赤い棒が悪い影響を与えるものとなります。最も効果が高いのが

  • 親の期待

でした。一方で、学力達成度に最も悪影響だったのが

  • 体罰の多さ

となりました。

ちなみに、学力達成度を高めてくれる先生の特徴トップ10の記事で最も効果が高かったのは「教師による学力の推定と計画」でした。詳しくはリンクよりご確認ください。

それでは、まず初めにポジティブな影響の上位4種類だけをまとめてそれぞれ詳しく解説していきます。

ベスト4

上位4種類はそれぞれ

  • 親の期待

  • 家庭環境

  • 経済的な地位

  • 親の関わり

がメインとなります。家庭環境は「SES」などと表記されることが多く、この効果が高いことは知られていますが、それを上回るのが「親の期待」なのがとても興味深い発見でないでしょうか。

それぞれの根拠となるメタ分析の数、効果量とそれぞれの定義をスライドにまとめていますので見てみましょう。

1.親の期待

家庭内において、何よりも効果が高かったのが「親の期待」でした。これは各家庭の経済状況の条件を揃えてもなお、効果が落ちることはありませんでした。

つまり、貧乏だろうが金持ちだろうが「親の期待」はポジティブに効果を発揮すると言えます。

では具体的に、親の期待とはどういうことを指すのでしょうか?親の期待とは、自分の子供の学力達成度が向上することを期待し、信じることをいいます。

  • あなたならきっと出来るようになれるよ

  • 練習していれば、上手になるよ

など、才能に依存するのではなく努力を推奨するような働きかけで子供の成長に期待することをいいます。これであれば、今日からでも早速取り組めるのでお手軽に出来る一番の方法ですね。

  1. Phillipson, S 2013, Parental expectations: the influence of the significant other on school achievement. in S Phillipson, KYL Ku & SN Phillipson (eds), Constructing Educational Achievement: A Sociocultural Perspective. Routledge, UK, USA & Canada, pp. 87 - 104.

  2. Ebeling, M. (2019, October 24). Parental Educational Expectations and Academic Achievement in Children and Adolescents—a Meta-analysis. Educational Psychology Review, 32(2), 463–480. https://doi.org/10.1007/s10648-019-09506-z

2.家庭環境

続いて効果が高かったのが「家庭環境」でした。メタ分析の数は3本で、それらの平均を取れば効果は中程度となります。

この場合での家庭環境は次の通りです。

  1. 計算ドリルや赤本などの学習教材が豊富にある

  2. STEMや音楽など、知的好奇心を満たせるだけの学業刺激がある

  3. 親子の会話や読み聞かせなどが多い

  4. 親に会話スキル、対話の技術がある

  5. 親に受け入れてもらえているという安心感

  6. 安定した衣食住の提供、身体的な安全基地

など幅広い項目が挙げられます。どれも非常に重要なのは間違いありません。順位づけとしては、具体的なものから抽象的で普遍的なものの順に並び替えています。

例えば、ABは非常に具体的で学力達成度に焦点を当てた取り組みと言えます。一方で、EやFなどは子供の心身の健全な発達に必要となる土台に相当します。中間であるCやDは、土台をより強固にしてくれるとても重要なスキルとなります。

まとめると

  • ABは具体的な指導方針

  • CDは土台をサポートするスキル

  • EFは必要最低限の土台

となります。

  1. Iverson, Barbara K., and Herbert J. Walberg. “Home Environment and School Learning: A Quantitative Synthesis.” The Journal of Experimental Education, vol. 50, no. 3, 1982, pp. 144–51. JSTOR, http://www.jstor.org/stable/20151447 Accessed 7 Oct. 2022.

  2. Home Environment and Early Cognitive Development. (1984). Home Environment and Early Cognitive Development: Longitudinal Research. https://doi.org/10.1016/c2013-0-10749-0

  3. Boster, F. J. (2007, October). Dropping Out of High School: A Meta-Analysis Assessing the Effect of Messages in the Home and in School. Communication Education, 56(4), 433–452. https://doi.org/10.1080/03634520701413804

3.経済的地位

経済的地位(以降SES)に関しては、数多くのデータが揃っています。メタ分析だけでも16はあるので、それら全ての平均を取ると効果は中程度となります。

その中で代表としてベルギー、オランダ、アメリカ、中国からそれぞれ一本ずつメタ分析を紹介します。中身を見ていきますと国や発展度合いによってはSESが与える影響に差があることが分かります。

例えば、中国はSESによる影響を受けやすいですが、発展途上国はSESによる影響は小さいようです。中国の場合、お金持ちの方がより学力達成度を高めやすいということです。

これにはいろんな理由が考えられます。SESの低い家庭の場合、次のような問題を抱えています。

  • 子供が学校を諦めて、親の仕事を手伝うなどで稼ぐ必要がある

  • 子供が学校を諦めて、親の代わりに弟や妹の面倒を見なければならない

  • 親が精神疾患や薬物依存などが原因で収入が低く、家庭環境がそもそも劣悪

  • そもそも親子ともども能力が低く、稼ぐ力も学力も総じて低い

お金があると、余計なトラブルに気を使わずにのびのびと勉強に集中できることが大きな差に繋がるようです。

「スキルがスキルを呼ぶ」という原則をこちらの記事で解説しましたが、幼少期からそのスキルの醸成に手間をとってしまうと後々に差が開くことを考えると、SESの低さに悩まずに生活できていること事態が実は幸せなことなのかもしれません。

  1. Cascallar, E., & Kyndt, E. (2020, February). Socio-economic status and academic performance in higher education: A systematic review. Educational Research Review, 29, 100305. https://doi.org/10.1016/j.edurev.2019.100305  ベルギー

  2. Hooimeijer, P. (2015, July 24). The association between neighbourhoods and educational achievement, a systematic review and meta-analysis. Journal of Housing and the Built Environment, 31(2), 321–347. https://doi.org/10.1007/s10901-015-9460-7 オランダ

  3. Peng, P., & Luo, L. (2019, August 1). The Relation Between Family Socioeconomic Status and Academic Achievement in China: A Meta-analysis. Educational Psychology Review, 32(1), 49–76. https://doi.org/10.1007/s10648-019-09494-0 中国

  4. Cho, H., & Kim, L. Y. (2019, September 25). Socioeconomic Status and Academic Outcomes in Developing Countries: A Meta-Analysis. Review of Educational Research, 89(6), 875–916. https://doi.org/10.3102/0034654319877155 アメリカ

4.親の関わり

続いて効果が高かったのが、「親の関わり」でした。メタ分析の数も20本と多かったので、韓国、ドイツ、アメリカ、スペインからそれぞれ一本ずつ紹介するにとどめます。

「家庭環境」とオーバーラップする側面は多いため、違いだけをピックアップすると以下の通りです。

  • 親が学校の行事に参加する

  • 親が子供の学校生活の話を聞く

  • 親が子供の宿題をみる

これらだけに絞ると、家庭環境全般と比較すると効果は劣ります。

親が宿題をみるという面では研究によってはマイナスの影響を与えている報告もあります。一方で、日本国内であれば親が宿題を守ることで成績が上がっているというデータも上がっています。

相反するデータがある場合、その条件の違いを見ることは重要だと言えそうです。ですが残念ながら、詳しい条件の違いを見出すことはできませんでした。

少なくとも怒られながら宿題をやらされた子供と、親子で前向きに楽しく取り組めた家庭であれば後者の方が良い影響をもたらしそうに思えます。

しかしそれもどうやら国によっては差があるようで、日本や中国などの東アジアは親が厳しい指導をしても効果があったことが分かった一方で、北欧だと厳しい指導は効果が低いようです。

人種によって指導方法の効果に差が出ることを考えると、宿題に関しては各家庭でそれぞれあった方法が見つかるまで工夫してもらう、という曖昧な結論しか出せそうにありません。

  1. Meta-Analysis of Parental Involvement and Achievement in East Asian Countries. (2019, April 11). Education and Urban Society, 52(2), 312–337. https://doi.org/10.1177/0013124519842654  韓国

  2. Mok, S. Y., & Seidel, T. (2020, June). Parental influences on immigrant students’ achievement-related motivation and achievement: A meta-analysis. Educational Research Review, 30, 100327. https://doi.org/10.1016/j.edurev.2020.100327  ドイツ

  3. Kim, E. M., Kuncel, N. R., & Pomerantz, E. M. (2019, September). The relation between parents’ involvement in children’s schooling and children’s adjustment: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 145(9), 855–890. https://doi.org/10.1037/bul0000201  アメリカ

  4. Expósito-Casas, E., López-Martín, E., Lizasoain, L., Navarro-Asencio, E., & Gaviria, J. L. (2015, February). Parental involvement on student academic achievement: A meta-analysis. Educational Research Review, 14, 33–46. https://doi.org/10.1016/j.edurev.2015.01.002  スペイン

ワースト4

続いて、学力達成度にネガティブな影響を与える下位4種類を解説します。これらを知っておくことで前もって予防できるので知っておいて損はありません。

5.福祉の利用

悪影響を与える家庭環境として、小さいながらも「福祉の利用」がランクインします。ただ、福祉の利用と言っても、実際その中身を見てみるとイメージとは大きく異なります。

福祉の種類の中でも、最も子供の学力達成度に悪影響を与えたのが次の二つです。

  • 母に働きに出ることを促す福祉政策

  • 母に就職を促す福祉政策

この二つが特に大きかったようです。さら、小さい弟や妹がいるとその効果はより悪化することも分かりました。理由としては、母が働きに出ることで残された子供がまだ小さい弟の面倒をみることで、勉強ができないというのが理由でした。

ただ、(Gupta et al., 2011)らの研究では、たとえ親が働きに出たとしても子供が保育園や学童保育などで教育機会を提供できれば、悪影響は帳消しかポジティブなものになるという報告もあります。今後の子育て福祉の在り方がさらに前進することを期待したいですね。

  1. Duncan, G., Knox, V., Vargas, W., Clark-Kauffman, E., & London, A. S. (2004, December). How Welfare Policies Affect Adolescents’ School Outcomes: A Synthesis of Evidence From Experimental Studies. Journal of Research on Adolescence, 14(4), 399–423. https://doi.org/10.1111/j.1532-7795.2004.00080.x

6.スクリーンタイム

続いて悪影響だったのが、テレビなどの視聴時間でした。

考えると当たり前ですが、テレビをみる時間が伸びればその分他のことができなくなります。時間を確保したければ、睡眠時間を削るか、外出時間を減らすか、読書時間を減らすなどで時間の配分を調整することとなります。

子供の場合、真っ先に何を削るかというとやはり勉強関連の時間から削ることになります。勉強する時間を削るということは、予習や復習が減るということです。一日か二日程度であればその影響は小さいかもしれません。

ただ、これが毎日続くようになると蓄積効果によって徐々に他の生徒との成績の差に開きが出るようになります。

インセンティブが特に無い状況で、子供がわざわざ楽しいテレビを犠牲にしてまで勉強に勤しみたいと考えることが少ないことから、これは納得できるのでは無いでしょうか。

テレビやテレビゲームの使用時間はしっかりと親子で話し合いをしながら、一日何時間までにするか決めることが大切になります。

  1. Haertel, E. H., Haertel, G. D., & Walberg, H. J. (1982, January). The Impact of Leisure-Time Television on School Learning: A Research Synthesis. American Educational Research Journal, 19(1), 19–50. https://doi.org/10.3102/00028312019001019

  1. Neuman, Susan B.. “Television and Reading: A Research Synthesis.” Resources in Education 23 (1986): 90-91.

  1. Razel, Micha. “The Complex Model of Television Viewing and Educational Achievement.” The Journal of Educational Research 94, no. 6 (2001): 371–79. http://www.jstor.org/stable/27542348.

7.引越しの多さ

続いては「引越しの多さ」です。引越しが多いと学力達成度に対して悪影響が出る割合が高まります。得に、低学年であればこの悪影響は顕著に見られます。

子供がまだ小さいうちに引っ越すことで、授業内容のズレに追いつく作業、友達を改めて作り直す作業、方言の違いなどを乗り越える必要があります。

高学年となると、悪影響は小さくなります。

海外では、親が入隊している場合は地域や国を超えて活動する必要があり、場合によっては引っ越すことが多くなります。日本の場合、転勤などで父についていく形で引っ越すことはあります。

  1. The relationship of student achievement to mobility in the elementary school Jones, Randy A. 
     Georgia State University - College of Education ProQuest Dissertations Publishing,  1989. 9015704.

  2. Bosch, L., Casper, D. M., Wiggs, C. B., Hawkins, S. A., Schlomer, G. L., & Borden, L. M. (2011, August). A meta-analytic review of internalizing, externalizing, and academic adjustment among children of deployed military service members. Journal of Family Psychology, 25(4), 508–520. https://doi.org/10.1037/a0024395

  3. A meta-analysis of school mobility effects on reading and math achievement in the elementary grades Mehana, Majida Abdel-Amir. 
     The Pennsylvania State University ProQuest Dissertations Publishing,  1997. 9802707.

  4. EFFECTS OF TRANSFER ON ACADEMIC PERFORMANCE OF COMMUNITY COLLEGE STUDENTS AT THE FOUR‐YEAR INSTITUTION. (1992, January). Community Junior College Research Quarterly of Research and Practice, 16(3), 279–291. https://doi.org/10.1080/0361697920160307

8.体罰の多さ

最後に、家庭環境の中では最も悪影響とされる「体罰」について。

今では「体罰」は「虐待」と同義として扱われるようになりました。日本でも家庭内で叩く、長時間正座をさせるなどの身体的虐待、侮辱などによる心理的虐待、ネグレクトや性的虐待など、どれも「児童虐待の防止等に関する法律」で罰せられます。

顔をつねる、お尻を叩くなどの身体的な暴力は子供の学力達成度を高める効果は無いか、下がると考えられます。子供が一時的に行動を改めるとしても、長期的な効果としては悪影響となります。

  1. Violato, C. (2004, January). A Meta-Analysis of the Published Research on the Affective, Cognitive, and Behavioral Effects of Corporal Punishment. The Journal of Psychology, 138(3), 197–222. https://doi.org/10.3200/jrlp.138.3.197-222

まとめ

ベスト4とワースト4を見てみると、まず希望が持てるのが「親が子供に期待する」ことが良い影響をもたらすということです。教師が生徒に対して期待するのも同様に効果がありますが、これは家庭内でも効果があるということです。しかも、経済的な地位とは無関係に効果がある訳ですから試さない手はありません。

ただ、明らかに過度の期待を持つのもよくありません。才能のミスマッチ問題に繋がるリスクがある訳ですから、現実的な範囲内で期待をもってあげることが一番の成長の近道です。

「経済的な地位」に関しては、ここを変えるのは難しいですがそれ以外の「家庭環境」や「親の関わり」であれば十分に変える余地はあります。ここを伸ばすことで、子供の将来性が上向く訳ですからしっかりと親自身がスキルを学ぶことが重要となります。


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