実はエビデンスがない教育政策、教育方法トップ5
「友達にすすめられたから試してみた」「知り合いが実践しているから真似してみた」という理由で、特に深く調べることはせずに何となく実践している教育方法はありませんか?
もしかすると、あなたは知らないうちに実は何のエビデンスもない教育方法を実践してしまっているかもしれません。今回はそんな「科学的な根拠が存在しない教育方法、教育政策」を5つリストアップします。
うっかりやってしまっている方法があれば、見直しの良いきっかけになるかもしれません。
データの条件
今回集めたデータの条件は次の通りです。
知名度のある学習介入方法
効果を示すエビデンスがない、あるいはデータが非常に少ない
以上の条件を満たすものとして、見つかった研究は次の通りとなりました。
将来の夢と願望を明確にする
学習スタイル
アウトドア・ラーニング・アドベンチャー
学校の制服
能力と科目による固定
それぞれくわしくみていきましょう。
将来の夢と願望の明確化
エビデンスが無いことの一つとしてランクインしたのが「将来の夢と願望の明確化」でした。これは、将来どうなりたいのかを明確に目標や夢を言語化することを言います。将来はバレリーナになりたい、将来は消防士になって多くの人を救いたい、将来は石油王として大金持ちになって理想の街を作りたい、などです。
ただ、この方法で学力が上がったことを示すエビデンスは一つも見つかっていません。効果が不明か、エビデンスが一つも見つからないことにはいくつか理由があります。
まず、人種、経済、学力、親の最終学歴とは無関係に多くの子供はそもそも夢や目標を持っていることが大半です。すでに皆目標や夢を持っている訳ですから、その上で学力に格差が生まれていることを考えると確かに効果が小さいか、無いということは理解できます。
また、志の高さを判断する方法にも問題があります。まず、生徒の志が低いのか高いのかを判断する良い方法が見つかっていません。そのため、どうしても「以前のゴールよりも大きなゴールを設定する」という方法を取ることになります。
仮に大きなゴールに更新をしたとしても、学力の向上に繋がったことを示すエビデンスを見出すことはできませんでした。ゴールや志を変えただけでは、それ単体で学力に影響を与えることはないということです。
ただし、自己効力感や自己評価などを高めることを目的にした場合結果は大きく変わります。自己理解を進めたり、自己評価を高める取り組みをすることで結果的に多少の学力向上の効果は見込めることは分かっているので、自己評価を高める過程で志を高める分には問題ないと言えます。
学習スタイル
次にランクインしたのが「学習スタイル」です。
これは子供は皆、学習に対する特定のアプローチやスタイルを持っているという考えの元で成り立った理論で、その子にあった特定の学習スタイルで指導することで効果的に学びを加速させられるという考えです。
例えば、子供が「聞く」学習スタイルに分類された場合は、ストーリーテリングやディスカッションを多様し、代わりに文章問題を少なめにするなどです。「勉強が苦手なのは適した教育スタイルで教育を受けられなかったから」と受け入れやすい概念であるため、近頃見かける人もいるかもしれません。ただ、これにもいくつか問題があります。
学習者が単一の学習スタイルを持っていることはほとんどないため、報告された嗜好に合った活動に生徒を制限することは、生徒の上達を損なう可能性があります。特に小学校の低学年の学習者は、学習に対する嗜好やアプローチがまだ非常に柔軟であるため、このようなことが起こり得ます。
生徒に特定の学習者であるという判断を容認することで、「努力すれば成功する」という信念を弱め、失敗の言い訳を与える可能性があります。より健全な取り組みとして言えるのが、生徒を学習活動に参加させるための動機づけと自己調整などの側面に焦点を当てることでより学力達成度を高められます。
また教師は、生徒が自分の学習の成功に責任を持ち、自分自身の成功する戦略や方法を開発できるように支援することを目指すことが望ましいです。
学習スタイルに基づいて特定の学習者を対象に教育活動を行う研究は、特に低学力の生徒にとって、大きな利益をもたらすものではない。少なくとも、影響は一般的に低いか否定的です。
学校、あるいは家庭で学習に関する戦略を個別にカスタマイズする場合、以下のような取り組みがおすすめです。
生徒の予備知識のレベルや学習の障壁の違いなど、生徒の違いを理解すること。
丁寧な説明、スモールステップで進む方法などを含む適切な指導と質の高いフィードバックを確実に行う。
学習上のニーズが確認された場合、的を絞った学習支援を行う。
生徒が自分自身の学習を計画し、監視し、評価することをサポートする。
生徒をグループ分けする場合、生徒の学習進歩、モチベーション、行動に与える影響を注意深く観察する。
アウトドア・アドベンチャー・ラーニング
次にランクインしたのが「アウトドア・アドベンチャー・ラーニング」でした。
アウトドア・アドベンチャー・ラーニングは、通常、クライミングや登山、ロープ、オリエンテーリング、セーリング、カヌーなどのアウトドア・スポーツなどの野外体験を含みます。これらのコースは、集中的な宿泊コースとして企画されることもあれば、学校や地域のアウトドアセンターで実施される短期間のコースもあります。
アドベンチャー教育では、通常、身体的なチャレンジの学習体験を伴うことが多く、正式な学問的要素を含まないので林間学校や遠足は含まれません。
残念ながら、野外活動をすることで学力が上がったということを示す直接的なエビデンスは見つかっていません。とはいえこれはあくまでも、野外学習には「何の影響もない」という証拠ではなく、どのような影響があるのかを示す確実な証拠がないことを念頭に入れておく必要があります。
代わりに、野外学習の研究では自信や自己効力感という点でより広い利益が報告されていることが多いです。
アウトドア・アドベンチャー・ラーニングは、学力などが不利な立場にある生徒たちに他の方法では参加できないような活動に参加する機会を提供することができるかもしれません。また、身体的・精神的にチャレンジングな活動への参加を通して、生徒がレジリエンス、自信、モチベーションといった非認知スキルを身につけるのをサポートすることができることも考えられます。
結果的に、非認知的スキルを教室で活用することで学業成績に良い影響を与える可能性はあります。ただ、非認知能力と生徒の達成度を関連付ける根拠は強くないため、屋外学習への介入が生徒の学力達成度に与えることを意図している場合は慎重に検討する必要が残ります。
もしどうしても取り入れたいのであれば、以下の方法が推奨されます。
生徒が身体的(および情緒的に)に挑戦する活動
共同学習、問題解決、思考過程や感情を明確に振り返る機会
生徒が課題を克服し、成功体験を得るためのサポート
学校に戻ってから、大人と生徒の関係を構築する
学校の制服
続いてランクインしたのが「制服」です。
制服はとてもフォーマルで厳密に決められているものがあれば、制約が小さい自由度のある制服などさまざまあります。 制服に関する方針がどの程度厳格に実施されるか、また生徒の身だしなみの他の面を含むかどうかについては、学校によってさまざまです。
制服の着用はそれ自体が学習を向上させる可能性はありませんが、学校の気風の醸成や行動・規律の改善など、より広い学校改善のプロセスにうまく組み入れることができることが期待できます。
制服に関する方針を守り、一貫して維持するために親や教師が献身的に取り組むことは学校環境の改善に不可欠です。
日本などいくつかの国では学校の制服は学校全体の気風を発展させ、その結果として規律とやる気を向上させると信じられているようです。また、制服が社会的公正を促進するという考え方もあります。しかし、学校の制服を導入すること自体が、学業成績、行動、出席率を向上させるという確かな証拠はほとんどありません。国や学校が無条件に信じているだけであって、残念ながらエビデンスはありません。
イギリスも同様に学校の制服が生徒の行動の改善につながるという考えが一般的です。行動の改善は重要な前提条件であることは間違いありませんが、制服を着ているだけで必ずしも学習の向上につながるわけではないことを理解しておくことが重要です。
能力と科目によるクラス固定
最後にランクインしたのは「能力と科目によるクラス分け」です。
ただ、こちらは少々特殊でエビデンスは存在しています。興味深い点としては、「効果はない」ということを証明するエビデンスが見つかったのであって「向上する」あるいは「悪化する」訳ではありません。
「社会階層を維持した現状維持するようだ」というエビデンスが見つかっている訳で、これだけだと一見すると意味がないように思われますが、そんなことはありません。
他の教育政策と比較する際には「現状維持」であったとしてもエビデンスに基づいて有効性の高さを比較できるのはとても重要です。こうすることで優先順位を決めて最適なお金の分配を決められる訳ですから。エビデンスがなければ、そもそも比較対象としてすら扱われません。
「ストリーミング」と「セッティング」というクラス分けによってどのように生徒の習熟度が変化したかを紹介します。
「ストリーミング」は、教科に関係なく総合的な能力で生徒を分けることをいいます。イギリスで過去に行われたクラス分けです。スタンドバイミーの主人公たちも進学クラスに分かれるか、就職クラスに分かれるか映画の中で出てきましたよね。
「セッティング」は、数学や英語などの特定の教科のクラスに分けることを言います。
セットとストリーミングに共通する目的は、クラス内の生徒の幅を狭めることでより効果的で効率的な教育を可能にすることを目指しています。ただ、残念ながら現時点ではこれによる学力向上効果はほとんどありません。
ただし、クラス内で能力ではなく達成度に応じて小グループに分けた場合であれば2ヶ月分の追加的な効果があることが分かっています。
つまり、以下のような違いがあると言えます。
総合的な能力ごとに、クラスを編成する(ストリーミング) +0ヶ月
教科ごとに、クラスを編成する(セッティング) +0ヶ月
達成度ごとに、同じクラス内で小チームを編成する +2ヶ月
決定的な違いとして一つあげるとしたら、クラス外で行うか、クラス内で行うかということです。それで、どうやらクラス内で行うことに限っていえば効果があるようでした。
この分類で言えば、「3」のみ効果があったということです。しかも、小学生が最も効果が高く、算数は4ヶ月の追加的な効果があることも分かっています。
まとめ
以上、エビデンスがないか、効果がない教育方法をまとめました。学習スタイルや目標を明確にするという有名な取り組みにエビデンスがないというのはとても意外な発見だったのではないでしょうか。
他にも
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