教育格差を乗り越える学習方法トップ10
親であれば誰だって、子供に勉強で苦労して欲しくないと考えるかと思います。
子供が少しでも学校生活で知識が定着し、高い学力を手に入れられるようになるためにはどんな勉強方法をすることが望ましいのでしょうか?
一夜漬け、過去問を解く、語呂合わせで覚える、下線を引くなどさまざまなテクニックがあることは分かるもののいまいち効果があるのかどうかピンとこない人もいるかもしれません。
ここでは、そんな疑問に応えられるように250本近くの研究をまとめたデータをスライドで解説します。
まとめると、この記事を読むことで以下の三つが分かります。
効率よく学習できる勉強方法
科目ごとのベストな勉強方法
年齢ごとのベストな勉強方法
まずは、10種類の勉強法とその平均的な効果の高さを解説します。
10種類の勉強法方とランキング
スライドにもまとめられている通りですが、それぞれの学習方法と効果は以下の通りです。
期間の分散学習 高い
模擬試験での演習 高い
現象の説明言語化 中程度
イメージしながら学ぶ 中程度
既存知識との関連づけ 中程度
語呂合わせ 小程度
教材の再読書 小程度
関連分野の短期交互学習 小程度
下線を引く 小程度
テキストの要約 小程度
それでは一つ一つ具体的に事例とともに見てみましょう。
1.期間の分散学習
最もスタンダードな勉強法ですが、毎日コツコツとテキストを進めるという方法はどの科目においても一定の効果を発揮することは分かっていておすすめの勉強法となります。
対比として、一夜漬けや一気に全部するという方法が挙げられます。一気に進めてしまう方法というのは効果が低くおすすめではありません。それなら前もって勉強する分量を小分けにして、毎日少しずつやってしまう方が良いということになります。
ではなぜ毎日コツコツと小分けにして勉強することがこれほど効果があるのかというと、睡眠を挟むことで記憶の整理が進み、記憶の定着が進むと考えられています。この作用は勉強以外にも水泳などの体を大きく使う活動、書道など手先の器用さを求められる活動でも同じ現象が確認されています。
王道である分散学習は、勉強だけでなく運動やスキルの学習でも当てはまる訳ですね。
ちなみに、科学よりも国語を学ぶ上でこの学習方法は効果があるようです。また、「思い出す」という点においてはどれよりもこの方法が最も効果があったことも興味深い点です。
2.模擬試験
こちらも王道の勉強法である「模擬試験での演習」が上位にランクインしました。
毎日コツコツ勉強することと、模擬試験での演習が2トップになるのは何一つとして意外性はありませんが、やっぱりそうなんだなと納得もさせられます。
模擬試験や過去問を解きながら知識を習得していく方法もあり、この場合実践を通して経験とスキルを獲得している訳ですね。
海外で行われている指導法の一つにT-T-T(Test Teach Test)と呼ばれる指導法があります。これは実際にプレテストを受けさせてから学習内容を指導し、もう一度テストを受けさせるという勉強法です。
このメリットとしては、先生は生徒の弱点を把握できるという点と、生徒は自分が分からなかったところを学ぶことでより印象に残るという点です。
フラッシュカードによる単語の学習などもこれに分類されます。よく使われる学習法ですが、その効果は高いことが数字で出ている訳ですね。
いずれにせよ、模擬試験や過去問に取り組むことで自分の知識定着率を高められるのであれば、毎日過去問を解くことで2トップのいいところどりが出来ると言えます。
ちなみに、この方法を試した場合、科学よりも国語(スペルなど)の意味を覚えたりする方が効果があったようです。
また、フィードバックのある模擬試験であればなお効果が高いことも分かっています。
3.現象の説明と言語化
三番目に効果的な学習方法として「現象の説明と言語化」がランクインしました。
具体的には、自分の言葉である現象を説明する、ということになります。例えば、水は水素と酸素が化学反応を起こすことで発生する、などを自分なりに説明することができれば良い訳です。
確かに、説明することが出来るということは原理原則を理解しているからこそなので、深い理解と記憶定着を促すことは納得できます。
逆に、丁寧に整えられた形式で覚えるよりも自分の言葉で説明できるようになった方が学習効果が高いことも分かっています。ただ文章を丸暗記をしようとするのではなく、自分なりの理解をすることがとても大切であると言えます。
ちなみに、この方法は科学などでは効果的であることが分かっていますが国語ではあまり効果的ではないようです。
科学の場合だと原理や手続きを自分なりに理解していることがテストでの得点に結びつきやすいのだと思われます。
一方で、国語は言葉の意味を説明できるだけでは十分でなく、意味を覚えていることが重要であることがわかります。また、国語の長文読解において文脈や著者の気持ちを客観的に再現性よく説明することがとても難しいため成果に結びつきにくいのではないかと考えられます。
どうしても子供の場合自分の経験の範囲でしか心情を説明できなかったりします。例えば人物や背景の描写から心情を説明するなどの訓練が必要なのだと思われます。
4.イメージしながら学ぶ
このあたりから、効果が中程度が低いものが増えてきます。
四番目にランクインしたのが、学習内容をイメージしながら理解をすることでした。これは特に初学者や勉強が苦手な子にはある程度有効であることが示唆されていますが、学力が高い子にはあまり効果が期待できないようです。
また、イメージできる科目も限られていることもあるため、万能ではないと言えます。例えば、国語に関して言えば中程度の効果があるのですが、科学においては効果が低いようです。
とはいえ、初めのうちは頭の中のイメージを使った理解から初め、少しずつ具体的な内容へと進み、最終的には自分で説明ができるように段階を経て進めることが良いかもしれません。
5.既存知識との関連づけ
5番目にランクインしたのが、既存知識との関連づけでした。
新しく学んでいる内容と、すでに知っている知識との関連性を自分の中で見つけて繋ぐ作業をすることで理解が深まるということです。
これは、背景知識が多ければ多いほど有利であると言えることから人生の後半になってからの方が有利な戦略と言えます。言い換えると、初学者は背景知識が少ない人にはあまり使いこなせない戦略であるということでもあります。
国語では効果は今ひとつだったようですが、科学では効果が高かったようです。
画像:数学相関図 | 養哲塾
やはり数学や物理学などは上記の表のように基礎から学ぶことで、それより上位の学問への理解が進むことからも、既存知識とのつながりを考えて覚える方法が有効なのもうなづけます。
6.語呂合わせ
日本人に馴染み深い学習方法の一つである「語呂合わせ」が六番目にランクインしました。語呂合わせで有名なもので言えば、「水兵リーベ僕の船」ではないでしょうか。
語呂合わせで一気に覚えやすくなったと感じる人は一定数いるかと思います。実際、それを示唆する通り、国語の点数が最も上がったのが語呂合わせでした。
しかし意外なことに、思い出すことにおいてはあまり効果がないか、むしろ悪影響となることもあるようです。これは間違って思い出してしまうことが原因であると考えられます。
語呂合わせのメリットは覚えやすいことですが、複雑なことを覚える場合は間違えて覚えるか、手がかりに引っ張られる形で違って思い出すことがデメリットとして挙げられます。
7.教材の再読
七位にランクインしたのが「教材の再読」です。一度読んだテキストをもう一度読むことで、さらなる記憶の定着を狙う、見落としていたところを拾い直すなどの作業を指します。
国語などであれば、小程度の効果はありますが、受動的な学習方法であり科目によってはむしろマイナスとなるためあえてこの方法を採用する必要はないと言えます。
内容を自分なりに説明する、既存の知識との関連性を見出すのに比べて、ただ読み返すだけというのは認知的な負荷が低いことからあまり学習効果が見込めないようです。
8.関連分野の交互学習
八位にランクインしたのが「関連分野の交互学習」です。これだけだとピンと来ないかもしれないので具体例を出します。
例えば、数学を勉強しているとして初めの30分は面積に関しての問題を解いていたとします。次の30分では体積についての問題を解き、最後の30分は円柱に関しての問題を解くこととします。これを一つのルーティンとして、また初めの面積の問題に戻ります。
このように、多少は関連性がある分野を順番に入れ替えながら学ぶ方法を指します。間違っても算数⇨国語⇨音楽、など全く違う科目を勉強するということではありません。
これも、ただ学ぶ順番を入れ替えただけであって、模擬試験での演習、自分の言葉で説明し直すなどに比べて認知的な負荷は高いわけではありません。
この方法は基本的にはどの科目でも効果が低く、唯一数学がとても効果的でした。数学の勉強をしている場合はこの方法が一番のおすすめかもしれませんね。
9.下線を引く
九番目にランクインしたのは「下線を引く」でした。
こちらもやはり、認知的な負荷を必要としない簡単な作業であるためどうしても効果は低いものとなります。ただ、専門家であればハイライトをする、線を引くという作業は効果が高いようですが、初学者がハイライトをしても効果が低いことは分かっています。
やはり、背景知識があるかどうかでも効果が変わってくるということでしょう。専門家の場合は新しい知識をハイライトするだけで良いので効果が高いのですが、背景知識を持たない人の場合は全ての文章に線を引くことになります。
全てに線を引くとなってしまうと、無意味なので効果は消えてしまうことになります。
10.テキストの要約
最後にランクインしたのが、意外かもしれませんが「学習内容の要約」でした。
要約のメリットとして以下の通りです。
重要なところだけを抜き取り書き出せる
反復されているところは一つにまとめられる
しかしデメリットもあります。
熟練者でなければ有効な要約に書き直せないため、若い人や学力が低い人には不向き
小さな範囲を要約すべきか、それとも大きな範囲で要約すべきか科学的な結論はでていない
科目ごとにベストの方法が変わる
続いて、科目ごとのベストをまとめます。
全ての科目を通して、平均値を取ると「期間の分散学習」と「模擬試験」が効果的だった訳ですが、科目を絞った場合の学習方法であればそれぞれ得意分野が変わってきます。
国語:語呂合わせ
数学:関連分野の交互学習
言語:下線を引く
科学:テキストの要約
思い出す:期間の分散学習
このようにまとめられます。
年齢は学年ごとのベスト
最後に、学年ごとに最適な方法も分かっています。
小学生の場合
テキストの要約
教材の再読
が効果が高いようでした。要約は難しいので先生や親との連携は必要になりそうです。ただ教材の再読であれば一人で気軽にできるので、このあたりは反復行動で知識をとりあえず覚えることが重要なのかもしれません。
中高生の場合
イメージしながら学ぶ
模擬試験
ある程度大きくなると、認知的な負荷の高い作業による記憶定着が良いようです。単純な反復作業だけでなく、イメージと模擬試験の活用で理解と学習の相互作用が期待できます。
大学生の場合
期間の分散学習
イメージしながら学ぶ
ここでもイメージを使った学習が登場します。一方で、期間の分散学習も効果的な方法であると示唆されています。日本の場合、受験のためにも必然的に毎日勉強することになるのであえて意識する必要はないでしょう。
まとめ
学習方法ベスト10を紹介させていただきました。それぞれ、強みと弱みがあることが分かる通り工夫して使い分ける必要があると言えます。「これだけでよい」「これでOK」と単純化できるほど甘くないということがデータでは示唆されているものの、模擬試験と期間の分散学習あたりは意識しても良いかもしれません。
勉強とは勤勉性の高さが求められるため、いかに行動を管理して工夫するかが重要となりそうです。どうすれば自分の行動を管理できるようになるのかはいずれ別の機会に記事にまとめたいと思います。
ソース:A Meta-Analysis of Ten Learning Techniques