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『MIU404』 第1話 綾野&星野一筋縄ではいかないバディの躍動

面白いドラマは、スピード感が違う。

悠長にエンジンを温めている暇なんかない。最初からトップギアでアクセルを踏み、急なカーブも減速せずに突っ込んでいく。そのドライブ感に、アドレナリンが湧き上がる。スマホ片手にながら見なんてしていたら、あっという間にふるい落される。『MIU404』は、つまりそういうドラマだ。

野木亜紀子の社会性×塚原あゆ子のエンタメ性が初回から炸裂



初動捜査のプロフェッショナル・機動捜査隊(通称:機捜)を題材とした新時代の刑事ドラマ『MIU404』。第1話では、隊長・桔梗ゆづる(麻生久美子)のもと、伊吹藍(綾野剛)、志摩一未(星野源)、九重世人(岡田健史)、陣馬耕平(橋本じゅん)という4人の隊員が集まり、新設されたばかりの"第4機動捜査隊"が始動する姿がダイナミックに描かれた。



まず度肝を抜かされたのが、その優れたスタッフワークだ。脚本:野木亜紀子、演出:塚原あゆ子、プロデュース:新井順子は、名作『アンナチュラル』(2018年、TBS系)を生んだトリオ。『アンナチュラル』では毎回さまざまな不自然死の解明を通じて長時間労働や仮想通貨、いじめなどの社会問題を浮き上がらせていったが、本作でも社会を見つめる眼差しは変わらない。

第1話で扱ったのは、近年、ニュースでたびたび取り上げられている「あおり運転」。野木亜紀子は、そこから透けて見える現代人の暗部を、軽やかに、けれど痛烈に炙り出した。

「どうしてあおり運転をするんですか」九重の問いに、伊吹は答えた、「負けたくないからに決まってるじゃん」と。その答えに、陣馬が「車ってのは自分一人の空間だ。その中で、気が大きくなるっていうのもあるんじゃないか」と続け、志摩が「車の威を借りてマウントをとる。だけど、マウントの取り合いは悲劇しか生まない」と結んだ。

これはあおり運転のことだけを指しているわけではなく、「車」を「アカウント」に置き換えれば、昨今SNS上で広がる誹謗中傷合戦を暗喩しているともとれる。

別の場面では「マウントをとらないと死んでしまう病」というフレーズも。野木は、この第1話で肥大化する傲慢な自意識と、ごく普通に見える人々の内面にひそむ暴力性。そして、そんなつまらない暴力の連鎖に巻き込まれて悲劇に見舞われるのは、劇中に登場した祖母と孫娘のような弱き者であるという理不尽な現代の縮図を描いてみせた。
こうした野木の多層的な脚本をエンターテインメント性たっぷりに調理したのが、塚原あゆ子の演出だ。

塚原あゆ子の演出は、編集のテンポが抜群にいい。台詞の切り返しなども細かく間をつまみ、大胆にカットを割っていく。まるで優れたドラマーのようだ。軽快にリズムを刻み、視聴者のビートを上げていく。そこに『アンナチュラル』と同じ得田真裕の音楽が加わることで、よりスリリングかつアッパーに。ノンストップの臨場感と高揚感を生み出す塚原あゆ子のキレのいい演出術は、初回からフルスロットルだった。

綾野剛×星野源が演じる、一筋縄ではいかないバディ




キャストたちも、名うてのバックバンドに乗せられてハイテンションでシャウトするロッカーのように躍動している。「野生」の伊吹と「理性」の志摩という組み合わせはバディものの黄金パターンだが、実際にキャストたちが演じることでよりキャラクターが立体化した。

特に予想外だったのが、星野源演じる志摩だ。理性の刑事という役柄だけに、もっとクールなイメージを抱いていたが、思った以上に人肌感があってチャーミング。伊吹の正体を探ろうと、彼の配属先を転々とした挙句、ゆづるから「異動の辞令出ちゃったよ」と言われ、「おぉ・・・」という言葉にならないリアクションを返すところなんて、実に抜け感があってユーモラスだ。



そして、「これぞ星野源!」と思わず頬が綻ぶのが、「奥多摩の交番から来た素人が野生の勘だけでしゃしゃってんじゃねえよ!」と伊吹を怒鳴ったあとに、「俺までマウントとっちゃったじゃないか!」と怒ってジャンプするところ。綾野剛との身長差を活かした愛らしさ爆発の演技で、一気に志摩のファンになった視聴者も多いのでは。



さらに、そんな星野節に全力で受けて立つ綾野剛も魅力が炸裂している。この志摩の一喝を受けて、伊吹が「何だかテンション上がってきた〜!」と叫ぶのだが、実はこの台詞、台本には書かれていない。つまり、綾野剛のアドリブなのだ。だが、間違いなくこの一言が第1話の中で最もわかりやすく伊吹藍のキャラクターを象徴している。動物的な勘で勝負する伊吹だが、演じる綾野剛の役者としての勘の良さ、嗅覚の鋭さはある意味伊吹以上かもしれない(ちなみにその直前で志摩がゴミ箱を蹴るのも、星野源のアドリブだ。裏話が気になる方はぜひパラビで配信中のリモート会見のアフタートークを観てほしい)。



何かを含んだようなニタニタとした伊吹の笑い方は胡散臭さがにじみ出ていて、志摩ならずとも眉をひそめたくなる。だけど、再会を果たした祖母と孫娘を見守る柔らかい微笑みにはピュアな正義感が表れていて、決してただの食えないキャラクターではないことがわかる。綾野剛と星野源。ふたりの実力ある俳優が、初回できっちり役の多面性を証明してみせた。

ふたりを取り囲む九重、陣馬、桔梗の3人も面白さを含んだキャラクターだ。

現時点で気になるのは、岡田健史演じる九重の存在。この第4機動捜査隊自体、九重の配属を条件に誕生した。警察庁刑事局長を父に持つキャリアの彼がなぜ機捜に送り込まれたのか。恐らく今後のキーポイントになってくるのではないだろうか。演じる岡田健史は、『中学聖日記』(2018年、TBS系)以来の地上波連ドラ登板だが、「肩書きに屈しないスタイル」とおどける伊吹を無言で見つめ返すところではエリート育ちの生真面目さが、ふたりきりの車内で気を遣う陣馬を冷たくあしらうところではいけすかない生意気さがよく出ていた。チームそのものがバディである第4機動捜査隊の掛け合いも、本作の見どころのひとつだろう。



「ルール」破りなのは伊吹か、それとも志摩か


以上を踏まえた上で、第1話から見える本作の核を語るとすれば、「ルール」と「リミット」か。伊吹と志摩というキャラクターを並べたときに、「ルール」という補助線を引いてみることで、ふたりの人物像がより鮮明になってくる。「ルール」を軽んじ、現実の刑事は9割以上が引退まで一度も拳銃を"抜かない"という事実に対し、「もっとラフでいいのにね」と口をとがらせる伊吹。そして、「ルール」を重んじ、「規則は必要だからある」と説く志摩。ルールに対する姿勢が、そのまま伊吹と志摩のキャラクターの違いを示している。

前半、「ルール」破りの運転で逃走する犯人の車を止めた伊吹。志摩はそれに怒りながら、後半、伊吹を上回る「ルール」破りの運転で犯人の車に体当たりした。最終的に「ルール」を大きく破ったのは志摩の方である、というところにこのバディの面白さが見て取れる。



また、そもそも警察自体が「ルール」の番人。「ルール」を破った者を捕え、社会の「ルール」を維持することが役目だ。第1話の終盤、道路交通法という「ルール」を破った犯人に対するふたりの対応の違い。今回だけを見れば、手にしていたのは銃ではなくおもちゃのステッキだったという伊吹のジョークを盛り上げるためのフックだったが、きっと物語後半にかけてあのやりとりがもう一度効いてくる場面が出てくるのでは、と勝手に深読みしている。

そもそも志摩自身が、かつては捜査一課の優秀な刑事だったにもかかわらず、第4機動捜査隊ができるまではゆづるの運転手という立場に甘んじていたわけで。「俺は、自分も他人も信用しない」「俺は、自分のことを正義だと思っているやつがいちばん嫌いだ」という台詞からも、いわく付きの過去を持っていることがうかがえる。終盤、伊吹に向けた「発砲の要件に適っていない」という牽制の一言も、何か特別な意味を持っていそうだ。もしかしたら志摩は何かしらの「ルール」を破って島流しとなったのか。また、そもそも警察自体が「ルール」の番人。「ルール」を破った者を捕え、社会の「ルール」を維持することが役目だ。第1話の終盤、道路交通法という「ルール」を破った犯人に対するふたりの対応の違い。

今回だけを見れば、手にしていたのは銃ではなくおもちゃのステッキだったという伊吹のジョークを盛り上げるためのフックだったが、きっと物語後半にかけてあのやりとりがもう一度効いてくる場面が出てくるのでは、と勝手に深読みしている。そもそも志摩自身が、かつては捜査一課の優秀な刑事だったにもかかわらず、第4機動捜査隊ができるまではゆづるの運転手という立場に甘んじていたわけで。「俺は、自分も他人も信用しない」「俺は、自分のことを正義だと思っているやつがいちばん嫌いだ」という台詞からも、いわく付きの過去を持っていることがうかがえる。終盤、伊吹に向けた「発砲の要件に適っていない」という牽制の一言も、何か特別な意味を持っていそうだ。もしかしたら志摩は何かしらの「ルール」を破って島流しとなったのか。

膨らむ謎が、観る人を釘づけにする。

そして、全体を覆う「リミット」が、この作品をより面白くしている。それは、捜査は24時間というタイムリミットのみならず、この第4機動捜査隊そのものが「リミット」つきの集団であること。あくまで臨時組織であり、「次の異動で人員に余裕が出れば解散」とゆづるも宣言している。この「リミット」が終盤のキーになるだろうし、そもそも伊吹の隊員としての「リミット」を握っているのは志摩という図式も、このバディの関係性に独特のパワーバランスをもたらしている。そんな先読みをついついしてしまうぐらい、観る人を夢中にさせる『MIU404』。とことんハマってしまいそうな予感に、今からもうニヤニヤしている。

文・横川良明     イラスト・月野くみ
2020.06.28  PlusParavi​


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