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情熱が人を育てプロにする

漫画「釣りキチ三平」の作者・矢口高雄は幼少期、手塚治虫の大ファンだった。

その手塚のデビューより前、戦争中の頃から漫画に没頭していた高雄少年。

しかし家は商店街のある街から遠く離れた山中の寒村、本屋などあるわけもなく。

高雄少年にとっては、たまに尋ねてくる親戚や本好きの母親が実家から持ってきてくれる以外に、漫画本を手に入れる手段はありませんでした。

特に母親が彼の漫画好きを理解してくれたことは大きかった。

それが無かったら、漫画家・矢口高雄は生まれなかったでしょう。

数少ない漫画本をボロボロになるまで、いやボロボロになってからも、繰り返し繰り返しひたすら読み込む高雄少年。

そしていとこがたまたま持ってきてくれた漫画本がきっかけで、手塚作品に出合うことに。

それまでとは違う、ストーリー性が強い長編、映画のような構図やコマ割り、未来的かつ3D的な漫画に彼は骨抜きにされるのでした。

戦後の都市復興のために当時需要が大きかった杉。

彼の村の山々も伐採され、どんどん丸裸に。

都会に運ばれる材木の副産物として、屋根をふくのに使える杉の皮。

これを運ぶバイトで、高雄少年は小銭を稼ぎ、定期的に発売される手塚漫画の載った雑誌を買いに街へと出かけるのでした(※)。

私自身はあまり漫画に興味はない、というよりどちらかというと嫌いの部類。

「釣りキチ三平」もそれ自体ははっきり言って別に好きでもなんでもないのですが、ただその作者・矢口高雄にはなぜか興味あり。

父が「釣りキチ‥」好きだったこと、その父が矢口と同世代かつ同郷だったこと、そして私自身、ツーリングで毎年訪れる父と矢口の故郷・秋田県が大好きなこと。

理由をつければそんなところでしょうか。

いつの年だったか、ツーリングで訪れたのが矢口の故郷(の近く)にある横手市増田町。

蔵の立ち並ぶ昔ながらの街並みで、結構観光客は多い。

矢口さんが名誉館長を任じていたまんが美術館もここにあります。

実はこの増田町こそが、そのむかし高雄少年が手塚治虫の漫画を買いに往復したというあの街。

ある時のツーリング時、思い立ってそこから高雄少年の居住地・狙半内(さるはんない)中村地区までバイクで行ってみることに。

それがすごい距離なんですよ。

実測で11.2km。

私が山形に住んでいた中学の頃、自宅からかなり無理して自転車で隣の上山市まで往復した時の距離を、地図上で測定したらほぼピッタリ、11.1㎞。

あの距離を子供が行き来していたなんで驚きです。

いや、距離は同じなんだけど条件は全く違う。

高雄少年の家は山の中。

本を買った帰り道、増田から彼の家までは一貫して上り坂。

バイクだから行けるけど、自転車でのあの登りは地獄でしょう。

しかも現在はアスファルト舗装だが、彼が往復した1950年頃の中村~増田地域は余裕で砂利道。

彼が手塚漫画を愛したその情熱、バイクのハンドル越しにビシビシと伝わってきました。

もし行く機会があったら往復してみてください、増田と狙半内中村。

言っておきますけど、増田は観光地化されていますが狙半内は宿泊地も飲食店もない普通の農村。

行ってもただ戻って来るだけ、になります。

矢口は一旦銀行に就職し、しかして漫画への情熱冷めやらず家族の了承を得て(よく許してくれたものだ)漫画家へ転身、成功することに。

まさに清水の舞台から飛び降りる勢いの脱サラだったでしょう、成功したからよかったけど。

彼の背中を押したのは、少年をして杉の皮を売りあの11キロの上り坂を登らせた情熱、煮えたぎる漫画への想いそのものだったのでしょう。

そういう熱い想いをもって、私も仕事をしていきたいと思います。

(※)この辺のエピソードは矢口自身の自叙伝的漫画「ボクの手塚治虫」(毎日新聞社、1989年)から。ちなみにこの本によると矢口自身は中村から本屋までの距離を20㎞と表現しています。当時は道が相当くねくねしていたのかも。もしくはここでは本屋は増田と推測しましたが、もっと遠い十文字だったのかも知れません。

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