47_妊娠・分娩と救急疾患【救急救命士国家試験対策】
国家試験定期試験出題内容のまとめ
【妊娠・分娩と救急疾患】
妊娠の基本
妊娠は、月経周期が28日型の場合、最終月経の初日から約14日後に排卵が起こります。このとき、卵巣から卵子が放出され、卵管へと進みます。卵子が精子と受精すると受精卵となり、卵管を通って約3~4日かけて子宮腔に達します。
子宮腔に到達した受精卵は、数日間子宮腔内を浮遊しながら細胞分裂を繰り返します。排卵から7~8日目に、受精卵は子宮内膜に接着し、内部に侵入し始めます。この過程を着床と呼び、受精卵は約4日かけて完全に子宮内膜内に埋没します。着床が成立することで、妊娠が正式に始まります。
つまり、最終月経初日から約4週間弱で妊娠が成立することになります。
また、妊娠22週以降からは胎児の生存可能性が高まります。日本では、妊娠22週以降の出産を「早産」と位置付けており、この週数を妊娠可能な最低週数としています。
妊娠中の身体の変化
循環血液量の増加
妊娠中、母体の循環血漿量は大幅に増加し、妊娠32~34週でピークに達します。これは胎児や胎盤への十分な血流を確保し、出産時の出血に備えるためです。血漿量は非妊娠時と比較して約40~50%増加します。
下大静脈の圧迫
妊娠後期になると、肥大した子宮が下大静脈を圧迫することがあります。これにより下肢から心臓への血液還流が阻害され、**深部静脈血栓症(DVT)や肺血栓塞栓症(PE)**のリスクが高まります。これらは母体にとって重篤な合併症であり、早期の予防と対応が重要です。
妊娠中の異常とその対応
子癇(しかん)
子癇は、妊娠20週以降に初めて発生する痙攣発作であり、てんかんや他の二次性痙攣が否定されるものを指します。主な特徴は以下のとおりです。
高血圧:血圧の急激な上昇
痙攣:全身性のけいれん発作
意識消失:一時的な意識喪失
救急対応
気道の確保:舌根沈下や誤嚥を防ぐため、気道を確保します。
酸素投与:胎児への酸素供給を維持するために必要です。
薬物療法:硫酸マグネシウムなどの抗けいれん薬を投与します。
HELLP症候群
HELLP症候群は、妊娠高血圧症候群の重篤な形態であり、以下の症状を特徴とします。
溶血(Hemolysis):赤血球が破壊される
肝機能異常(Elevated Liver enzymes):AST、ALTの上昇
血小板減少(Low Platelets):血小板数の低下
対応策
緊急分娩:母体と胎児の安全を確保するため、早期の分娩が必要となることがあります。
集中治療:内科的な管理とモニタリングが必要です。
常位胎盤早期剥離
正常な位置にある胎盤が、出産前に子宮壁から剥離する状態です。
症状
激しい下腹部痛
子宮の板状硬(硬く緊張した子宮)
陰道出血(場合によっては出血が外に出ない「隠れ出血」も)
対応策
迅速な診断:超音波検査や臨床症状で診断します。
緊急分娩:母体と胎児の命を守るために、早急な分娩が必要です。
分娩の段階
第1期(開口期)
開始:規則的な陣痛の発生
終了:子宮口が全開大(約10cm)するまで
特徴:子宮頸管の熟化と開大が進行します。初産婦では約12~14時間、経産婦では約6~8時間かかることがあります。
第2期(娩出期)
開始:子宮口が全開大した時点
終了:胎児の完全な娩出
特徴:母体のいきみと陣痛により、胎児が産道を通過します。初産婦で約1~2時間、経産婦で数十分程度です。
第3期(後産期)
開始:胎児の娩出直後
終了:胎盤と付属物の排出が完了するまで
特徴:通常10~30分で終了します。子宮の収縮により胎盤が剥離し、排出されます。
救命時の新生児ケア
啼泣の促進
新生児が出生後に啼泣しない場合、以下の対応を行います。
刺激:背中や足の裏を優しく擦り、呼吸を促します。
気道確保:必要に応じて口腔や鼻腔の吸引を行います。
酸素投与:呼吸状態に応じて酸素を供給します。
保温の重要性
新生児は体温調節機能が未熟であり、低体温になりやすいです。
保温方法
温かいタオルや毛布で包む
皮膚と皮膚を直接接触させる「カンガルーケア」
保温器の使用
低体温のリスク
代謝性アシドーシス:体内の酸性度が高まる
低血糖:エネルギー不足により血糖値が低下
救急搬送時の対応
妊婦の体位
左側臥位の推奨:妊娠末期の妊婦は左側を下にして横になる姿勢を取ります。
理由:仰向けになると、子宮が下大静脈を圧迫し、血流が阻害される「仰臥位低血圧症候群」を防ぐため。
緊急搬送の必要性
急性腹症や出血の疑い
対応:迅速に産科医療施設へ搬送します。
注意点:バイタルサインの監視、必要な応急処置(酸素投与、輸液など)を行います。
問題
月経周期____日型の女性では、最終月経初日から4週間弱で妊娠が成立することになる。
受精卵は細胞分裂を繰り返しながら、約____日で子宮腔に達する。
現在、出生して成育可能なのは、妊娠____週以降と考えられている。
胎児以外の部分、すなわち____、臍帯、羊水、卵膜は胎児付属物と呼ばれる。
妊娠中は循環血漿量が増加し、妊娠____~34週にピークとなる。
腟内のpHが____性の場合、破水していることが分かる。
肥大した子宮により____が圧迫されるため、深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症を起こしやすくなる。
妊娠初期には、____と呼ばれる嘔気や嘔吐がみられることがある。
子宮腔側の____はしだいに退化し、子宮壁に近い方の絨毛は発育増殖して胎盤を形成する。
臍帯は、____本の動脈、____本の静脈の計3本の血管とそれらを覆う白い組織からなり、胎盤と胎児をつないでいる。
妊娠に関連した異常の主症候は(下)____や不正性器出血である。
異所性妊娠のほとんどが____妊娠である。
妊娠____週以降に初めて痙攣発作を起こし、てんかんや二次性痙攣が否定されるものを子癇という。
子癇で特徴的な所見は____、痙攣、高血圧である。
子癇での応急処置は、____確保、誤嚥防止、酸素投与である。
HELLP症候群とは、____、肝機能異常、血小板減少の頭文字である。
常位胎盤早期剥離での典型的な症候は、突然持続的に収縮して固くなる____と痛みである。
陣痛開始から子宮口が全開するまでを分娩____期と呼ぶ。
子宮口が全開してから、児が娩出するまでを分娩____期と呼ぶ。
羊水塞栓の典型的な症候では、分娩中または分娩後の突然の____と血圧低下である。
子宮破裂は持続的な____で始まり、大量の腹腔内出血によるショックを呈する。
子宮破裂で破裂部位によっては後腹膜下に血腫を作り、強い____を訴える場合もある。
妊娠中は血液凝固能が亢進しており、____を起こしやすい。
妊娠末期の妊婦を搬送する際は____位をとる。
娩出後、新生児が啼泣しない場合は、____を指で擦りあげるようにして刺激する。
新生児搬送で最も重要なことは、児の____である。
新生児は低体温により____、低血糖など新生児にとって致死的な代謝障害を惹起する。
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解答
月経周期28日型の女性では、最終月経初日から4週間弱で妊娠が成立することになる。
受精卵は細胞分裂を繰り返しながら、約4日で子宮腔に達する。
現在、出生して成育可能なのは、妊娠22週以降と考えられている。
胎児以外の部分、すなわち胎盤、臍帯、羊水、卵膜は胎児付属物と呼ばれる。
妊娠中は循環血漿量が増加し、妊娠32~34週にピークとなる。
腟内のpHがアルカリ性の場合、破水していることが分かる。
肥大した子宮により下大静脈が圧迫されるため、深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症を起こしやすくなる。
妊娠初期には、つわりと呼ばれる嘔気や嘔吐がみられることがある。
子宮腔側の絨毛はしだいに退化し、子宮壁に近い方の絨毛は発育増殖して胎盤を形成する。
臍帯は、2本の動脈、1本の静脈の計3本の血管とそれらを覆う白い組織からなり、胎盤と胎児をつないでいる。
妊娠に関連した異常の主症候は(下)腹痛や不正性器出血である。
異所性妊娠のほとんどが卵管妊娠である。
妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし、てんかんや二次性痙攣が否定されるものを子癇という。
子癇で特徴的な所見は意識消失、痙攣、高血圧である。
子癇での応急処置は、気道確保、誤嚥防止、酸素投与である。
HELLP症候群とは、溶血、肝機能異常、血小板減少の頭文字である。
常位胎盤早期剥離での典型的な症候は、突然持続的に収縮して固くなる板状硬と痛みである。
陣痛開始から子宮口が全開するまでを分娩第1期と呼ぶ。
子宮口が全開してから、児が娩出するまでを分娩第2期と呼ぶ。
羊水塞栓の典型的な症候では、分娩中または分娩後の突然の呼吸困難と血圧低下である。
子宮破裂は持続的な下腹部痛で始まり、大量の腹腔内出血によるショックを呈する。
子宮破裂で破裂部位によっては後腹膜下に血腫を作り、強い腰痛を訴える場合もある。
妊娠中は血液凝固能が亢進しており、肺血栓塞栓症を起こしやすい。
妊娠末期の妊婦を搬送する際は左側臥位をとる。
娩出後、新生児が啼泣しない場合は、背中を指で擦りあげるようにして刺激する。
新生児搬送で最も重要なことは、児の保温である。
新生児は低体温により代謝性アシドーシス、低血糖など新生児にとって致死的な代謝障害を惹起する。
練習問題
問題1
月経周期28日型の女性では、最終月経初日から何週間で妊娠が成立するか?
A. 2週間
B. 3週間
C. 4週間
D. 5週間
E. 6週間
答え: C
月経周期28日型の女性では、最終月経初日から4週間弱で妊娠が成立することになる。
問題2
受精卵は細胞分裂を繰り返しながら、何日で子宮腔に達するか?
A. 2日
B. 3日
C. 4日
D. 5日
E. 6日
答え: C
受精卵は細胞分裂を繰り返しながら、約4日で子宮腔に達する。
問題3
現在、出生して成育可能と考えられる妊娠週数はどれか?
A. 20週
B. 21週
C. 22週
D. 23週
E. 24週
答え: C
現在、出生して成育可能なのは、妊娠22週以降と考えられている。
問題4
胎児以外の部分、すなわち胎盤、臍帯、羊水、卵膜は何と呼ばれるか?
A. 胎児付属物
B. 胎盤物質
C. 妊娠副産物
D. 胎児外器官
E. 胎児栄養物
答え: A
胎児以外の部分、すなわち胎盤、臍帯、羊水、卵膜は胎児付属物と呼ばれる。
問題5
妊娠中に循環血漿量が増加し、ピークになるのは妊娠何週か?
A. 28週
B. 30週
C. 32週
D. 34週
E. 36週
答え: C
妊娠中は循環血漿量が増加し、妊娠32~34週にピークとなる。
問題6
腟内のpHがアルカリ性の場合、何が分かるか?
A. 流産
B. 出血
C. 破水
D. 早産
E. 胎盤剥離
答え: C
腟内のpHがアルカリ性の場合、破水していることが分かる。
問題7
妊娠中に下大静脈が圧迫されることで、何が起こりやすくなるか?
A. 深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症
B. 血栓性静脈炎と脳卒中
C. 冠動脈疾患と高血圧
D. 肺炎と気管支喘息
E. 骨粗鬆症と骨折
答え: A
肥大した子宮により下大静脈が圧迫されるため、深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症を起こしやすくなる。
問題8
妊娠初期にみられる、嘔気や嘔吐を伴う症状は何と呼ばれるか?
A. 胎動
B. つわり
C. 羊水塞栓
D. 胎児浮腫
E. 子癇
答え: B
妊娠初期には、つわりと呼ばれる嘔気や嘔吐がみられることがある。
問題9
臍帯は何本の動脈と何本の静脈からなるか?
A. 動脈1本、静脈1本
B. 動脈1本、静脈2本
C. 動脈2本、静脈1本
D. 動脈2本、静脈2本
E. 動脈3本、静脈1本
答え: C
臍帯は、動脈2本、静脈1本の計3本の血管からなる。
問題10
妊娠に関連した異常の主症候として適切なのはどれか?
A. 下腹痛と不正性器出血
B. 頭痛と耳鳴
C. 動悸と息切れ
D. 背部痛と視力低下
E. 吐血と胸痛
答え: A
妊娠に関連した異常の主症候は下腹痛や不正性器出血である。
問題11
異所性妊娠の多くが発生する部位はどれか?
A. 子宮
B. 卵巣
C. 卵管
D. 腟
E. 卵管膨大部
答え: C
異所性妊娠のほとんどが卵管妊娠である。
問題12
妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし、てんかんや二次性痙攣が否定されるものを何というか?
A. 子癇
B. 子宮筋腫
C. 胎盤剥離
D. 子宮破裂
E. HELLP症候群
答え: A
妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし、てんかんや二次性痙攣が否定されるものを子癇という。
問題13
子癇で特徴的な所見に含まれないのはどれか?
A. 意識消失
B. 痙攣
C. 高血圧
D. 呼吸困難
E. 背部痛
答え: E
子癇で特徴的な所見は意識消失、痙攣、高血圧である。
問題14
子癇での応急処置として適切でないものはどれか?
A. 気道確保
B. 誤嚥防止
C. 酸素投与
D. 心臓マッサージ
E. 救急搬送
答え: D
子癇での応急処置は、気道確保、誤嚥防止、酸素投与である。
問題15
HELLP症候群とは、溶血、肝機能異常と何の略語か?
A. 血小板増加
B. 血小板減少
C. 白血球増加
D. 血小板凝集
E. 赤血球増加
答え: B
HELLP症候群とは、溶血、肝機能異常、血小板減少の頭文字である。
問題16
常位胎盤早期剥離の典型的な症候は何か?
A. 胎児浮腫と痛み
B. 子宮の膨張と背部痛
C. 突然持続的に収縮して固くなる板状硬と痛み
D. 胎児の成長と倦怠感
E. 羊水減少と下腹部痛
答え: C
常位胎盤早期剥離での典型的な症候は、突然持続的に収縮して固くなる板状硬と痛みである。
問題17
陣痛開始から子宮口が全開するまでを分娩第何期というか?
A. 第1期
B. 第2期
C. 第3期
D. 第4期
E. 第5期
答え: A
陣痛開始から子宮口が全開するまでを分娩第1期と呼ぶ。
問題18
羊水塞栓の典型的な症候に含まれるものはどれか?
A. 腰痛と吐き気
B. 呼吸困難と血圧低下
C. 高血圧と尿意
D. 背部痛と浮腫
E. 皮膚のかゆみと発熱
答え: B
羊水塞栓の典型的な症候では、分娩中または分娩後の突然の呼吸困難と血圧低下である。
問題19
妊娠末期の妊婦を搬送する際にとるべき体位はどれか?
A. 仰臥位
B. 右側臥位
C. 左側臥位
D. 座位
E. 立位
答え: C
妊娠末期の妊婦を搬送する際は左側臥位をとる。
問題20
新生児が啼泣しない場合の対応として適切なものはどれか?
A. 頭を軽く叩く
B. 背中を指で擦りあげる
C. 足を持ち上げる
D. 顔に水をかける
E. 首を左右に動かす
答え: B
娩出後、新生児が啼泣しない場合は、背中を指で擦りあげるようにして刺激する。
参考文献:救急救命士標準テキスト
救急救命士試験対策に最適!『救急救命士 基礎から応用まで 試験対策問題集』のおすすめポイント
救急救命士を目指している学生の皆さんに、講義での学習に加えてしっかりとした試験対策ができる問題集をご紹介します!その名も『救急救命士 基礎から応用まで 試験対策問題集』です。
この問題集は、従来の国家試験過去問だけに頼らない、国家試験の過去問題を20年分徹底分析により国家試験に出題される問題が作問されています。過去問に加え、オリジナル問題を豊富に収録しており、救急救命士の学生が定期試験や国家試験に必要な知識をしっかり身につけられる内容です。現場で役立つ知識も含まれているので、試験対策だけでなく、実務にも直結する1冊です。
この問題集の魅力
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主な対象者
専門学校・大学の学内試験を控えている学生
国家試験対策の基礎固めをしたい学生
救急救命士養成課程前の救急隊員
効率的な学習の3ステップ
講義の復習
授業で強調された内容をメモし、理解できなかった部分は講師に質問!参考書や資料を活用して理解を深めましょう。問題を解く
問題を解くことで理論を実践に結びつけ、時間制限を設けることで試験本番への準備が整います。特に間違えた問題を重点的に復習することが重要です。解答と選択肢を見直す
間違えた問題を振り返り、なぜ間違えたのかを理解して次に活かしましょう。微妙な選択肢の違いにも注目し、落とし穴に気づく力をつけていきます。
国家試験直前の学生にはコチラ!
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「聴いて学ぶ」救急救命士標準テキスト
47_妊娠・分娩と救急疾患
①音声解説
②聞き流し1問1答
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