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121.【大きな本屋:小説家と女の子と視えるおじさん】
※ ちょっとグロテスクな部分もあるので、そういうのが苦手な方はお気をつけて。
ある日の夢は……
本屋から始まった。
78.【本屋】の夢に出てきた小さな本屋ではない。
人がいるから、アッチノ世界にあるマネキンショッピングセンターの中にある本屋でもない。
新品の本と一緒に中古の本も文房具も売っているようなもっと大きな本屋。
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ここは前に夢で一度だけ来たことがあった。
その時は不自然なほど無造作に積み上げられた児童書や絵本の中から本を探している夢だった。
今回の夢は文房具コーナーの前にいた。
店内には所々にフラットな形のソファーが置いてある。
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近くのソファーに座って文房具を眺めていたら、隣に座った人がアタシの顔を覗き込んできた。
少し外にハネた黒髪のショートヘア、赤いリップを塗った唇、白い肌の綺麗な若い女の子だった。
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アタシと目が合うとニコッと笑って「何しているんですか?」と聞いてきた。
外国人なのか、少し日本語が片言に感じる。
「ぼーっと店内を眺めていました」
ニコニコ笑いながら女の子は頷いて
「じゃあ、ワタシも真似していいですか?」とアタシの目を見つめる。
「いいですよ」
そう答えると、また嬉しそうにニコニコしながらどこかを指さした。
「あれはなんて言うんですか?」
見ると何かの文房具だった。
同じように他にも色々と聞いてくる。
分かる範囲で教えると、女の子も自分の国の言葉にしてアタシに教えてくれた。
でも、何を聞かれて彼女がどこの国の人なのか起きたら忘れてしまった。
「あっちに行ってみませんか?」
女の子は新品の本がある方を指さした。
何かの本の特設コーナーが見える。
近くまで行ってみると、同じ小説が山積みにされていた。
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POPには紹介文と一緒に大きなイラストが描かれている。
ウェーブのかかった長めの黒髪に
頭を掻きむしる名探偵がかぶっていそうな帽子を目深にかぶって、ニッと笑っている男性のイラスト。
アタシが何かで見た記憶なのか、夢の中の記憶なのか、イラストを見て知っていると思った。
主人公はいつも同じ帽子と緑色のコートを着ていて、黒猫が相棒。
社会現象になるほど爆発的に人気になったキャラクター。
そういうイメージがあった。
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「あー、これ新刊出たんだ」
山積みにされた小説の表紙カバーは、街灯に照らされた道を縦に並んで歩く黒猫と男性のイラスト。
周りを見渡すとその小説を漫画化した作品とイラスト集の特設コーナーもあった。
そのすぐ側でエプロン姿の店員らしき人が二人で何か作業をしていた。
「この本、あなたも好きですか? 買いますか?」
女の子は一冊手に取りながらアタシに聞いてきた。
「気になるんだけど、これの前の作品をまだ読んでないの。新品はもう売ってないし、中古も高くて買えないんだよね」
話していたら、なんとなく視線を感じる。
顔を上げると女性店員と目が合った。
女性店員は目が合ったままピクリとも動かずに質問してきた。
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「その作品のファンなんですか?」
「えっ……はい、好きですよ」
そう答えると女性店員は横を向いて、隣りにいた男性店員に話しかけた。
「ですって。先生」
男性店員は作業する手を止めて、ゆっくりとアタシの方を見た。
「先生って……作者なんですか?」
「そうですよ。この小説は俺の作品です」
それを聞いてアタシは変にテンションが上がった。
「えっ、凄い。あのお聞きしたいことがあります。変な夢を見ることが多くて、昔から夢日記を書いているのですが、上手く言葉に表せないんです。どうやったら書けますか?」
そんなような質問をしてしまった。
男性店員は下を向いて少し考え込むような仕草をした。
でも、すぐに顔を上げてこちらを見たと思ったら、どこからか何かを取り出してアタシに差し出した。
手に取ってみるとそれは表紙カバーが外された本だった。
「これは新刊の前の作品。名前は?」
「えっ……名前は◯◯です」
「じゃあ、3日後に返しに来て。どうだったか聞かせてよ」
男性店員は着ていたエプロンのポケットから擦り切れた紙とペンを取り出すとアタシの名前を書いた。
「えー珍しい。その本、先生が選んだ相手にしか貸さないんですよ」
女性店員は耳打ちするように囁いてきた。
でも、アタシはそのことよりも小説を3日で読んでちゃんと返せるかどうか、そっちの方が心配で頭がいっぱいだった。
「急いで読まなきゃ……よし、帰ります!」
アタシは店員さん達に挨拶をして、女の子と一緒に本屋を出た。
本屋の外はタイルが貼られたトンネル状の通路になっていた。
通路の先には階段があって、その階段を上るか下りるかすると、アッチノ世界にあるターミナルと呼んでいる場所の近くに出る。
夢の中のアタシの記憶なのかわからないけど、そんな感覚があった。
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今は夜の時間帯なのだろうか。
それともアッチノ世界にあるずっと変わらない夜の場所なのか、通路の中は薄暗かった。
点々とある白っぽいライトがなんだか不気味な雰囲気を醸し出していた。
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「本、よかったですね」
「ほんと。まさか作者がいるなんて思わなかったですよ」
女の子と会話しながら通路を歩いていると――
「ねぇ、待って」
背後から声がした。
振り返ると、さっきの男性店員だった。
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小走りで近づいてきて、アタシと女の子が何かを言う前に話し始めた。
「キミにとっては夢であっても、この世界にいる俺達にとっては起こること全てがノンフィクションなんだ。わかるか? まるで自分もこの世界にいるような、この世界の一部でありたいと思えるような、そんな表現。それがキミに必要なこと。それができなきゃ俺達の存在は無意味だ」
険しい表情でそんな風なことを言うと男性店員は本屋に戻っていった。
女の子とアタシは思わず顔を見合わせると、お互い無言のまま前を向いた。
その瞬間、目の前の景色が変わった。
同じ通路。
さっきまで夜のように薄暗かったはずなのに、今は夕焼けのような明るいオレンジ色の光に照らされている。
まるで古い映画を見ているみたいに景色全体が白っぽく霞んで見える。
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横を見ると女の子の姿も変わっていた。
黒髪の一部分が蛍光色の黄色いメッシュになっていた。
メイクも派手になっているし、服も毛皮っぽい白い上着と丈の短いワンピースに変わっている。
その前がどんな服を着ていたか思い出せないけど、一昔前のファッション。
そんな風に感じた。
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突然、目線なのか感覚なのか、女の子の方に移動した。
さっきまでアタシが歩いていた左側には見知らぬ男がいた。
怖そうな顔、派手な柄シャツ、先のとんがった靴にゴツいネックレス。
短髪の男の髪も一部分が青色に染まっていた。
THEチンピラとその恋人、または愛人。
そんな二人だった。
腕を組みながら二人で長い通路を歩いていると、前に上下白っぽいスーツを着たおじさんがいた。
片足だけ雪駄を履いていて、裸足の方の足を少し引きずるようにゆっくりと歩いていた。
襟足が長めのおじさんの髪色は緑色。
おじさんの横を通り過ぎながら、女の子が心配そうに振り向いた。
女の子の目線になったり、離れたり……
アングルがゆらゆらと変わる。
「ねぇ、ケンちゃん。あのおじさん可哀想」
そう女の子が言うと男は立ち止まって、おじさんの方をチラッと見た。
大きくため息をつきながらおじさんの前まで戻ると
「おっちゃん、これ履きな」と言って自分の靴を脱いで渡した。
「さすがアタシのケンちゃん! 優しいね。 ありがとう」
女の子が嬉しそうに男に抱きついた後、靴を履き替えているおじさんを支えるように腕を組んだ。
「おじさん、アタシのパパに似てるから放っておけなかったの」
女の子がそう言うと、おじさんはモソモソと男とも腕を組んで二人の顔を交互に見た。
「ねえちゃんのパパ、にいちゃんのパパ」
自分の顔を指さしながら子供みたいにニマッと笑うおじさん。
三人でゆっくりと通路を歩いていると、赤色と真っピンクの髪色の男達が足早に横を通り過ぎていった。
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同時におじさんが立ち止まった。
あと少しで通路の突き当り。
「おじさんどうしたの? あっちに行きたくないの?」
心配そうに見つめる女の子。
おじさんは組んでいた腕をそっと外して青髪の男の後ろに立つと、彼の首のあたりに両手をかざして
「にいちゃん、この辺パーンと撃たれてグシャッとなって死んじまうわ。にいちゃん、この辺パーンと撃たれてグシャッとなって死んじまうわ」と手を動かしながら二回言った。
続けてすぐに「わしも死んじまうのかな……」と悲しそうに呟いて、両腕をだらんと下げてうつむいた。
「死んじゃうって……どうしてそんな怖いこと言うの。そんなことにはならないよ。大丈夫。ほら、行こ?」
女の子がおじさんと腕を組み直した瞬間、違う映像に切り替わった。
眩しい光の中、パーン、パン、パンという銃声のような音。
その後に男の叫び声が聞こえて、ぐるっとアングルが変わった。
その先に壁にもたれかかるように座る女の子の姿が見えた。
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「えっ、何今の……」
女の子は一瞬動揺したけど、おじさんを不安にさせたくないからか何も言わずに歩いていた。
やっと通路の突き当たりまで来ると、左側に別の通路と階段があった。
「おじさん、どっちに行くの? あっち? それともこっちの階段?」
そう言いながら女の子が階段の方を指をさした時、階段を小走りで上ってくる男達の姿が見えた。
赤色と真っピンクの髪色。
よく見ると手には銃を持っていた。
「ケンちゃん! あの人達、銃持ってる!」
女の子が叫ぶと青髪の男は先に上ってきた真っピンク髪の男に裸足で蹴りかかった。
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真っピンク髪の男は蹴られた勢いで壁にぶつかって、銃を落としてしまった。
女の子は急いで銃を拾って、小走りで非常ドアがありそうな少し奥まった空間へ走った。
前を見ると、おじさんが両手で頭を覆いながら右往左往している。
その奥の通路で青髪の男が真っピンク髪の男を殴っている気がするけど、通路から差し込む光が眩しくてよく見えない。
おじさんをこちらへ連れてこようと女の子が立上がりかけた時、おじさんと青髪の間に赤髪の男が立った。
光のせいでよく見えないけど、青髪の男の方に銃を向けているのがシルエットでわかった。
「ケンちゃん危ない!」
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女の子はとっさに持っていた銃を撃った。
銃なんて撃ったことがないからか、よろけて弾は赤髪の男の左側のこめかみ当たりをかすめて、血しぶきのような物が見えた。
見えるもの全てがスローモーションのように遅く感じる。
静かに散っていく血しぶきを見つめて目線を戻した瞬間、赤髪男が女の子に向けて銃を二発撃った。
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女の子は撃たれた衝撃で、そのまま後ろへ座るように倒れた。
あー、さっき見たのはこれだったんだ。
女の子は青髪の男がいた方を見た。
徐々に視界がボヤケていって、誰のかわからない男の叫び声が聞こえる。
ケンちゃんもおじさんも死んじゃうのかな……。
そう女の子の気持ちが伝わってきた瞬間に目が覚めた。
最近の夢は精神的な部分が影響しているのか、誰かが死んだり血を見ることが多い。
小説家の男性店員は、屋根のない洋服屋にいるお兄さんみたいにアッチノ世界について色々知っていそうな気がした。
夢の中のアタシはちゃんと小説を返したのだろうか。
次に見た時にまだ持っていそうで嫌だな。
そんな夢でした。
別サイト初回掲載日:2019年 04月05日
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