「劇場版若おかみは小学生!」は用意周到な映画
先日、NHKEテレで放送された若おかみは小学生!を見た。
個人的感想はこんな感じ。
捻くれた私「うーーーん! これは泣かせようとする意図をどうしても感じてしまうからいい話だけどちょっと目を逸らしていよう!」
評価をする私「80点の出来。それ以上でも以下でもない。加点も減点も出来ない。珍しい作品」
ワガママな私「子どもが成長と引き換えに不思議に触れる能力を失う作品のラストってよくあるけど嫌だな。私魔女宅でジジが喋らなくなる展開嫌いなのよね」
……というわけで、素直に見れなかったわけだ。しかし素直に見れないわりには涙ぐんだので、それでも引き込む力があったのはすごい。なお、隣で見ていた旦那はボロ泣きしていた。
で、色々内容を思い返していると、この作品って色々と用意周到だよなと思ったので、振り返る。
深読みはさせるが、決して押し付けてはこない作風
若おかみは小学生は優しい世界だとよく言われる。
しかし、私は世の中の出来事や、各アニメの感想などでよく言われる「優しい世界」という言葉について、思っていることがある。
「優しい世界」はそれに対する「厳しい世界」を辛い現実世界、もしくは鬱作品の世界によって鑑賞者が知っていないと知覚出来ない。
ということだ。だから、基本的に大人でないと厳しい世界のカウンターである「優しい世界」は感じ取れない。
大人であればあるほど、「従業員にいびられ客に怒られる可哀想な若女将」だとか「派手なお嬢様は意地悪なライバルキャラ」とか、先入観を持って作品を見ることになる。「加害者は許せない」のもそうだ。
だから、その先入観をひっくり返されることによって「優しい世界」が発生し、大人の方がより泣けてしまうのではないかと思う。この作品の「泣ける」ところは、大人の深読みによってしか発生しない部分が多い。
捻くれた私の感じた「泣かせようとする意図」は私の深読みから来たものでしかなくて、私は自分の深読みから目を逸らしたがっていたのであった。
これがたとえば、「おっこ本人が最初は若女将の仕事を嫌がっていた(困惑はしたし虫は嫌がったが仕事を嫌がってはいない)」とか「おっこ本人が真月を嫌な子だと認識していたが後に見直したことを明言した」のだったら、作品の押し付けがましさが増えて、(逆に子どもやあまり創作に触れないタイプの人には分かりやすくなり)私にとって嫌な感じの作品になっていたと思う。
ウリ坊と美陽ちゃんの存在と消失について
この、深読みをさせる作風だからこそ、「両親も幻覚(なのか回想なのか幽霊なのかはっきりさせないような演出になっている……)だし、ウリ坊と美陽ちゃんの存在もPTSD由来の幻覚である」という深読みの仕方も出来てしまう。更に、「おっこが癒されたから最後に成仏という形で消えた」と結論づけることも出来てしまう。
そう解釈した人をSNSで見かけた。
私自身はウリ坊と美陽ちゃんまで幻覚ではないだろうと思いつつ、ワガママな私は「成長と引き換えに不思議に触れる能力を失う」という、よくあるセオリーを思い出して嫌だなーと思ってしまった。
しかし、よく考えれば。
ウリ坊は本来「峰子お祖母ちゃんへの幼馴染」としてこの世にいたし、美陽ちゃんは「真月さんの姉」としてこの世に留まっていたのである。ウリ坊は「峰子ちゃんの跡継ぎが出来た」、美陽ちゃんは「妹に声だけは認識されていたことが分かり、おっこという友達も出来た」という、それぞれ別のしっかりした理由で成仏したのだ。
だから、「深読み」しなければ、ウリ坊と美陽ちゃんの成仏は「おっこ自身の成長とはほぼ無関係」ということになる。
それと、もし作品上の「不思議な存在」が三人ではなくて一人だったらより強く「成長と引き換えの喪失」を強調されただろうが、「三人いて、その中の二人」なのである。なんというか、お別れの寂しさが分散される。
更に、この作品には「グローリー水領」というかなり現実離れしてるカッコいい女性が現実におっこの友達になってくれる。この人が幽霊二人よりもよっぽど非現実的なスーパーな存在なので、不思議を喪失する悲しみが少なくて済む。
もう一つ。この作品外の話をすると、この話はテレビアニメ化もしており、そちらでは別に幽霊たちとお別れはしない(原作は見ていないので分からないが)。確か、温泉の神と対峙したけどまだまだおっこの毎日は続くエンドだったはず……。
映画のストーリーは一つのパラレルだからこそ、思い切ってオリジナルとして成仏展開を組み込むことが出来たのだろうな、と思う。
というわけで、客観的に見るととても配慮が行き届いているし丁寧な作品ではあるけど――、主観的に見たら「好き」ポイントはそんなにないなぁーっと思ってしまったので、評価をする私的には80点、あとは好みの問題だね、という所なのだ。
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