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七夕の白昼夢
七夕の日。
たしか、去年もここの商店街に来た気がする。
さびれ気味のこの商店街の、この七夕の飾りが好きだ。
偶然の通りがかり。
七夕飾りの写真を撮ってから、南の方向、駅の方に歩いていたら、少し前方の路地に座っていたお婆さんが、私に気がついて小走りに近づいて来ようとしているのが見えた。
いや、まさか私に用事があるわけないよね。
私はそのお婆さんの目線の先がどこに向いているか解る程に視力が良くないので、いまいち確信が持てなかったが、お婆さんはやはり私めがけて近づいて来ているような雰囲気だ。
え?私?
何で?私?
この人は知ってる人ではない。
他にも多少の人通りが有ったので、なぜわざわざ私を待っていたかのように、こちらに向かって来るのか謎でしょうがない。
だけど私も直進し、お婆さんは駆け寄っていたので、とうとうお婆さんは私の目の前に来てしまった。
あ、やっぱり私に用事があったんだ。
お婆さんはカゴを背中に背負って野菜を売りに来る行商のお婆さんのいで立ち。
ほっかむりをしていて、長袖のシャツにモンペみたいなパンツを履いてる。
この茄子で煮浸しにしたらいい。
どうやら、私に茄子を買って欲しいと言いたいようだ。
新鮮なナス、2本で100円!
そう…。
そしたら下さい!
と私。
あ、今日はこの辺りに野菜を売りに来てるのかぁ〜
と少し納得してお婆さんのカゴの中を見てみると、
カゴの中には、私に渡そうとしているナスを2本入れたビニール袋が一つきりしか無かった。
最後の一袋なのかな?
お婆さんは真顔で、ニコリともしない。
暑いですね!
って言っても、そのしわしわの顔はニッコリともしない。
そそくさと100円とナス2本のビニール袋を交換して私たちは別れた。
とても不思議な気分。
それでこんな文まで書いている。
お婆さんは、私を待ってましたとばかりに
割と遠くから私を見つけ
ピンポイントで私に茄子を売り込みに来た。
買ってくれそうな人がわかる、その勘たるや素晴らしい。
買ってくれる人がわかるセンサーを持っているにもかかわらず
たった100円の取り引きも謎すぎる。
私の前にたくさん野菜を売って
ちゃんと無事完売して帰るようなら
私もなんとなくハッピーだ。
でもそれを確かめるすべはなかった。
私は突然茄子を渡されて頭の中はハテナマークでいっぱいだ。
まるで夢みたい。
湿度が非常に高い、七夕の白昼夢。
茄子2本をカバンに入れて
私はお客様の家に向かった。