犬たちの密かな使命~ミッション・ワン・ポッシブル
意外と知らない人が多いのですが、地球上のすべての生き物たちは、常日頃みんなで集まって会議をしています。その目的は、お互いがどうすればもっと調和して暮らせるかを話し合うこと。森の奥深く、静かな湖のほとりで、その会議は何億年も続いています。
そう、お気づきだと思いますが、そこに人間はいません。彼らの中でもそのことは最大の課題となっています。人間という種だけが他の生き物たちとの調和を忘れてしまい、自分たちの繁栄ばかりを追い求めているからです。
ほんの百年ほど前のある日、森の長老であるフクロウが翼を広げて言いました。
「我々はこの地球を皆で分かち合うよう進化してきた。しかし、最近誕生した人間は他の生き物たちの声を聞くことをやめてしまったようだ。いつかは気づいてくれるかと思っていたが、このままでは、彼らも、そして我々の未来も閉ざされてしまう。」
自分も言わずにはいられない、と、カエルが池から顔を出して言いました。
「彼らは私たちが何を言っても聞こえないみたいだよ。水が汚れているよ、と跳ね回って伝えたけど、彼らはただ笑っていただけだ。」
静かに宙を見つめていたオランウータンも静かに口を開きました。
「私たちの熱帯雨林はどんどん切り倒されている。木々がなくなるたびに、家を失う仲間が増えている。それに、人間はその危険に気づいているようには見えない。」
「人間に気づかせなければならない。だれが彼らと話す役目を担う?」
一瞬、輪の中に重い沈黙が訪れました。誰もが互いをちらりと見ながら目をそらします。長い年月の間に積み重なった疲れと不安が、言葉の代わりにその場を覆います。
カエルは池の中に戻り目だけを出しています。オランウータンは腕を組み、深い息をつきます。フクロウは翼をゆっくりと閉じて、無言で誰かに視線を送ります。
「…犬だろう。」誰かがポツリとこぼしました。
「そうだ!人間たちの一番そばにいて、彼らが一番信頼している彼らに任せるのが良いんじゃないか?」
その場に並んだすべての目が犬に向けられました。
犬は少し驚いた顔をしましたが、すぐに深くうなずきました。
「確かに私たちは昔から人間のそばにいます。彼らとコミュニケーションを取る方法も知っています。私たちが試してみます!」
それから何世代にもわたり、犬たちは人間に気づいてもらおうと全力を尽くしました。疲れたときには、そっと寄り添い、地球が抱える問題について念を送ります。たとえば、川が汚れているときには、水辺でじっとその方向を見つめたり、山火事が起きたときには吠えて知らせたりしました。
しかし、人間の多くはそのメッセージに気づきませんでした。忙しい日々に追われ、耳を傾ける余裕を失っていたのです。
ある日、一匹の若い犬が、年老いた人間のそばに座っていました。彼らの前ではブルドーザーがうなりを上げて山を崩し、そこに新しいまちを作ろうとしています。老人は特に興味もなさそうにその様子を見るともなく見ていました。
犬は木々たちや、そこを追いやられる動物たちの声を届けようと、目を覗き込んだり鼻を鳴らしたりしてみますが、老人はいつも通り全く気づきません。その犬の目には、何世代にもわたる犬たちの努力と希望、そして半ば絶望にも似た感情が宿っていました。
そのとき、小さな子どもが近づいてきました。子どもは犬の目をじっと見つめ、ふと何かを感じ取ったように言いました。
「なにか言いたいの?」
犬はしっぽを振りながら、そっと子どもの手にあごを乗せました。そして、少し時間を置いて、寂しそうな目で無惨に崩された小山を見つめました。その仕草から、子どもはまるで犬の思いを心の中で聞いたかのように、小さくうなずきました。
「山がかわいそう、って言ってるんだね!」
その瞬間、犬の目に希望の光が戻りました。キラキラした目で子供の目を見つめ、大きくしっぽを振ります。
「どうしたの?」急に様子が変わった犬に、子どもが尋ねます。
犬は激しくしっぽを振りながら、喜びが抑えられないと言った様子でくるくると回ります。つられて子どもも楽しくなってきました。
犬たちは気づきました。大人が変わるのは難しくても、子どもたちは純粋な心で何かを感じ取る力がある。その小さな気づきが、未来を変えるきっかけになるかもしれない。犬たちは子どもたちにもっと寄り添うことを決意しました。
まだまだ時間はかかるかもしれないけど、思いが伝わった子どもたちが、大人になったとき、なにかが変わるかもしれない。
あなたの近所に、子どもには懐くのに、大人にはそっけない犬はいませんか?もし彼らの仕草や目にじっと目を向けてみれば、彼らが何を伝えようとしているのか、感じ取ることができる瞬間があるかもしれません。
きっとそのとき犬は、これまでにないくらい喜んで、あなたを受け入れてくれることでしょう。