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波瑠ちゃんファンによる映画『アナログ』ネタバレ感想③

波瑠ちゃんファン目線でお送りしている『アナログ』ネタバレ感想。第3回は、夜の海のシーンから、日記のシーンまでを見て行こうと思います。起承転結の転に当たる部分ですね。個人的に、アナログな恋の尊さと脆さのいずれも垣間見えるパートだと思っています。見ていきましょう。
第2回はこちらからどうぞ。


夜の海

お母さんの死から1週間。悟は、みゆきさんと1ヶ月ぶりにピアノで再会します。みゆきさんに何があったのか、この時点ではまだ分かりませんが、悟は、海に行きませんかと誘います。
暗い夜の海。そこに佇む2人。悟は母との思い出を語ります。思えば、海は悟にとって家族との大事な思い出の地でしたね。遺影の中のお母さんもサーファー姿でしたから、悟の子どもの頃の心象風景には海があることが伺えます。
そんな悟を、みゆきさんは抱きしめます。波瑠ちゃんと二宮さん、身長が4㎝くらいしか変わらないんですよね。だから、お互いがお互いの悲しみに寄り添っているような、そんな印象を受けました。きっと、みゆきさんが悟を抱きしめてくれて、お母さんもホッとしたでしょうね…

月のクリスマスツリー

それから、2人はまた木曜日にピアノで会うようになりました。ある日、2人は紅葉を見に行き、そこで、みゆきさんが悟をある場所へ案内します。そこは、みゆきさんが子どもの頃から慣れ親しんでいた教会でした。裏手に植わっているもみの木に満月が上ると、クリスマスツリーのように見える。それを悟にも見せたかったのです。そして、クリスマスの時期に来たいと口にします。可愛いね、みゆきさん……

海で休日デート

ある休日には、昼間から2人で海に出かけました。このシーンは本作の象徴的な場面だと思いますので、詳しく見ていきましょう。

ロケ地がとにかくエモい

ロケ地は、千葉県南房総市にある岡本桟橋(原岡桟橋)です。

三脚いっぱいあった

夕焼けの名所として有名であり、筆者が訪れた時も陽が沈みかけて良いタイミングでした。入り江なので波も穏やかで、オレンジ色の空に陽の光が映える水面が綺麗です。ここに桟橋作って電灯通したの、センスがありすぎます。

陽が沈むとすぐ暗くなる

しかも夜になるとちゃんと電灯も灯りますからね。素晴らしすぎる。作中では昼間でしたが、夕暮れ時も良かったですよ。

ちなみにトイレにポスター掲示されてた

糸電話ではしゃぐみゆきさん

そして、予告の段階で分かってはいましたが、やはり糸電話を持ったみゆきさんが可愛かった。
まずお伝えしたいのが、みゆきさんの紙コップの持ち方!あの細くて長い指の上にそっと置いた感じ。ぎゅっと力強く握らず、少しでも衝撃を与えたら壊れてしまいそうな、まさにガラスの指。実際白すぎてもはや透明説はあります。あれ?波瑠ちゃん糸電話なんて持ってましたっけ?コップが宙に浮いてませんでした?
また、このシーンは、携帯がなくても繋がっている2人のアナログな関係性を糸電話を使ってうまく表してて好きです。原作にない場面ですが、文字だけで書かれるとただ年甲斐もなくイチャイチャしてる男女で終わってしまいそうなので、視覚的に2人の関係を象徴させられるシーンを作れる映画だからこそできたことなのかなって思いました。このシーンで、悟は、糸電話の向こうのみゆきさんに向けて、意を決してプロポーズします。しかし、どうやら波の音で何も聞こえていない様子。もっと2人の距離が近かったら!そんなもどかしさを覚えるシーンでしたね。
ちなみに、2人が糸電話で遊ぶシーンにも、先の記事で触れたフィルムを切り取ったみたいな演出が使われてました。映画の尺も調整できて、アナログっぽく時間経過も表現できる。これやっぱり素敵な演出だと思います。

悟の大事な人との居場所にみゆきさんがいるということ

ところで、このシーンといい、夜の海のシーンといい、本作では悟とみゆきさんが心を通わす場所としてよく海が出てきます。先ほど述べた通り、悟にとって、海は家族との思い出の地でした。きっと、海が悟にとっての大事な人との居場所なんでしょうね。だから死を悟った様子のお母さんに今度海に行こうって声を掛けたのでしょうし、お母さんが亡くなった後、みゆきさんを海に誘ったのも、悟にとってみゆきさんが大事な人だったからではないでしょうか。悟の大事な人との居場所には、今はみゆきさんがいます。2人が手を繋いで海の方へ向かって桟橋を歩いていくシーンは、2人の将来を象徴しているようで、どこか切なくも感じました。

プロポーズをしたい悟

指輪を買いに行く

糸電話では伝わらなかった。それなら、直接想いを伝えよう。指輪を添えて。高木と山下に後押しされながら、悟は指輪を購入しました。まだ付き合ってないのに結婚ですか?筆者も初見の時はびっくりしましたが、回を重ねるごとに、別におかしなことでもないのかなと思えてきました。第三者には分かりませんが、アナログな恋を紡いできた2人の間には、途切れることなく時間が流れていたんでしょうね。

「みゆき通り」は狙ったらしい

いなくなるみゆきさん

迎えた木曜日。悟はスーツを着て、指輪を携えて、ピアノでみゆきさんを待ちます。すると、みゆきさんが慌ただしく駆け込んできました。どうやら、父に夕食を作らないといけないので、今日は都合が悪いとのこと。おい親父!飯ぐらい自分でどうにかしろよ!!!!
とはいえ、一瞬でも来てくれたみゆきさん。「顔も見たかったので」。言われたすぎる。みゆきさんに顔も見たかったって言われたすぎる。みゆきさん、スマホ買ったら、悟の写真を隠れて撮ってずっと眺めてそう。職場で見てクスッと笑って周りに不審がられてそう。
別れ際。悟は、来週お話したいことがあると告げます。すると、みゆきさんもお話したいことがあると返します。みゆきさんがお話したいこととは一体…?プロポーズはできませんでしたが、次の木曜日への確かな期待をもって、悟はみゆきさんと別れました。
しかし、彼女はそれから姿を消しました。

みゆきさんのいない1年

涙のキッス

あの日以降も、悟は毎週木曜日ピアノに通っていましたが、みゆきさんは現れず…しまいには高木と山下とヤケ酒する始末。カラオケでひたすら「涙のキッス」を歌っていましたが、もしかしたら海の好きなお母さんがサザンのファンで、よくこれを聞いてたのかなとか邪推しました。どんだけお母さんっ子なんだよ。

大阪転勤

そして、悟は大阪へ転勤となります。仕事も順調で、良い同僚にも恵まれた様子。一見もうみゆきさんのことは気にしていない様子ですが、やはりどこか物悲しそうな気配はします。
ちなみに、原作の悟は未練タラタラです。大阪のマンションの部屋の仏壇にみゆきさんに渡そうとしていた指輪を置いて、捨てられずにいました。先ほど述べた通り、勝手に女が寄ってくるぜ系の方の悟だからこそ、そこまで1人の女性との恋を引きずっているというのは、その思いの強さが伝わってきました。

「ナオミ」との再会

原作は自ら、映画は友人から

大阪に来てから1年。壁の内装に取り組んでいる悟のもとに、高木と山下が訪ねてきました。2人から告げられたのは、みゆきさんはナオミ・チューリングとして世界的に有名なバイオリニストであり、ピアニストのミハエルと結婚したが、病気で先立たれていたという過去と、悟と最後に会った日に、交通事故で脳障害と下半身麻痺になっていたという事実でした。
この展開は原作も同じですが、悟がそれを知る経緯が異なります。原作では、悟がたまたま立ち寄ったCDショップのいつの間にか来ていたクラシックコーナーで手にしたチラシで知りました。悟よ、CDショップでいつの間にかクラシックコーナーにはなかなか行かないよ。きっとみゆきさんへの未練が物凄いんだよ、お前は。
一方、映画では、高木と山下が知らせに来ました。2人からナオミ・チューリングやミハエルのことを聞いても、悟は「だから?」って感じ。この強がる感じも、絶妙にダサく描かれた映画の悟っぽいですよね。筆者も恋愛弱者だから何となく分かるけど、好きな人が急にいなくなったら、「相手にその気はなかった」「自分とは吊り合わない」「もう気にしてない」って強がりたくなるよね。ここら辺の悟の様子が男ながら愛おしかったですね。

車椅子に乗るみゆきさん

そして、悟は、山下の妻のツテでみゆきさんのお姉さんの香津美に会い、みゆきさんと再会します。
事故に遭い、麻痺状態になってしまったみゆきさんを見るのは本当に辛かった……これまで色んな波瑠ちゃんを見てきましたけど、あんな生気のないお顔をしているのは初めて。鳥肌すら立ちました。波瑠ちゃんは目で喜怒哀楽を表す天才だから、その目から完全に感情が抜けていると、とてつもなく無機質な印象を受けました
それに、下半身不随になったみゆきさんがリハビリ受けてるシーンがありましたけど、これ、今年2月に放送された『逢いたくて、もう一度旅に出た』で波瑠ちゃんが触れてましたよね。作品の中で脚を曲げ伸ばしする整体受けたことあるって言ってて、リアタイ時はそんなシーンあったっけ?って疑問だったんですけど、本作のことだったんですね。
それに、よくよくフライヤーを見たら、右上に車椅子のみゆきさんいらっしゃった…!完成披露試写会で1回目観た後これに気付いて、「え、これ最大級のネタバレじゃん……大丈夫?」って、親善大使としてはめちゃくちゃ心配してました。

みゆきさんの日記

みゆきさんの真相を知り、魂の抜けたような悟。彼のもとに、お姉さんが訪ねてきます。お姉さんは、これを読んだら妹のことは忘れてほしいと、みゆきさんの日記を悟に渡しました。悟へのみゆきさんの気持ちが分かる、本作の山場です。

悟に出会うまでのみゆきさん

まず、ミハエルを失い、バイオリンをやめ、日本に戻ってきたみゆきさんは、悟に出会うまで、自分の居場所がないように感じていました。みゆきと名乗り、携帯も持たずと、極力周りと関わらないようにして生きてきた様子も伺えます。きっと、みゆきさんにとって、携帯を持たず、「美春みゆき」と名乗るアナログな生き方には、夫のいない世界から逃れるための避難所みたいな意味があったのではないでしょうか

悟と出会ってからのみゆきさん

しかし、居心地の良い場所としてピアノに通うようになり、そこで悟に母の形見のかばんを褒められてから、徐々に心境が変化していきます。
これは、コンサートデートが大きな節目だったと思います。コンサートデートに行くまでは、自分の悟に対する気持ちにまだ気付いていないというか、「美春みゆき」という避難所(≒ミハエルとの思い出)から出るのを怖がっているような、そんな印象を受けました。悟からの誘いに一拍遅れて返事してたのも、その現れなのかなと思ったり。一方、焼き鳥デートの時に悟をハグしたことについては、悟といるとドイツにいた頃の気分になると回想しています。ドイツはミハエルと出会った場所ですから、そこにいた気分になるというのは、無意識ながらも、悟をミハエルと同じぐらい大事な存在と見ていたということでしょう。
ですが、コンサートでは、ミハエルのことを思い出してしまい、思わず抜け出してしまいます。コンサートの舞台の上はミハエルといた大事な場所でしょうから、悟との日々を押し戻すように、彼との思い出が堰を切って溢れてきたのでしょうか。みゆきさんは、また「美春みゆき」という避難所に閉じこもり、悟と会うのをやめてしまいます。
それでも、みゆきさんは悟と会う決断をします。「悟さんに会いたい」と、まるで「美春みゆき」を振り切って飛び出すように、ピアノへ駆けていきます。実は、糸電話の時も、悟からの告白を受けて、「私、悟さんと生きていきたい」と答えていました。みゆきさんは、きっとミハエルを忘れることにした訳ではないでしょうが、それは過去として、悟との時間を紡ぐことを選んだのだ思います

みゆきさん視点のシーンの意味

みゆきさんの日記のシーンも踏まえると、原作と異なり、本作がみゆきさん視点のシーンをいくつか挟んだのも納得がいきます。
みゆきさん視点のシーンとしては、お姉さんにバッグを褒められたことを報告する場面、職場で鼻歌を歌う場面、悟が大阪から帰ってこれないことを知らずにピアノで待っている場面、そして、ケースにしまったバイオリンと向き合う場面があり、これらが点と点で描かれていました。それが、日記のシーンで線で繋がれたことにより、悟と出会ってからのみゆきさんの心境の変化を表していたのだと判明します。つまり、本作は、みゆきさんの心境の変化を彼女の視点で描くことにより、彼女のことも悟と並ぶ物語の主体(ある意味で裏の主人公)にしたんですね。原作は、始めから終わりまで全編悟視点で描かれており、みゆきさんはある種悟の恋愛の客体として描かれています。それを、映画は、みゆきさん視点のシーンを差し込むことで、物語の主体に転換したのです。
筆者は、前の記事でも述べた通り、みゆきさん視点のシーンがあるのを不思議に思っていました。本作はある種のボーイ・ミーツ・ガール的なお話なので、ボーイのアクションがガールの気持ちをどう変えたか(≒ボーイを好きになったか)の答えは、最後の最後までとっておくのが定石だと感じたからです。実際、原作は、終始みゆきさんを悟の恋愛の客体とすることにより、みゆきさんの心境の変化が判明する場面を最後の日記のシーンまで持ち越しています。しかし、本作には、アナログな恋というテーマがあります。アナログな恋には、前の記事で述べた通り、2人が常に会いたいと思う気持ちが必要であり、その恋を続けていくために2人が四苦八苦する様子を見ていくのが醍醐味となります。そもそも、みゆきさんが悟にちゃんと会いに来る時点で多かれ少なかれみゆきさんに気があるのは明らかですから、終始恋の客体として留め置いておく必要はないような気もします。それよりも、みゆきさんも一人称視点で描くことで、悟と同じ恋の主体とし、2人がどうアナログな恋を紡いでいくかを見せる方が、本作の趣旨に合っているのではないでしょうか

みゆきさんが話そうとしていたこと

最後悟とピアノで会った時、みゆきさんは、次の木曜日に話したいことがあると言っていました。あれはきっと、自身の来し方を打ち明けようとしていたんでしょうね。最近携帯をまた買っていたということからも、美春みゆきという避難所から抜け出し、本当の自分である古田奈緒美として悟と生きていこうとしていたのが伺えます。

ちょっとまとめ

今回はここまで。
色々散らかっちゃいましたけど、ひとまず、
・みゆきさん視点のシーンがある意味は?
・みゆきさんから悟に対する気持ちはどうだったの?
についてはこちらで触れることができました!
次回へ持ち越す疑問はこんな感じです。
・冒頭のバイオリンを弾く女性のシーンの意味は?
第4回はこちらからどうぞ。

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