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【板前コラム】「賄いを甘くみるな」安い食材を旨くする力
はじめに|賄いは修行の場
賄い——それは、ただの「食事」ではない。
おいらたち板前にとって、賄いを作る時間は、技術を磨く絶好の機会だ。
新人の頃、親方にこう言われた。
「賄いを適当に作るやつに、いい仕事はできねぇ」
最初は意味がわからなかった。賄いなんて、余った食材で作るものだろう?
でも、経験を積むうちに、その言葉の重みがわかってくる。
安い食材、限られた調味料、それでも旨く作らなきゃならない。
しかも、食べるのは厨房の先輩たち。適当なものを出せば、すぐにバレる。
賄いには、料理人としてのセンスや工夫が問われる。
手を抜かずに向き合うことで、技術も発想力も磨かれていくのだ。
「安い食材」を「旨い料理」に変える力
高級食材がなくても美味しくできるか?
いい食材を使えば、美味しい料理が作れるのは当たり前。
でも、本当に腕のある料理人は、どんな食材でも旨くできる。
たとえば、余った大根の皮。普通なら捨てるかもしれないが、細く刻んで炒めれば絶品のきんぴらになる。
魚のアラも、丁寧に下処理すれば、旨味たっぷりの味噌汁になる。
「どんな食材でも、工夫次第で旨くなる」
この感覚を鍛えるのが、賄いの醍醐味だ。
賄いで磨かれる「味のセンス」
親方から「味付けを考えろ」とよく言われた。
高級な出汁や調味料に頼らず、基本の味付けだけで仕上げる力をつけろ、ということだ。
醤油、塩、味噌、酢——たったこれだけで、いくつもの味が作れる。
この組み合わせを試しながら、「何が足りないか」「どうすれば旨くなるか」を考える。
賄いを作るたびに、味の引き出しが増え、料理人としての感覚が研ぎ澄まされていく。
「食べる人」を想像する力
ただ作るだけでは半人前
賄いを作るとき、おいらが一番大事にしているのは、「食べる人のことを考える」ことだ。
新人の頃、おいらはこんな失敗をしたことがある。
大量の唐辛子を入れたピリ辛炒め。自分では「旨い」と思ったが、親方は一言。
「これじゃあ、辛すぎて食えねぇ」
賄いは、自分が食べるものではなく、みんなが食べるもの。
辛さ、塩加減、量——誰が食べても「旨い」と思えるバランスを考えなければいけない。
この意識があるかないかで、料理の質は大きく変わる。
そしてそれは、いずれ「お客様に出す料理」にも影響するのだ。
まとめ|賄いを制する者が、厨房を制す
賄いは、ただの「まかない飯」じゃない。
そこには、料理の基本と応用、工夫と創造が詰まっている。
✔ 安い食材を、最高の一皿に変える力
✔ 基本の味付けを活かし、味のセンスを磨く
✔ 食べる人を想像し、適切な味のバランスを考える
賄いを真剣に作ることで、料理人としての力は確実に伸びる。
だから今日も、おいらは賄いを全力で作る。
賄いを制する者が、いずれ厨房を制するのだから。