今年のナポリを表す漢字一文字は「変」であることに気付かされたリヴァプール戦 その6
前編はこちら
12月11日
グループステージ最終節のヘンク戦を4-0で快勝しチャンピオンズリーグの決勝ラウンド進出を決めたナポリ。
それにも関わらず、この試合後カルロ・アンチェロッティがナポリの監督を解任させられてしまった。
ADLが解任する決意に至った理由は様々あるだろう。
そして今回フォーカスするアタランタ戦は今季のナポリを取り巻くすべての『不運』が集約されたゲームだと自分は捉えている。
会長がカルロの後任となったガットゥーゾの監督就任会見の冒頭で話した言葉に「カルロのキャリアをこれ以上傷つけたくない」とある。
このアタランタ戦の後に会長が語った言葉にその真意が隠されている。
会長はこんな理不尽なことが罷り通る場所でカルロを働かせることを不憫に感じていたのかもしれない。
今回のアンチェロッティ解任に大きな影響を与えたアタランタ戦
そこでいったい何が起きたのか振り返る。
先発メンバーはこちら
BK陣が野戦病院化したことでルペルトが左SBを務める。
※控えメンバーにマリオ・ルイとトネッリがいるが実質使える状態ではない。
ミリクも騙し騙し使わなければならない状況。
ゲームは試合開始から両チームともCLに出場しているチームらしくコレクティブでインテンシティの高い目まぐるしい展開。
開始10分、相手選手と交錯したアランが右膝を強打し交代を余儀なくされる。
前節マルクィを襲った大怪我があったばかりでナポリファンは戦慄したが、結局打撲という診断。
交代で入ったジエリンスキはアランよりも守備に難があり、この交代の結果、中盤でのボールの奪い合いで少しずつアタランタが勝るようになり試合のペースを徐々に相手が握り始めるかと思われた矢先。
CKからクリアされたボールをインシーニェが拾いCKを蹴ったまま右サイドに開いているカジェホンへ糸を引くようなロングパス。
相手陣に深く切れ込んで完璧にコントロールして上げた優しい軌道のクロスを前線に残っていたマクシモビッチが豪快にヘッドで叩き込みナポリが前半16分に幸先の良い先制ゴールを挙げる。
その後は速攻からファビアンが放ったシュートにGKゴッリーニが弾いた浮き球をミリクが素早く反応してヘッドで狙うもポストに阻まれたりし、なかなか追加点が奪えない。
試合は拮抗したまま前半の終盤を迎え、ゲーム序盤から飛ばしたためか少し運動量が落ちたナポリは左サイドを簡単に切り崩されフロイラーに同点ゴールを許す。
この失点シーンを見ればよく分かるのだが今季のナポリは往々にしてこうしたエアポケットがカンピオナートに関しては度々発生してしまう。
誰もボールにチャレンジしておらず、ゴメスからボールを受けたトロイの侵入をインシーニェは簡単に許し、イリチッチのケアをファビアンが怠ったことでルペルトはイリチッチをチェックしざるを得なくなり結果的にPA内に侵入してきたフロイラーをフリーにしてしまっている。
前節のSPAL戦でも触れたが今季のカンピオナートはこうした「淡白すぎる」ところが目に余る。
前半を1-1で折り返し、そして今季ばかりではなくここ数年のセリエAを象徴する出来事が起こった後半へ
因みにこの試合のあった10月30日はマラドーナ59歳の誕生日
さらには今年1月にナポリを退団したハムシクの帰還と、ナポリにとっては偉大なレジェンド2人のために無様なゲームをしてはいけない特別な日でもあった。
後半59分、前半から飛ばし疲れの見えるロサーノに代わりメルテンスがピッチへ
この交代策で再び前線に活気が出たナポリがゲームを押し気味に進め、チャンピオンズリーグで見せる強いナポリが本物であることを証明するとてもハイレベルな攻防が続く。
そして後半71分、自陣ハーフライン手前でボールを奪取したファビアンが間髪入れず相手DFラインの裏を取ったミリクへキラーパス。
GKと1対1の状況も難なく交わして無人となったアタランタのゴールマウスへ流し込みナポリが突き放しに成功。
後のなくなったガスペリーニは前線のテコ入れにムニエルを投入し、一方のナポリはミリクを下げてジョレンテを投入し前線でなるべく多くキープし時間を稼ぎながら逃げ切りを図る。
そして後半85分にエド・デウランティスをして「カルチョが死んだ日」と言わさしめる出来事が起こる。
敵陣の左サイドから上げたメルテンスのクロスがPA内のファーサイドで待ち受けるジョレンテの下へ
マーカーのシモン・ケアーはジョレンテとの位置関係やボールの軌道から、もう間に合わないと咄嗟に判断したのか、ボールを見ることを止めジョレンテのプレーを阻害するだけの「ラグビータックル」を敢行。
選手はもちろん、このゲームを見ていた全ての人がナポリにペナルティーキックが与えられるものだとセルフジャッジした。
しかし唯一人主審のジャコメッリだけは「ジョレンテの腕がケアーのプレーを阻害してたし何も起きていなかった」と判断し、試合を続行。
※VARの担当バンティからも主審のジャコメッリに対し要審議であると連絡が入っていることが後日判明している。
この不可解極まる主審の判断にナポリの選手は集中を削がれて足が止まってしまい、その間隙を突かれイリチッチに同点ゴールを許してしまう。
その模様は以下の試合ダイジェスト2分50秒くらいから確認していただきたい。
イリチッチのゴールの後ナポリの選手がジャコメッリに詰め寄り直前に起きたジョレンテに対するプレーの解釈を求めゲームは約5分間中断してしまう。
その間、選手を代表して抗議の先頭に立っていたインシーニェにまずイエローカードが提示される。
このままでは再開の目処が立たないと判断したジャコメッリはアンチェロッティに対し選手をゲームに復帰させるよう促し、アンチェロッティは言われた通り選手に呼びかけゲームに戻りなさいと指示をした。
そして渋々と選手がジャコメッリの下から離れていく中でアンチェロッティが「言われた通りにした、だが選手に疑いを持つ権利ないのか?」とジャコメッリに言ったことが暴言であると判断され退席処分となる。
贔屓とかを差し引きこの一連の出来事をニュートラルに見ていたロマニスタの投稿
ゲームはそのまま2-2の引き分けで終わり納得できない観衆から吹き荒れるブーイングの中、足早にピッチから去ろうとするジャコメッリにトネッリから粋なプレゼントが贈られようとする
「あなたが今夜の主役だよ」と
(その時点で)セリエAの上位チームによる素晴らしいハイレベルなゲームはこうして主審一人のために一瞬にしてすべてをぶち壊され、見た人全てに後味の悪さを残しただけになった。
試合後の記者会見でアンチェロッティは普段見せる温厚な紳士らしくない態度で不満をぶちまけた。
アタランタ戦から3週間後、FIGCの主催したVAR運用に関するフォーラムの席上でもリッツォーリ審判部部長に対し、この件に関し激しく抗議したことからもカルロはこうした不透明なことが起きるセリエの機構的な問題に強い懸念と不満を日頃から抱いていることは疑いがない。
過去にも人種差別行為に対する機構側の取り組みの甘さも糾弾している。
人が裁く限り誤審は付き物だし、長いカンピオナートの中の一コマであったかもしれない。
だが、このアタランタ戦で起きたのは単なる誤審ではなかった。
この一戦以降、アンチェロッティを始めナポリの選手、フロント、そしてファン自身も心の余裕を失ってしまった。
温厚だったアンチェロッティの面影は吹き飛び
冒頭に書いたように腐った村なんかでこのままキャリアに泥を塗るようなことをさせてはならないとADLが感じたのは無理もないと思う。
結果的にこのゲームがアンチェロッティ解任への銃爪となったのではないかと自分は捉えている。
そして退席処分だけでは済まず次節のローマ戦もベンチ入りを禁じられたアンチェロッティ。
代行で指揮をすることになったアシスタントコーチで息子のダヴィデ・アンチェロッティ。
彼の存在こそがカルロが自縄自縛に陥っている原因であることが徐々に明らかになり、あの合宿騒動へと繋がっていく。
つづく