見出し画像

第22回書き出し祭り第三会場 本文感想

この記事は、第22回書き出し祭り第三会場全作品の本文感想です。
内容に触れていたりしますので、未読の方はネタバレにご注意下さい。

また、削除依頼、クレーム等、何かありましたら、マシュマロにてご連絡ください。記事の最下部にあります。


書き出し祭りって?

ライトノベル作家の肥前文俊先生が主催する、小説家になろうで開催される個人企画です。
100名の匿名の参加者が、四つの会場に分かれ、どれが一番面白い書き出しかを競うお祭りです。

第22回の開催期間は、2024/09/07(土)18:00 ~ 2024/09/28(土)18:00です。
公式の情報はこちらです。

書き出し祭り事務局 Xアカウント
祭りの開催や参加者募集、祭りに関する連絡事項がアナウンスされます。

書き出し祭り会場(主催者様企画アカウント)
『小説家になろう』のページに移動します。活動報告や、各会場の目次の一番上に、企画概要や注意点がまとめられています。


☆☆感想についてのご案内☆☆ お手数ですが、参加者の方はご確認ください。

単なる素人小説書きの個人的な好み、主観による感想です。
作品についてわかったこと、好きなところ、良いと思ったところ、関心を引かれたところを書きました。
『そこらへんの一読者』のサンプル一個程度です。
本当に個人の好みの感想ですので、作品自体の良し悪しとはまったく無関係です。
筆者はそれなり雑食ですが、話題作やヒット作でも合わない作品はたくさんありますし、大好きな作品の多くはマイナーです。

評価でも何でもないので、違うと思ったところは無視してください。
勝手に書いたものですので、祭り終了後のお礼参り等は不要です。
どうかお気遣いなく。

もし何かありましたら、記事の下部にマシュマロへのリンクがありますので、ご連絡下さい。削除等の対応をいたします。

第三会場/本文ページへのリンク

こちらのリンクから、タイトル&あらすじリストと、第三会場の本文ページが確認できます。

第22回第三会場あらすじ一覧

第22回書き出し祭り第三会場・目次ページリンク


◇第三会場本文感想◇


3-01 e-Sports Failnaught

ごく普通の会社員が、フルダイブのゲーム機をネットで気軽にポチって買える時代、いいですね、楽しそう! 新しい技術がすっかり日常の一部です。
すぐ競技に入れるよう、育成=不便さのなかで工夫し、成長を楽しむ遊びが組みこまれていない→フルにプレイできるまでの時間を遅延させたり、発揮できる能力を縛ったりしない。
プロゲーマーがプロスポーツ選手と同じ扱い→ゲーム機とソフトも、野球の道具やサッカーボールと同じ扱い。
技術や社会に合わせ、ゲームのありようが変わってて面白いです。

主人公の雑賀さんはとても平穏な一般人の感じの職業や暮らしぶり、仕事は忙しいですが、それ以外は心穏やかにわりとのんびり過ごしています。
はじめは随分冴えなくなっちゃったなと思ったのですが、これは怪我などの故障で完全に諦めたが故か、あるいは『銃の王』ってもしかして違う人?の可能性も考えています。味方的存在になりそうな如月零さんは年齢が合わないので、今後打ち倒すべき敵だったりしたら、ちょっと絶望的ですね。
一か月後にいったいどんな変化が訪れるのでしょうか?


3-02 光差す日の到来を祈る

冒頭、取り返しのつかない失敗と破滅を暗示する夢が不穏です。焦りや恐怖、絶望の描写で、感覚がとてもよく伝わります。
本編が始まるとすぐに勝手に開くドア、勝手に乗りこんでくる子供たち、すぐに物語が動き出してスピード感があります。
子供に対して義務感や親切心があり、素直で嘘が苦手な主人公・辰之進君に自然と好感度が上がります。
逆にヴァロ君やアイノさんは、危険な暴力を振るったり、やり方が手慣れていたり、子供なのに非常に物騒で、大人でも無事で済まなそうなヤバイ相手だとよく伝わります。
さらに、窓ノックを合図に、同居人の三島君がサッと登場し、同乗。キャラの出し入れもスムーズです。
展開がスピーディで、疑問点なくさくさく進み、文章もセリフも読みやすいです。
残る疑問点は、この先明かされるだろう物語上のものだけ。
謎の物騒な相手に脅されて、この先どうするのか、どうなるのか?
しかも二人の目的はなぜか辰之進君?
要素に無駄がなく、あとは辰之進君たちの部屋に移動して、次の展開を待つばかりです。


3-03 巻き込まれ婚約破棄~真実の愛なんてどこにもありませんが?!~

始まるなり、ご飯をもりもり食べるナターシャさんが可愛い! いい相手を物色して媚びを売るより健康な食い気、嫁き遅れても縮こまってない。こういう子大好きです。どうにかなる・しそうな、おおらかな生命力を感じます。その魅力がわかる男性とくっつけばいいのです!
主人公の個性と魅力が伝わったら、さっそく事件、定番のわかりやすい婚約破棄シーンに、当事者二人のキャラや描写、状況などが入れこまれ、さくさく進むのに、情報の密度が濃いです。
そしてアルフォンス様の意外な舌打ちで注意をひきつつ、いきなりナターシャさんが渦中に物理で引っ張りこまれるという展開。
本当に無駄がなく、わかりやすく、起伏ばっちりです。野次馬な自分を恥じらう面も、ナターシャさんの好感度を上げます。

婚約破棄部分が終わっても、続きがあり、情報が無駄なく圧縮されてます。 4000字でこんなに書けるんですか! 
シーン運びの速さ、無駄のない展開。圧縮された情報密度、情報の入れ込みと組み合わせ。ひとつひとつに意図と効果があり、うまい!と感じました。
婚約破棄・事情説明・もろもろ準備と、全部済ませて、次話からは、面白さの本番(目的のための行動)に入ってしまえます。
文章もさくさく読みやすくて、語り口でも面白いです。
むちゃくちゃ勉強させていただきました。
飾り気のないアクティブな魅力を備えた主人公カップルのキャラと、事件や危険の匂いがする目的、この先の二人の活躍や、恋愛部分などをワクワク期待できる書き出しでした。


3-04 勇者パーティを解雇された最強防御の加護持ち雑用係、通りすがりの魔王様に拾われる

タイミング! 言うタイミング! まったく余すところなくタロウはクソ勇者、エルンはクソ女ですね! 日々の細かな雑用を軽んじてコケにしたり、容姿で人を馬鹿にしたりするような奴は、どれだけざまぁされても、読者としてちっとも心は痛みません。存分に仕返しをして、うんとひどい目に遭わせて欲しいものです。
と、ストレートに読んでの期待を抱く一方で、もしかして通常の追放ざまぁとは違うのかも?と思わせる部分があちこちに見られます。
追放されるルルカさんの方は、何を言われてもまったく傷つくことなく、平然としています。最初から目立たないことが本人の望みだったり、これだけクソな勇者タロウに『機転が効きます』と褒めていたり、あえて悲しそうな顔をつくってみたりと、すごい強いとか、ちょっと変わり者というよりは、何か別の思惑や秘密があるようにも感じます。
パンと牛乳瓶一つくらいでにらみつけるエルンも普通ではなく、単なる追放ではなく、なにか裏の事情があるのかもしれません。
出会うなり魔王を『魔王様』と呼んでいるあたり、ルルカさんは魔族関係者だったりするのでしょうか。


3-05 訳あって、S級ギルドに加入させられることになりました。

まわり中から溺愛主人公です! 食堂の真ん中にテーブルがあるのも、山盛り食べる食器が邪魔だからではないのでは? と思われます。
この書き出しだけでも、食堂のおばちゃんは甘く、団長のゴウさんは過保護、初対面のキョウさんも、リュー君の気持ちに寄り添ってゴウさんを怒鳴って殴りつけ、と溺愛要素が詰めこまれています。
リュー君の素直な感情も細かく描写され、リュー君を愛でる視点でも、リュー君に入りこむ読み方でも、効果的だと思われます。
団員の人たちの男女比は不明です。団長のゴウさんは男性、新たなギルドの副団長キョウさんはイケメンですので、男性向けではなさそうです。
女性読者向けの愛されモテモテ甘やかされ主人公、BL風味の確率を高く見積もりますが……。
リュー君は15歳だけど、言葉や態度はもっと下の感じで、しかも怒るととてつもない力を発揮し、身長2メートルのゴウ団長さえも戦いの足手まとい……これもしかして普通の人間じゃない可能性もありえるんですよね。 
超人的な能力や長寿の獣人、竜人など、人外寄りの外見だったりするのでしょうか?


3-06 メタバースに潜むデジタル・ゴーストの謎

ブログと同じくらい気軽にメタバース構築ができる近未来世界、MMO、3Dゲームのようにキャラメイクして操作でき、戦闘して遊ぶこともできるなんて、とても楽しそうです。
主人公のまりかさんは、普通に重病だったのか、何かSF的な特殊な病気で生死をさまよったのか、気になるところです。
天音さんは、宝塚も目指せるほどの、小柄グラマーボーイッシュ美女、養女で同い年の義姉と、特殊な家庭事情も伺えます。華のあるキャラです。
同じ趣味でつながっている仲良し姉妹、楽しそうでいいですね。
文字チャットなら、男性が女性のふりをするのも可能なので、百合なのか男女なのか迷います。相手の性別も、謎の一部として話に絡んだりするんでしょうか。
新王国の規約で難航するかと思われた、まりかさんの恋人と再会する目的はさっそく達成され、次は再会してどうするのかに進んでおり、展開の速さが期待できます。


3-07 メカラミント

目からミント! すごいインパクト! 独自性の高いホラー風味の幻想小説です。
普通じゃない植物たちの生態やようすの細やかな描写、またそれらを語る主人公の普通じゃない内面もくわしく描写されています。
ひとことで総括すれば、狂気じみた主人公、それがどこまでも具体的に、なめらかで面白みのある語り口で描かれ、植物たちの不気味な美しさ、植物たちとの暮らしぶりとともに、自然な実感を持って感じられます。
現実とも幻想ともつかないリアリティのバランスで、言葉だけで描かれた描画力の高い幻想マンガのようにイメージ豊かです。もちろん、視覚だけでなく、五感の感覚を伴う豊かな描写です。
読む自分は、主人公のようには感じないし、主人公のような暮らしにも憧れない、というか嫌だし不気味でコワイのに、主人公自身は、すごく満たされた豊かな幸せな暮らしなのだと感じるのがすごいです。
最後の部分も、主人公の最後の『私の目も……』という不満も解消される期待、喜ばしい気分に満ちて終わります。だからコワイ。
でも、あらすじだと、ここから不気味にねじれた展開がありありなわけで……。コワイ。
高い文章力と、独自のイメージが際立った作品でした。


3-08 帝国の梟はアルヴヘイムの夢を見るか?

期待どおりの、シリアスでファンタジーなサスペンスです。
エルフが出てくるファンタジー要素を持ちつつ、欧米の翻訳ミステリや冒険小説で馴染みのある話運びに安定感を感じつつ、ハードで骨太な内容への期待が高まります。
悪夢→朝・出かける→警察庁→パレード→事件と、地に足のついたトーン・スムーズでわかりやすい場面運びの中、背景世界の情報や人間関係が、自然な会話や、具体的な出来事で入れこまれ、伝わってきます。
ドラッグの名がエルフの霊薬エリクサーなのが面白かったです。
殺人犯がちゃんと法的手続きを受けて留置所にいるのに、エルフは掏摸だけでその場で始末される。ぬおわー、許せん! なんて世界だ!
作中唯一エルフを差別しないテッドさんに共感し、好感度も上がります。世界の歪み腐れ具合を、主人公といっしょに感じられました。
しかもラスト、おそらくテッドさんは関与を疑われて無関係ではいられなくなり、否応なしに大事件に巻き込まれていくことになりそうです。


3-09 人工衛星サニーの冒険 ~転生した〝元〟気象衛星がお天気令嬢になるまで~

タイあらから大好きだった作品ですが、期待どおり面白かったです!
冒頭、宇宙での夜明け、サニー1さんの目覚めに煌めきを感じました。気象衛星というディティールと、転生の顛末が丁寧に語られるとともに、まだ気象衛星なのにサニー1さんが好きになっていきます。
神様からは『自分のミッションを自分で決める』というテーマも示され、これは元人工物だったサニーさんを通じた、人間とは何か、どう生きていくのかの物語にもなるのかなと思い、チート能力で活躍する以上の面白さを期待できます。
しかもサニーさんはまだ『自分で決める』の意味をわかっておらず、先々でいつか、これこそがそうなんだと理解する瞬間を、それが来るときを見たい、と思いました。
目覚めたサニーさんは、さっそく人外物ならではのちょっとズレた思考や行動での面白さを見せてくれるとともに、さらっと人体でのチート能力を自然に使って、これからどう活躍するかの片鱗も示してくれます。
新しく得た人間の肉体、その生き方にワクワクしていて、読者としても、サニーさんがこれからどうなるのか、どうしていくのか、ワクワクさせられました。ワカサマがどんな人かも知りたいです。続き下さい!


3-10 没落令嬢ははじまりのダンジョン地下百一階の家に住む

異世界ファンタジー、恋愛はなさそうで、ダンジョン物でした。
主人公のロゼさんは、武術鍛錬、治癒魔法も使えて、いざというときの計画書までつくっていて、とても自立心と自活力のある前向きなヒロインで、好感度があがります。貴族令嬢なのに野宿もできるし、そこらへんの魔物も敵じゃないなんて、逞しすぎます。
亡くなったお母様は勇ましくカッコよく、お父様のお人好し度はかなりのものです。報酬は貰っていいと思いますよ!
ダンジョン百万人目は棚ぼたなんですが、ロゼさんがここまで自力で前向きに突き進んできて、ドラゴンに対してもひるまない態度を見せているので、獲得した印象が強いです。
何でも願いを叶えてもらえるのに、ロゼさん無欲で、さすがお父様の娘です。二足歩行ドラゴンの執事服、いいですね。ダンジョンの百一階という面白い場所で、いずれお父様やお兄さんも交えての、ダンジョン探索チートスローライフが始まりそうです。


3-11 千年魔女と新米聖女

魔女のイセリナさんと、聖女のユメリアさん、この先バディとなる二人のキャラと魅力が伝わる書き出しでした。
まだ出会ったばかりで、あらすじにあった事件のこともありませんが、二人のこの先の関係や活躍を見たくなります。
ユメリアさんは猪突猛進、聖女様なのにかなり脳筋なタイプです。殺意の高い聖棍に、二つの意味で重そうな聖女の鎧で完全武装、でも隙が多そうです。
勇ましく入ってきたものの「どなたかいませんか~」可愛い。登って来れたらと言われて、精魂尽き果てても諦めずに登りきってしまう、その不屈さと不器用さにも好感度が上がります。
イセリナさんは天使のように美しい長寿世界一のおばあさん。魔女は魔女でも、どうやら善き魔女で、いかにも鋭い切れ者という感じではなく、おっとり感や上品さが感じられます。
疲れ果てたユメリアさんのための水に、林檎果汁まで入れてくれるなんて、優しい上に、気遣いも行き届いています。
『千年この塔で暮らしてて、二百年前に近くに村ができるまで』さらっと出てくる普通と違う時間感覚面白いです。
最後にわかる、聖女の鎧の防護力がすごすぎます。百階から落ちても平気なら、たいていの危険は無茶でも気にもとめず、力こそパワーで突っこんでいきがちにもなりそうです。
二人が事件に取り組み、解決するのを、早く見たくなりました。イセリナさんの秘密など、本格的なハイファンタジーの面白さも期待です。


3-12 10年振りの恋の唄

異世界転移からの帰還ものでした。生きる死ぬのピンチや、元の世界との断絶が無い、穏やかで優しい異世界転移なのが新鮮でした。
主人公の直美さんの、優幸くんへの想いの強さ、どれだけ好きだったか、十年分の想いが感じられます。
転移先の世界が、迷いこむ人も帰る人も多くて、国交のない遠い外国くらいの距離感なのが面白かったです。イリーナさんの再登場もありうる感じです。
せっかく現代日本に戻れたのに、生きる死ぬとはまた違った大きな問題が発生。子供と大人、十年というギャップ。普通にそれぞれ十年生きてからの再会より厄介で、解決困難な隔たりです。
メンタルが育ってしまっては、もう十歳年下の子供と恋愛は難しそうです。
高確率で切ないエンドになりそうですが、どうにかして幸せになってもらえたらと思います。
(これはもう優幸くんに精神と時の部屋に行ってもらうしか……!)


3-13 何かがオカシイ百合の家

現代物、予想よりはるかにシュールな内容でした。
友達の家で過ごす、普通にのんびりと気だるげな時間に紛れこんでくる違和感。多次元的なSF的なネタ?などと考えながら読みました。
ごく自然な描写、落ち着いた文章で、日常感と、違和感や不気味さを静かに表現しています。
料理番組がまったく変てこりんです。セルフツッコミだったり、何か違うものを暗示してそうだったり。誰かの精神世界なのか、地球人外な存在が模倣しているのか、いろいろ推測しました。
冒頭から、そして途中でもくりかえしはさまれる「パチン」という音が謎めいていて、最後の百合さんの催眠術めいた暗示は何とも不気味で、絢弥さんがそれにかかってしまうのがこわいです。
タイあらが示すとおり、百合さんの家には秘密があるようです。メタなのかSFなのか。途中で鳴ったスマホは、その秘密に絡んでくるのでしょうか。


3-14 もしも僕が探偵なら、きっと君を救えなかった。

現代日本が舞台の、ライト感があるミステリでした。
始まるなり、主人公の瞬平くんが大ピンチ、すぐに話が始まるスピード感、ロケットスタートです。
下着泥棒事件を通じて、瞬平くんの冤罪体質と、彌生さんの女子高生探偵としてのキャラが示され、わかりやすいです。
下着泥棒の顛末だけでも、謎を解いて冤罪を晴らすことで、読者がスッキリする面白さが提供されています。
さらに二人の関係性、互いへの気持ちも示され、セットアップはばっちりです。
と思ったら、もうどかんとショッキングな事件。瞬平君の辛い感情や決意が伝わります。冤罪体質を、そう使うんですか!
最後の締めはカウントダウンで、次話からは、どんどん目的に向かうだけです。無駄のない構成、さらにスピード感や感情の起伏を支える高い文章力や巧みな語り口で、ばっちり決まった第一話でした。
でもこれ、あらすじからみても、瞬平くんが罪かぶってからが謎解きの本番になるんですよね? 次から次へ困難を叩きつけてくる、一話だけでなく長編エンタメ全体でもすごくうまい構成だと思いました。プロの方ですか?


3-15 転生執事の華麗なる分からせ~待って待って、事情を聞いて~

執事や令嬢が出てきますが、異世界恋愛ではない欧風異世界ファンタジーでした。
待って待っての口癖が可愛らしいです。この、待って待ってのたびに好感度が上がっていきます。
キャラが物事に対して驚いたり動揺したりすると、そこに人間らしさと親近感が生じ、それだけで少量の好感度があがる効果があるっぽいんですよ(筆者調べ)
待って待って、はその効果的な合図で、キャラ立ちにもなっています。
使用人が信用ならないリーゼロッテさん。弱い立場の十歳の少女を楽しく苛めるようなクソ使用人たちがどうなったのか、いかに恐怖に震え、許しを乞い、絶望したか、想像するだけでニコニコしてしまいます。
ルーカスさんは転生魔王らしく、圧倒的に優位で負ける要素が無く、目的のためにリーゼロッテさんをいいようにわからせてきそうです。
『えっちな女を連れ込んでる……!』で笑ってしまいました。
わからせは、される側だと、勝つためにはかなりの高難度ミッションになりますね。
この段階では、ルーカスさんは非常に手強くて厄介な敵対者になっています。何一つ勝てる要素がなく、したい放題にされてしまいそうですが、いずれミュリエルさんから『事情を聞いて』利害が一致し、あるていどは協力関係になってくれる展開を期待します。


3-16 コレクテイル

まだ栞さんが物語蒐集家コレクテイラーになる前の時点のようです。
美しい黒髪の描写、読んでいるだけで頭が痛くなりそうな激しい頭痛の描写など、五感を刺激する表現が盛り込まれています。
平凡な日常→不穏な非日常への物語の流れが、物理的な場所移動でつながれているのも、自然でわかりやすいです。
最後は、あらすじがいう『ひょんなこと』とは思えないピンチに陥っています。あらすじからは予想もしていなかった、ほとんどホラーめいた怖い目に遭っています。
不気味な正体を現した敵は、金色に光る万年筆で、いったいどんな危害を加えるつもりなんでしょうか。そこまでの流れだと、目とか刺されたり、ホラーで痛い・グロい感じにコワイんですが、たぶんそういう話ではなさそうなので、書くことに関係ある行為だと思われます。

(ちなみに髪は何かの伏線かな?と思ってネットで検索してみたのですが、黒髪美髪キャラの物語は見つけられませんでした)


3-17 飛竜婚姻譚~元王女様はドラゴンブレスで王子を救う!?~

異世界ファンタジーコメディ、転生した王女様がドラゴンパワーで無双!&王子様と恋愛まで! 
主人公のレティシアさんは悲劇の王女、冒頭で火炙り、シリアスな決意、そして目覚めたら……なぜかドラゴン!
そのギャップ、レティシアさんの動揺ぶりが面白かったです。『何度か顔を洗ってみるが、キラキラと鱗の輝きが増すばかりだ』ここ好きです。
王子を殺そうとする悪者たちに怒りを覚えたレティシアさんが、ドラゴンパワー無双で一方的に派手にやっつけるさまは、実にパワフルですかっとしました。
最後はセシル王子からの熱っぽい眼差しどころか、一目惚れプロポーズ! いいのか王子! 君は王子で、相手はドラゴンだぞ! 何らかの手段で人間になるより、竜のままの方がいいとか言い出しそうな王子様です。
場面ごとに面白さが盛り込まれ、全体の構成もわかりやすくスムーズです。
火刑と決意→私がドラゴン!?→ピンチの王子様→許せないわ!→ドラゴン無双で悪者をぶっ飛ばす!→王子様からプロポーズ!?
場面から場面がわかりやすいスイッチでつながりながら、各場面ごとに大きな感情の起伏と、読者へのサービスとなる刺激や面白さが意識されていると感じる作品でした。


3-18 悪役令嬢ガチャ ~婚約破棄されましたので流刑先の領地を勝手に治めてやります~

婚約破棄から始まる内政+恋愛要素、チートものではなく、むしろ内政と恋愛、二つの大きな困難に立ち向かうコメディでした。
主人公のアリシアさんは、厄介な立場に追い込まれても、おっとりペースで可愛らしく、しかもちっともへこたれないのが好感度大でした。
本人は大したことないように語っていても、読者の目には全然違うものが見えるという、一人称ならではの面白さが活かされています。
グレア家には歴代の悪役令嬢が……って、いったい何人いるんですか! よく追放や処刑で家が絶えませんでしたね!
と突っ込んだあとで、貴能には注意点があり、婚約破棄と追放にも裏がありそうだとわかり、あれ、これもしかしてマジレスすると貴能を維持するために何かある?と読者は思いましたが、アリシアさんは元鞘目指して邁進していきます。いや、少しは気にしましょうよ! 
マイペースで前向きでちょっとズレたアリシアさんとその語り口が魅力的で、物語の謎も、前途多難な領地経営も面白そうな作品でした。


3-19 異世界鉄道戦記~装甲列車召喚チートがすべてを変えた~

既視感は多いものの、男性読者が大好きな物が詰まったチート無双ラノベでした。
ごく平均的な男性主人公、若い美女揃いの部下たち=ハーレム的状況、王女様からの擁護、指揮官の地位、戦記、チート能力が約束する圧倒的な勝利と大活躍。
主人公の篠塚くんは、年齢が二十代前半と、ほどほどに若く、可能性や活力、社会的・肉体的な自由度や説得力のバランスが取れています。
美女部下さんたちの種族と経歴はバラエティに富んだ取り揃えで、個々の名前が出て活躍すれば、読者が好みで推しを見つけられそうです。
メルファシーナ王女殿下を中心とした国内外の情勢も内戦や侵攻、軍事危機てんこ盛りで、圧倒的チート戦力を存分にふるってのミリタリー無双の舞台も整っています。
今後の流れとしては、車両基地での教練や日常パート、出撃・戦闘パート、王女殿下との政治パートがゲームシステム的に交互に回ると思われ、楽しみ方がわかりやすい作品でした。


3-20 10歳年下の幼馴染

現代物の切ない文芸作品でした。
冒頭から語りがうまく、わかりやすく、なめらかな読み心地でした。
ほんのさわりのさりげない書きかただけで、時、場所、人、状況が情報が巧みに織り込まれ、自然とするする理解しながら読み進めていけます。
夏秋くんと遥さんのいきさつや関係性を語りながら、二人の背景や、キャラの情報が示されます。なぜ遥さんが?という疑問で引っ張り、答えを示したところで、目的地と目的が示されます。
もうひとりのヒロイン、夏希さんも登場、恋愛というのではないけれど、大親友で、何となく、いずれ結ばれるように思っていた感覚、すごくいい関係です。恋愛ではなく、絆としての結婚、穏やかで豊かな結びつきのように感じました。
そして最後は辛い出来事で終わりますが、それによりタイトルの意味を回収、先の展開が読者に示されます。
ええとつまり、起きるんですよね、これは? それじゃいったい、どうなってしまうんでしょうか。むちゃくちゃワザマエでした。


3-21 試験に出る! 陰キョンシーのオタ活サバイバル(もう死んでるけど)

現代で道士やキョンシーが出てくるローファンタジーです。
いきなり街中のアクションから始まり、主人公のゴットさんとキョンシーのアキさんが登場、マンガのようなスピード感のある展開です。
仙人受験雑誌の怪しげな通販! 普通と違うキョンシーになった理由が面白すぎます。
小道具やディティールが次々に出てきて、独自設定や固有名詞が多いですが、わからないなりに雰囲気を出していて、軽快なセリフのやりとりと、ぐいぐい前に進む勢いで読めてしまいます。
「お気に入りキャラが暗器使いなので」あのキャラ、可愛いですよね!
敵との対決も、バトルのルールの説明は少ないのですが、画や動きの面白さ、テンポよく盛り上げる語り口の勢いで読ませました。
そして、とりあえず10点とお札はゲットしましたー! 作者様はゲーム全般がお好きな方なんでしょうか。小説にこういった仕掛けをする試み、とても面白かったです。


3-22 運命を紡ぐ女たち

歴史的なスケール感と雰囲気が重厚な、ドラマチックな戦記物でした。
筆者にあまり知識が無い為、書かれている情報からは、実際の過去のヨーロッパないし架空人物・国のヨーロッパなのか、ヨーロッパ風のハイファンタジーなのかはわからず、すみません。いずれにせよ、魅力的な世界観です。
文体は重厚にして軽妙、語り口だけで歴史的雰囲気を醸し出し、地の文を読む面白みと楽しみに溢れています。こちらも魅力的です。
三人の中心となって冷静に状況を判断、指示するキルスティさんは、クールで知的でかっこいい女性です。
二人の愛妾も、愛妾という言葉から単純に連想するようなタイプではなく、それぞれのプロフィールを備え、能力と個性が期待できる女性たちです。
隣領との争い、指揮できる人材無し兵力物資も無し、いったん棚上げにした二人の庶子の後継者問題など、問題は山積みですが、それらを利益だけでがっちりつながった女三人が立ち向かい解決していく物語が期待できます。
面白そうです!


3-23 鬱ゲー主人公である勇者達の師匠になりました!

第二の人生は、困難な人生を生き直すシリアスドラマのようです。
冒頭、強い殺気にもひるまず、自身の意志をぶつける主人公に好感度が上がりました。
人の命を助ける決意、チート知識=力を持つものとしての使命感、まだ無邪気な勇者を鬱展開から救おうとする思い。
主人公を応援したくなります。ぜひ、魔王幹部をぶち殺して下さい!

転生したてのところでは、大きく揺れて変化する主人公の心に引き込まれました。前世の悲惨さ、麻酔的な喜び、罰ゲームのような転生、底の底へと落ちたところでの、ほのかな明かりのような心情の変化。小さいようで、とても大きい感じで、ここ好きです。
ここは鬱ゲー世界、この先も色々ありそうで、その中で冒頭の主人公になっていくわけで……『大切な人』は今世のお母さんでいいんですよね? ね?


3-24 夜迦に呼ばれてはならない偽娘妃~間違えて連れて来られた男は後宮で生き延びたい~

最初の部分ですぐにBL要素ありと思いました。どっちなんだろう? と迷わなくて済む親切設計です。
非常に大ピンチの春蕾さん、バレたら即アウトの破滅の危機に晒された不安と恐怖がよく伝わってきます。
生き残るための武器は《先視》の神通力、使えるといえば使えるし、頼りないといえば頼りない力加減で、ヒント情報を出してサスペンスを盛り上げるのにちょうどいい感じです。
その《先視》も、少しは助けになって不安を和らげてくれるどころか、ますます不安しかない恐ろしい光景を見せてくるし、当面の敵対者が、それも上の立場で強力そうな厄介な相手が示され、春蕾さんの後宮サバイバルはどこまでもハードモードのようです。
《先視》の夢のなかの皇帝が出てきたら、それが一番厄介で、本当に不安しかなく、春蕾さんかわいそうです。このさき誰か味方とか、男でも安心できる場所などができればいいなあと思いました。


3-25 極彩色の匣庭

和風のイメージが、巧みな表現で語られている幻想的な作品、日本が舞台の、怪奇幻想、ホラーっぽさもあるようです。
因習、旧家的なディティールが、美しい語り口で示されるとともに、ちょっと普通とは違うお姉さんのようすが、その世話をさせられる双子の妹さんの目から淡々と生々しく語られます。
ものの食べ方だったり、行動だったりで、直接的に言わずとも、よく伝わります。
分家の少年・シズルくんの登場で流れが折り返し、『幽霊が出る』というセリフで不穏な空気が漂いはじめ、新たな情報が追加されていくにつれ、それまで了解していたはずの風景が変わっていく過程にどきっとしました。
最後は不気味で謎めいていました。つまり、語り手は……?
全体としては、部屋から出て行って、また戻ってくるという、物理的な移動で展開するライン、そのできごとに、細やかな描写がふんだんに盛り込まれ、めくるめくようでありながら、方向性はわかりやすかったです。
とても不思議な読み味の作品でした。


最後に

念願のタイあら全感想(自分ステルス込み)を実現した勢いで、これまた念願の本文全感想(自分ステルス込み)に挑戦しようとしてみたのですが……。
ちょっと成功して図に乗ってたな~とつくづく思いました。
リアルの生活も、執筆活動などもありますし、さらに筆者の力不足もあり、やっぱり全感想は無理そうです。
とりあえず第三会場分を完成いたしました。
自分が欲しいような感想になるよう意識しましたが、他者の目から見たらどう思えるのかは、自分では確信が持てません。
何かありましたら、マシュマロからご遠慮なくお知らせください。


お問い合わせ用のマシュマロはこちら

削除依頼、クレーム等、何かありましたら、こちらでお問い合わせください。対処いたします。
『22-1-26 桃太郎』の作者です、のように匿名でお願いします。
祭り中は匿名厳守ですので、その他、作者様がどなたなのかを特定できる、推測できてしまうような内容は書かないようにご注意ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?