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好きな役者さんができた

この記事について

こんにちは。isuzu_mmです。

今回は、就活が嫌すぎて映画をいっぱい見ていたら、人生で初めて好きな役者さんというものができて嬉しかったので、その話をします。

※注意!この記事はいくつかの映画・ドラマのネタバレを含みます。


本編

0. 映画を見るようになった

今でこそ「趣味は映画鑑賞です」みたいな顔をしているが、実は大学生になるまで映画を見る習慣は一切なかった。より正確に言えば、あまり映像を見る習慣がなかった。そもそもテレビをあまり点けない家庭で育ったし、アニメですらたまに流し見する程度だった。そんなわけで、好きな役者なんてものは存在するはずもなく、名前と顔が一致している俳優だって片手で数えるほど、というのが高校生までの自分の状態だった。

ところが、大学生になって状況が一変する。

まず、一人暮らしの大学生は暇である。週に6日、朝8時半には登校し、放課後は棒球遊びに明け暮れていた高校時代と比べると、大学生というのは時間に非常に余裕がある。
次に、東京には映画館がたくさんある。例えば渋谷にある、複数のスクリーンを持つシネコンだけを数えても、なんと7つ。映画を見るという選択肢が、生活に自然と入り込んでくる。
そして、サブスクが普及して、家でいつでも映画を見られるようになった。いつ頃からこんなに一般的な存在になったのか、実は昔からみんな知っていたのか、実際の所はどうなんだろうか。ともかく、その文明の波がこちらに打ち寄せたのは2021年のことだった。

これらの様々な要素に加え、好きな漫画の影響などもあり、家で日常的に映画を見るようになったのである。

1. 2024年2月-映画『万引き家族』

松岡茉優まつおかまゆという役者に出会ったきっかけは、『万引き家族』という映画だった。まずはこの映画について、多少の説明を加えておこう。

『万引き家族』は名匠・是枝裕和これえだひろかずが監督を務めた2018年の日本映画である。カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールを獲得しており、いわゆる名作というやつだ。あらすじとしては、「祖母の年金と万引きによってなんとか生計を立てている家族は、貧しいなりに楽しく暮らしていた。しかし、父親が拾ってきた幼い女の子を保護したこと、さらには祖母の死去といった事件が重なり、家族はバラバラになってしまう。やがて、それぞれが抱えていた秘密や願いが明らかになっていく。」といった所だろうか。

この作品において松岡は、主人公一家の"娘"である柴田亜紀役を演じている。6人家族の中で最も重要度の低い役どころであり、出番は全部足しても10分程度なのだが、ひとつ非常に印象深いシーンがある。亜紀が働いている"JK見学店"で、"4番さん"という客と触れ合う、57:20頃からの約3分間である。池松壮亮演じる"4番さん"とのやりとりは、常に朗らかにふるまう亜紀が内に抱える繊細な情緒を見事に映し出しており、非常に見応えがある。

このシーンがあまりに印象的だったので、映画を見終わったあと、役者の名前を改めて確認した。これが、松岡茉優という役者を初めて認識した瞬間だった。

『万引き家族』での松岡茉優。右は樹木希林。
出典:公式サイト

2. 2024年6月-映画『勝手にふるえてろ』

上記の出来事をうけてウォッチリストに追加し、初めて視聴した松岡の主演作がこちらである。(また、単なる偶然だが、松岡にとっての初主演映画でもある。)

『勝手にふるえてろ』は綿谷りさによる同名の小説を、大九明子おおくあきこ監督が2018年に映画化したものである。あらすじとしては「中学の同級生"イチ"への熱烈な片想いをこじらせたまま大人になってしまった24歳OL・ヨシカは、職場の同僚"ニ"から告白されてしまう。"イチ"への思いに踏ん切りをつけるため、同窓会を主催することまでしたヨシカだったが、実際の"イチ"はヨシカのことを覚えてすらおらず大きなショックを受ける。自暴自棄になり会社を強引に退職したヨシカのもとを、"ニ"が訪れる。」といった所だ。

この作品において松岡は、物語の主役であるヨシカを演じている。まず前半では、一風変わった人物であるヨシカが、街の顔見知り達に向かって自らの恋模様について楽しげに語りかけるシーンが何度か繰り返される。ヨシカの脳内の前のめりな疾走感が見事に視覚化されていて、本当に見事な芝居だと思う。後半ではなんと言っても、タワマンでの新年会で絶望して帰ってきたヨシカが、悲しげなピアノに合わせて徐に歌い始めるシーンが白眉だろう。ヨシカの痛切な思いと共に衝撃の事実が明かされるこのシーンは、何度見直しても呼吸を止めて見入ってしまうような迫力がある。
そして何より、これは松岡茉優の役者としての素晴らしい美点の一つなのだが、声質が良いのである。特別に特徴的な声というわけでもないが、基本的にはほんのりと優しい声音なのに非常に聞き取りやすい。実際、声優としても映画『聲の形』など幾つかの作品に出演しているし、ナレーションやMCとしての実績が数多いのも頷ける。

この作品を通じて、自分にとっての松岡茉優という俳優は、"顔を知っている役者"から"かなり好きな役者"くらいに格上げされた。あともうひと押しである。

『勝手にふるえてろ』での松岡茉優。
出典:映画ナタリー

3. 2024年8月-映画『愛にイナズマ』

以上のような流れで、次に視聴した松岡茉優の主演作がこちらである。

『愛にイナズマ』は『舟を編む』の石井裕也が監督・脚本を担当した2023年の映画である。あらすじとしては、「新人映画監督・折村花子おりむらはなこは、業界の常識を押し付けてくる大人たちに裏切られ、デビュー寸前にして全てを失ってしまう。反撃を誓う花子は、バーで偶然知り合った空気の読めない男・舘正夫たちまさおを連れ、10年以上音信不通だった実家に連絡をとる。家族の抱える"秘密"を暴く映画を撮影する中で、事態は思わぬ展開を迎える。」といった所だ。

この作品において松岡は、物語の主役である折村花子を演じている。まず冒頭の、プロデューサーや助監督という大人達に挟まれて、肩身の狭い思いをしながらなんとか自分の想いを伝えようとするシーンから既に楽しい。松岡茉優、気まずさのあまり挙動不審になっちゃう芝居をさせたら世界一なのではないか、とすら思う。中盤では、正夫と再会したバーで、自分たちがキスをしている様子が写っている防犯カメラの映像を見せられているシーンが何より良い。改めて言葉にすると得体の知れない状況だが、"今すぐこの席を立ちたい"と顔に書いてあるかのような花子の様子は必見だ。もちろん、土砂降りの中で正夫から突然の告白を受ける一連のシーン(下の写真)も最高だ。正夫にカメラを向けられて、自分に言い聞かせるかのように「負けませんよ」と呟く花子の姿は本当に魅力的だと思う。

本当に大好きな映画なので色々と言い足りないが、これ以上は本題から逸れるので止めておく。とにかく、この映画を経て、自分は松岡茉優という役者のことが大好きなのだと確信した。記事のタイトル通り、「好きな役者さんができた」瞬間である。

『愛にイナズマ』での松岡茉優。左は窪田正孝。
出典:公式サイト

※ここから先はおまけのようなものだけど、書きたかったから書いたので、よかったら読んでください。

蛇足

4. 2024年9月-テレビドラマ『初恋の悪魔』

大学の夏休み、実家に帰省していた際にふと「さいきん松岡茉優が好きなんだよね」という話をした所、親が勧めてきたのがこの作品である。

『初恋の悪魔』は2022年7月から9月にかけて日本テレビ系「土曜ドラマ」枠で放送された、坂元裕二のオリジナル脚本によるテレビドラマである。全10話を数行にまとめるのはやや難しいが、敢えてざっくりとまとめるなら「警察署に勤める変わり者4人は、ふとしたきっかけから、公的な捜査とは無関係に事件の真相を追究する"自宅捜査会議"を開く仲となる。友情や恋の芽生えを経験する4人だったが、やがて警察署全体を取り巻くより大きな謎に巻き込まれていく。」といった所か。

この作品において松岡は、ぶっきらぼうだが面倒見の良い生活安全課の警察官・摘木星砂つみきせすな役を演じている。ドラマをまるごと見直す余裕は流石に無かったので、個別のシーンがどうこうという話は割愛するが、松岡演じる星砂は本当に魅力的な人物だ。常にどこか遠く、壁の向こうを見透かしているかのような鋭い視線を持ちながら、時にびっくりするくらい人懐こく微笑むので、目が合った相手全員をたちまち虜にしてしまうような破壊力がある。もちろん他の登場人物もそれぞれ抜群に魅力的で、本当に素敵なドラマなので、皆さんにもぜひ見てもらえたらと切に願っている。

『初恋の悪魔』での松岡茉優。
左から、仲野太賀、柄本佑、松岡、林遣都。出典:映画ナタリー

5. 2024年9月-舞台『ワタシタチはモノガタリ』

帰省から戻った9月下旬、何気なくネットサーフィンをしていたら、松岡が舞台に出演しているという情報が突然飛び込んできた。詳細を見てみると、場所は渋谷のPARCO劇場、会期は9月いっぱい。色々と調べてみた所、前売りは終わってしまっているものの、舞台というのは普通は当日券で入れるものらしい。よくわからないが、取り敢えず行動してから考えればいいのではないかと思い、気がついたら渋谷に降り立っていた。

11,000円というチケット代にも面食らいつつ、あまりに非日常な空間に現実味を感じられないうちに、舞台が開演してしまう。果たして、本当に本物の松岡茉優がそこに立っていた。たまたまタイミングが良かったとはいえ、こんなにも簡単に実物にお目にかかれてしまうものなのか。東京に出てきて本当に良かった、と心から思った。

ちなみに、舞台はとても面白かった。演劇というものに触れるのは高校の文化祭以来だったが、生身の役者がその場で演技しているという一回性は、やはり何者にも替え難いものがある。ライブ会場に行くのと、ライブの映像を家で見るのが全く違う体験であるように、実際に舞台を見に行く事で得られる物は確かにあったように思う。お財布に優しくないのがネックだが、この公演に関しては、前売りでU-35チケットを買えば6,000円で見られたようである。

自分で撮影した写真。

6. その他

ここまでに挙げたもの以外にも、松岡の出演作は何本か見たので、ここで簡単に触れる。全て、2024年8月から11月にかけて視聴したものである。

映画『騙し絵の牙』2021年、吉田大八監督
大泉洋主演の、出版社を舞台にした映画。松岡は新人編集者・高野恵を演じる。大泉扮するベテラン編集者・速水に振り回される高野を眺めているだけで一生分笑える大傑作。

映画『蜜蜂と遠雷』2019年、石川慶監督
原作・恩田陸。松岡はかつての天才少女・栄伝亜夜を演じる。ピアノコンクールを舞台とした、台詞の少ない静かな映画。

映画『劇場』2020年、行定勲監督
原作・又吉直樹。松岡は主人公の彼女・沙希を演じる。山崎賢人演じる主人公・永田があまりにダメなクズ人間で、それを許そうとして心の安定を失う沙希を見ていると、こちらの心の平衡もだんだん崩れていく。疲れる傑作。

映画『blank13』2018年、齊藤工監督
松岡は主人公の彼女・西田サオリを演じる。冒頭の松岡が葬式の受付をしているシーンが個人的ハイライト。佐藤二朗の大立ち回りを見る映画。

映画『サムライフ』2015年、森谷雄監督
松岡は主人公の教え子の一人・ユミを演じる。2000年代の空気をそのまま詰めたタイムカプセルみたいな映画で、良くも悪くも心が咽せ返る。

テレビドラマ『ギークス〜警察署の変人たち〜』2024年
松岡の主演作品であり、定時退庁を旨とする鑑識官・西条唯を演じる。会話劇のテンポが良くてそれなりに楽しく見られたが、後に引くものはあまりなかった。

終わりに

松岡が出演している目ぼしい映画は、もう8割方見終わってしまった。悲しい。こうして改めてスポットを当ててみると、一人の役者が生涯に残せる作品の数は実に限られているということがよくわかる。

しかし、まだ『ちはやふる』を残している。『ちはやふる』の三部作、『リトル・フォレスト』の二部作、『ひとよ』、『桐島、部活やめるってよ』あたりで、今年度中は食いつなげる算段である。また、2025年3月には、松岡が出演する『やなぎにツバメは』という舞台が上演される予定も出ている。ドラマに手を広げれば、主演作品はまだまだある。未来は概ね明るいと、言えなくもない。(終)


だらだらと長い文章にお付き合い頂き、ありがとうございました。現在、「友人を片っ端から軟禁して好きなドラマと映画をひたすら見せたい」という未だ嘗てない欲望に満ち溢れているので、軟禁されてもいいよという方は是非声を掛けてくださいね♪

松岡が宣伝していたのでつい買ってしまった金麦。

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