ストーリーがあればその中身について色々話されるのは古今東西、いつでもどこでも変わりません。基本はアクションゲームであり、体験を重視する『星のカービィ』シリーズでもそれは同じです。
特に熊崎信也氏以降が指揮を執るようになった2010年代以降の『星のカービィ』シリーズは、キャラクターやストーリーについて高い熱量で考察が飛び交うようになりました。
そうなると確実に出てくる話題が「時系列」です。
誰が、どこで、何をしたかまでは分かっても、それが「いつ」起こったか。これをどうするかによって解釈もまた大きく変わってくるからです。
この時系列考察において肝心なテキストを監修する、熊崎氏は冒頭のように、「ゲームストーリーに明確な時間軸はありません」と述べました。
今回はその時系列に関する熊崎氏の発言についてChatGPTに聞き、ディレクターは何を言いたかったのか。さらに彼の言うアプローチは何なのか話を深堀していくことにしました。
(関係ないですが、ChatGPTのリリースは2022年11月なので、ワシントンポストのインタビューが出た時はできなかったんですよね)
先に申し上げますと、『星のカービィ』シリーズに登場するマホロアのこれまでの歴史を踏まえていくと、ChatGPTはなかなか的を射た発言をしています。ただ同時に、「AI故の考え?」となる場面もありました。
総文字数がかなり多いため、パパッと見たい方は「AIと対談して得られたこと」を見ることをおすすめします。
ワシントンポストインタビューって何?
まず先に、ワシントンポストインタビューについてご説明いたします。2022年3月25日頃に公開された、アメリカの2大日刊紙であるワシントンポスト紙によるEメールインタビューを指します。
時期の都合上、『星のカービィ ディスカバリー』に対する内容の質問が相次ぎましたが、その中にこのような質問がありました。
これに対し、熊崎は以下のように回答しております。
この時系列の話はキャッチ―であり、当時の記事でもタイトルに使われております。
この話をより深堀していきます。
ChatGPTと話す
ChatGPTやBingAIなどは分からないことでも架空の人物や出来事をいくらでもひねり出してくるため事実の確認には向きませんが、このような意見の出し合いには使えるのではないかと考え、やってみました。
ChatGPT Plusを用いており、modelはデフォルト(GPT-3.5)です。
私が質問した内容に、ChatGPTが返したことを載せていきます。23回分話しましたが、記事の都合上関係ない質問は省かせていただきました。
省いた部分はおまけのスプレッドシートで見られるようにしておりますためご容赦ください。
1回目:どう解釈したか
まず質問の上で星のカービィシリーズやカービィと言った固有名詞は省いています。AIが変な解釈をしないようにという目的で意図的に設定しました。ただ、最初に作品Aは明確な時系列があるよと言ったのは失敗だったかも知れませんが。ともかく、こちらの質問内容に不備などがないか指摘できるよう発言内容は全文で載せていきます。
Chat GPTはこう回答しました。
Bの作品が明確な時系列を持たず、過去の設定に縛られずに新しいことにチャレンジしやすいことを強調
ストーリー要素を継承していくためには詳細な設定が必要であることを説明
Bの作品がストーリーに重きを置きつつも、ゲーム性を重要視していること
作品ごとに詳細な設定を練り上げることで、ストーリー要素を継承していく努力が行われていること
作品のファンであれば、新作の期待感を高めるもの
AIが要約に強いことは分かっていましたが見事だと思いました。ただ、その中で「新作の期待感を高めるもの」という回答は自分の想定外であり気になりました。
2回目:「新作の期待感を高めるもの」と考えた理由
熊崎氏の回答についてAIは「新作の期待感を高めるもの」と印象の1つにあげました。何故そう考えたのか聞きました。私を、じゃなくて私がなど色々文法が怪しいですね。このような誤字も載せていきます。
また、最後の辺りは高圧的ですが命令を意図してわざとやっています。
Chat GPTはこう回答しました。
チャレンジしやすい点、深みを持たせる努力があることを言いたかったようです。言われてみれば「あーそうか」となりますが、このように「ん?」となった所はどんどん聞いていきます。
3回目:継承の意味の認識合わせ
この質問の意図は、私が考える継承はそっくりそのまま移る、コピペではないと考えているからです。その細かな違いは場合によっては矛盾とも言えるのではないかと踏まえ質問しています。
Chat GPTはこう回答しました。
と言ったところでしょうか。「矛盾を見つけた場合には、説明が必要な場合には説明を提供すること」というのは具体例に落とし込めそうですが、少し待ちます。
ここで、継承は重要視して可能な限り注意は払う姿勢というのは見えてきました。多分この辺は『星のカービィ』シリーズの2010年代以降の展開を見ればなんとなくイメージできるかと思います。
4回目:「ストーリー要素の継承」と「明確な時系列がない」の違い
継承は重要視して可能な限り注意は払う姿勢は見えてきましたが、それが明確な時間軸がないこととどう違うのか、質問しました。
Chat GPTはこう回答しました。
私はこう言われて納得しました。ここで「時間軸に厳密に従わなくても」とAIは出してきました。この中身についてより深堀する形となりました。
5~8回目:パラレルや分岐などの手探り(読まなくていいです)
「ゲームシリーズのストーリーには一定の一貫性があるが、それが時間軸に厳密に従うことを求めていないということ」の深堀第一弾はパラレルです。
Chat GPTはこう回答しました。
Yesだそうです。
次に「パラレルだが同一人物」という表現をディレクターが出したことについて質問しました。「パラレルだが同一人物」の根拠はNintendo Dream 2017年 7月号のインタビューにあります。とはいえかなり昔の話のため文章だけならふせったーにもあげていますし、ここで見せます。
Chat GPTはこう回答しました。
この辺はもう少し情報を与えた方がよさそうですね。ただ、今回の主題とは関係ないため次に移ります。
次にアドベンチャーゲームなどに見られる分岐とは違うことを確認しています。
Chat GPTはこう回答しました。
まぁ分かってはいましたが、AIも違うと返しています。アドベンチャーゲームではプレイヤーの選択で結末が変わりますが、ストーリー要素の継承はストーリーの一貫性を保つものなので全然違います。
どう考えても違うよねということに対して頓珍漢な回答を出さないことを見て信頼するという裏目的もあったりはしますが。
また話題を変えて、今度は「シリーズのストーリーには一定の一貫性があるが、それが時間軸に厳密に従うことを求めていないということ」というAIの見解に対して、それはタイミングのズレを言っているのか?と質問しました。
「キャラクターAがキャラクターBと友達になったことは一緒でもそれがいつ起きたかははっきりと決めていないが故に、そのタイミングのズレで展開が変わる」というのは、カービィとマホロアの話を想定していましたが、なんか違うなとは今は思っています。難しいですね。
Chat GPTはこう回答しました。
例えはもう少し良いものがあると思いますが、AI曰く総論は同じだそうです。
9回目:「シリーズのストーリーには一定の一貫性があるが、それが時間軸に厳密に従うことを求めていないということ」のメリット・デメリット
ここで深堀りをやめ、そもそも「シリーズのストーリーには一定の一貫性があるが、それが時間軸に厳密に従うことを求めていないということ」にどんなメリット・デメリットがあるのか。AIに聞いてみることにしました。ちなみにゲーム制作者にとってのメリット・デメリットです。
ここで『星のカービィ』シリーズの現状を固有名詞をなるべく使わず説明しています。
Chat GPTはこう回答しました。
AIが分かりやすくまとめているためそのまま読めばそれで大丈夫ですが、この「一部のファンからストーリーについて不満を持たれる可能性がある。」という点は疑問を抱きました。
この疑問は「ん?違くない?」というものではなく、むしろ「それって、もしかして…あのこと?」という感情です。AIに言い当てられているのではないかと。
10~12回目:デメリット「ストーリーについて不満を持たれる可能性」とは
これに対し、Chat GPTはこう回答しました。
AI曰く不満は2つあり
に分かれるそうです。2つ目は矛盾点や不自然な点なのでシナリオの粗とはなります。これについては技術的な問題ですが、1つ目はいわゆる"解釈違い"と言えそうです。
これは時期故『星のカービィ Wii デラックス』に限定した話ではなく、熊崎氏が様々な役割を担った『星のカービィ Wii』、『星のカービィ トリプルデラックス』、『星のカービィ ロボボプラネット』、『星のカービィ スターアライズ』、『星のカービィ ディスカバリー』も構造上抱えている点と言えるのではないでしょうか。
では何故、そのような不満が生まれるのか。特に厳密な時間軸がないと言っているのにも関わらず決めようとする熱が止まらないのか。それを聞いてみます。ただ、これも大体分かっていました。
Chat GPTはこう回答しました。
ある程度の時間軸が必要だからという身も蓋もない回答です。そうなれば、「ある程度の時間軸は人によって違いますよね?」と言えます。
Chat GPTはこう回答しました。
AIもYesだそうです。
14回目:逆に「時間軸を厳密に定めたアプローチ」のメリット・デメリットを聞く
13回目の質問は「今後もそのアプローチを続けるなら」という質問のためあまり意味が無いと判断し削除しています。
14回目の質問では、逆に時間軸を厳密に定めたアプローチならどんなメリット・デメリットがあるかを聞いています。
Chat GPTはこう回答しました。
回答としては普通ですね。新しいアイデアを生み出しにくいというのは話を掘り下げていけば、キャラクターの年齢も関わってきそうです(バイオハザードやストリートファイター?)。
15回目:時間や労力がかかることへの、両アプローチの違い
特に自分の想定と相違がないので、ここは観点を変えて時間軸に厳密に従うにせよ、従わないにせよ時間や労力はかかるけどそれは何か違いがあるのか質問をしました。
Chat GPTはこう回答しました。
同様に負担はかかるけど、時間軸を厳密に定めないアプローチ(カービィの場合)と時間軸を厳密に定めるアプローチでは度合いが異なるかもとのこと。
正直、あまりにも普通なのでさらに深堀します。
16回目:負担の度合いがどう異なるか
負担の度合いがどう異なるか、一般論でいいから可能性をあげてくれと質問。
Chat GPTはこう回答しました。
時間軸を厳密に定めないアプローチにおける「作品に一貫性を持たせるために調整や修正が必要になる」こと。…心当たり、ありません?特に『Wii デラックス』のマホロアにおいて。
17回目:「作品の一貫性を持たせるために調整や修正が必要になること」
「作品の一貫性を持たせるために調整や修正が必要になること」を具体的に聞きます。矛盾しても良いというのは、これまでの考えで入った制限を無視して良いという意図で入れました(意味なかったかも知れませんが)。
Chat GPTはこう回答しました。
予想通りという感じです。
18~21回目:どういう姿勢を持つとより楽しめるか
ここで話を変えて、どのような姿勢を持てばより作品を楽しめるか聞いてみることにしました。
Chat GPTはこう回答しました。
時間軸や物語の矛盾点に対して柔軟な姿勢を持つ
設定やキャラクターの変更に対してオープンマインドである
作品を楽しむためには、ストーリー以外の要素も大切にする
作品の背景や設定を自分なりに考察する
まぁ言っていることは普通ですが、4番の話が気になりました。不満を持つ可能性があると先ほど言っていたので、どのように整合性を保たせたのか尋ねます。
Chat GPTはこう回答しました。
熱心なファン程、厳しくなりがちなのは確かにそうですね。程度の問題でしょう。とはいえ、程度と言っても自分が適度と思っていても公式と擦れることはままあると思います。その際はどうすればよいか尋ねました。
Chat GPTはこう回答しました。
納得…なのですが4番にある「公式の解釈と異なる場合は、自分の解釈が正しいと主張しない」というのはあれ?と思いました。
主張?ファクトがあって間違いを修正しようとするAIは何か違うと公式に従うことを良しとする?と考えていた中、一旦これらをTwitterに共有するならどうなるか聞いてみました。
Chat GPTはこう回答しました。
やっぱり…公式に沿うことが命題となってます。これは自分の質問の投げ方がおかしいのかと考え、別のチャットで再度質問をしています。
<ここからは新しいチャットでやっています>
Chat GPTはこう回答しました。
最後の部分に注目すると、最初は尊重と言いながら最後にはそれ(公式の解釈)に従うことが望ましいと言っています。
これが一般的な回答なのか再度問いかけます。
Chat GPTはこう回答しました。
ちなみにわざと「公式が述べる見解を尊重することは正しくないと思います」のような反転した意見をぶつけてみましたが、それでもChatGPTは「ストーリーや世界観の解釈には、公式の見解や意図を尊重することが重要ですが、それだけに拘束されることは必ずしも正しいとは言えません」と、発信者は尊重しつつも公式の見解や意図を尊重することが重要という意見は述べています。
最後の最後で人間とAIの違いが見えた所でこの対談は終了です。
AIと対談して得られたこと
今回の対談で得られたことをまとめます。
インタビューにおける熊崎氏の発言は、以下の4点。
明確な時系列を持たず、過去の設定に縛られずに新しいことにチャレンジしやすいこと。
ストーリーに重きを置きつつも、ゲーム性を重要視していること。
作品ごとに詳細な設定を練り上げることで、ストーリー要素を継承していく努力が行われていること。
作品のファンであれば、新作の期待感を高めるもの。
1-4に出た「作品のファンであれば、新作の期待感を高めるもの」は以下の理由から導き出される。
ストーリー要素を継承するやり方は時間軸を厳密に定めないアプローチ。このようなアプローチは以下のメリット・デメリットが考えられる(星のカービィシリーズを想定)。
【メリット】
シリーズ全体のストーリーの一貫性が保たれるため、ファンの期待を裏切ることがなく、長期的な展望が立てやすくなる。
ストーリー展開やキャラクターの変化に柔軟性があり、新しいアイデアを取り入れやすくなる。
ストーリーの時系列が煩雑にならず、プレイヤーが理解しやすくなる。
シリーズに新しい作品を追加する際に、過去の作品との繋がりを意識しながら、新しい要素を取り入れることができる。
【デメリット】
時間軸に厳密に従わないため、ストーリーの一部に矛盾が生じる可能性がある。
過去の作品との繋がりを意識しながら新しい要素を取り入れるため、ストーリー展開が予測できないことがある。
一部のファンからストーリーについて不満を持たれる可能性がある。
時間軸を厳密に定めないアプローチにおけるデメリットの「一部のファンからストーリーについて不満を持たれる可能性」については、以下の場合を想定。1は"解釈違い"とも言える。
作品に対して持っているイメージや期待と異なるストーリー展開が描かれた場合
興味を持っているファンが、ストーリー展開やキャラクターの心理描写について詳しく考察することが多く、その中で矛盾点や不自然な点を見つけ出す時
厳密な時間軸が無くとも、ある程度は決定する必要があるし、その範囲も人によって異なるため解釈のすれ違いが生じる可能性があると投稿者もAIも把握している。
逆に「時間軸を厳密に定めるアプローチ」はストーリーの一貫性を保ちやすく、作品間のつながりが明確になるため、ファンが作品をより楽しめるというメリットがあり、ストーリーの展開に制限が生じる場合があり、新しいアイデアを生み出しにくくなる場合があるというデメリットがある。
「時間軸を厳密に定めるアプローチ」と比較すると、どちらも時間や労力がかかるが、「時間軸を厳密に定めるアプローチ」はストーリーの全体像を把握し、各作品でのキャラクターの成長や出来事のつながりを管理する必要がある。一方「時間軸を厳密に定めないアプローチ」は、物語によって後から矛盾が生じる可能性があるため調整や修正が必要になるとAIは述べる。
AIは公式の設定を尊重することを掲げる姿勢がみられる。
「時間軸を厳密に定めないアプローチ」にはファンが期待を持つが、不満を持つ可能性もまたあるというのは非常に面白い見解です。特に星のカービィシリーズという固有名詞を用いずともその話が出てくるため、これはある程度共通して言えることでもあります。このような深堀ができたため、今後も相談相手として共にやっていきたいなと思っています。
ただ、公式の意見の尊重を強調するのは興味深い点でした。AIとして倫理的な配慮としてそうなったのか(notionAIに比べるとレベルが高い話は聞きます)、間違いを正すことを運用上要求されているため指示に従うことが優先されているのか、何が原因なのかは不明ですが非常に気になります。
ChatGPTはチャットの名前が付く以上、対話型として動くのが効果的ですが、その対話はあくまでも人対AIのものであり、人対人ではないことは分かったうえで質問を投げかける必要がありますね。
AIを対談相手にするために心掛けたこと
この、AIを話し相手にするために気を付けたことが4点あります。まぁこの辺は「プロンプトエンジニアリング」ともいいますが。
こちらが理解できることから深堀する
質問内容は慎重にする
固有名詞はなるべく使わない
ChatGPT本体でやること推奨(API経由だと面倒)
1つ目の「こちらが理解できることから深堀する」はかなり大事です。AIは平気で架空の人物や出来事を指してきますからお互いが分かることから話を徐々に進めていかないと、お互いにわからないまま話が進んでしまいます。
2つ目の「質問内容は慎重にする」は、質問内容を色々考えてから展開した事を指します。この対談は1日で行っておらず、その日次の質問が浮かばなければ手を止め、また思いついたらその時出すようにしました。AIが指摘をしてくれない以上、条件の設定に誤りがないかなど検討する時間が必要だからです。あくまでも自分としては、ですが。
3つ目の「固有名詞はなるべく使わない」は好みだとは思っています。よほど新しい概念でなければデータベースに入っていくと思うので変に気にする必要がないと思います。
4つ目の「ChatGPT本体でやること推奨(API経由だと面倒)」は…身も蓋もない話ですが、API経由で利用できるサービスでは履歴の保存ができないため色々考えることができなくなります。1回の質問で終わる話ではない以上、履歴を保存できるChatGPT本体でやることが1番良いと感じました。
GPT-4になって
さて、この記事はGPT-3.5で書きましたが、その後GPT-4がリリースされました。3.5の時は私も慎重になりながら(あるいは臆病?)質問を投げましたが、4は察して回答を出すようにもなったためアプローチが変わるなぁと思いました。
古くはなってしまいましたが、総論がホイホイ変わる訳でもなかったのでそのまま投稿しておきます。
最後に:AIと共に
この記事はChat GPTがあって初めてできた記事です。答えの曖昧な問いを投げかけて、その可能性を問うというやり方を聞いてから非常に楽しくなりました。
条件を設定するのはなかなか難しいですが、それはそれで自分のアウトプットができているかの練習にもなります。
AIに試験問題を解かせたり、メチャクチャな回答を見て笑ったり、話題には事欠きませんが、折角だから色々なやり方を見つけたいですね。
おまけ
最後に、ChatGPTとのログを残しておきます。省いた質問などもいくつか載っています。