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【2024年11月】先月聴いた中でお気に入りのアルバム

 こんにちは。やっていきましょう。一回ヘッダーのデザインを戻してみます。実験。

野流『Estuary』(2024)

 原始的でプリミティブな音楽とレトロフューチャーなテクノサウンドの融合が美しいアルバムでした。シンセで作られた音色は動物の鳴き声や山を吹き抜ける風などに聞こえ、そこへフルートやサックスのメロディーも加わり静謐ながらも生命力を感じるスピリチュアルな風景が広がっていきました。即興的な演奏と流動性のある楽曲の展開が肌に合うようで、ゆっくりと体に入っていくような親しみやすさとある種の神秘性みたいなものも感じられました。ある意味人間味を感じないとういうか、背景にいる演奏者などの存在を感じさせない自然体なサウンドと曲の雰囲気が言葉にし難い不思議な空間を形成していました。

ass_atte『To be in Hell is to drift: to be in Heaven is to steer.』(2024)

 全楽曲が様々な方向で暴力的な展開をなしていく衝撃的なアルバムです。不穏な電子音やノイズのように潰れたギターと歌声、今にも壊れそうな勢いで繰り出されるドラムなど出すとこはとことんパワープレイなハードコアミュージックで圧倒されました。しかしそれだけの巨大な音像の下にさらされても聴きづらいとか限界がくることはなく、むしろかっこいいと思える内容にまとまっていました。そのさじ加減といいますか、細かな調整も素晴らしかったです。《All Our Llves》ではそれが10分間にもわたって展開され続けていく様は驚きました。とにかくこれだけのパワーとスタミナがどこから出てくるのかと思ってしまうほど力強い作品です。今年トップレベルで衝撃的な作品でした。

色々な十字架『1年生や2年生の挨拶』(2024)

 個人的に今日本で一番面白い(funnyの意味で)バンドの新作はより洗練されより変な進化を遂げていました。ルール無用で倫理観を無視した歌詞はより深みを増し、バンドの演奏もより磨きのかかったダイナミックでかっこいいV系サウンドに仕上がっています。各楽曲もそれぞれにニュアンスの変化がつけられていて、今まで以上に前時代のヴィジュアル系バンドへのオマージュやリスペクトを感じさせる演奏でした。特に終盤あまりにも完成度の高いシューゲイザーライクな演奏には思わず笑っちゃいました。そんなサウンドで歌われるのが「全裸でコクピット乗ってどっかの帝国と戦いに行く話」だったりするのでもう訳が分からないです。カオスでシュールな世界観が唯一無二のユーモアを形成しているひょうきんなアルバムです。

文坂なの『だけど、わたし、アイドル』(2024)

 実に質の高い昭和の風薫るアイドルソングたちです。最初に聴いた印象は昭和の楽曲を現代版にリミックスした近年のシティポップブームでよく見かける楽曲のようだなと思いました。しかし曲作りやアレンジは現代的なアイドルの文脈を踏襲しつつ、そこへ昭和アイドル楽曲のフィルターをかけることによってノスタルジックかつ新しい雰囲気を構築しているなと感じました。個人的にはアニソンの影響も大きいのではにかと思います。メロディーはどれもキャッチーで世代関係なくハマってしまう魅力がありました。また驚いたのはこれらをセルフプロデュースで楽曲依頼などもすべて一人で行っているという点。これほどクオリティの高い昭和オマージュのアイドルを一人で綿密に計画しまとめ上げる力には驚かされました。この時代にこのアルバムが0から生み出されたのは何か不思議なことにさえ思えてしまうような出来栄えの高さでした。

香取慎吾『Circus Funk』(2024)

 豪華なアーティストをゲストに迎えたファンキーで華やかなアルバムでした。タイトル通りのファンクさだけでなくサーカスのようなエンタメ性、バラエティに富んだ楽曲群で始まりから終わりまでずっと楽しませたいという心意気が伝わってくるようでした。それぞれのフィーチャリングアーティストは別ベクトルの個性と華がありフェスや歌番組のようなスペシャル感の漂う一枚に仕上がっています。それらのアーティストの力を借りるだけでなく香取慎吾自身の持ち前のスター性・エンターテイナー性が存分に発揮されていて、どのようなコラボでも乗りこなし素晴らしいシナジーを生んでいました。多幸感あふれるキャッチーでノリの良いメロディーが続き、あっという間に聴き終わってしまう非常に楽しいアルバムでした。

Homecomings『see you, frail angel. sea adore you.』(2024)

 前作から大きくテイストを変え繊細ながらも力強いテイストのシューゲイザーが響く一枚になっていました。アルバムは序盤から中盤、終盤へと一つの大きな抑揚がつけられているようで最初エンジンがかかり始めたように徐々に盛り上がっていき、サウンドのダイナミックさはより大きくなっていきます。次第にサウンドは落ち着いていきアルバムのラストは静かなピアノのソロで締めくくる構成がシームレスに動き情緒的で美しい流れを生み出していました。さらにアルバム全編に渡ってグリッチノイズがメロディーに呼応するように鳴っていき、より楽曲を立体的に装飾していました。パワフルな演奏の中にも細やかな息づかいか感じられるバランス感覚が優れた一枚だと思います。

田辺玄『yaora』(2021)

 静謐で悠長な空間が無限に広がっていくようなアンビエントでした。とても静かで穏やかで柔らかい、繊細で洗練されたサウンドが流れていき、時間の経つ早さがゆっくりになっていく感覚がありました。しかしそれで間延びした印象や退屈になることはありませんでした。曲のタイトルも最小限で書く楽曲もシンプルな音数でその洗練されたサウンドが重なることで織りなすプリミティブなハーモニーを楽しめる作品でした。そのシンプルなコンセプトはジャケ写にも表れていると思います。《sei》では女声のコーラスのみの楽曲ですが、こちらもアルバムの世界観に統一された美しいハーモニーが流れ、聴いている空間に溶けいるような幻想的な楽曲でした。

越智義朗『ナチュラル・ソニック』(1990)

 全編パーカッションで構成された躍動感のあるアルバムでした。全楽曲がパーカッションオンリーで構成されていますがどれも表情豊かで自然な肌触りかつ肉体的なビートがここちよく流れていきます。流暢なトーキングドラムの音色からからはじまり様々な楽器を弾きつくしたと思えば、水までも叩いてパーカッションとしてしまう発想と演奏力の高さには驚かされました。他の成分を一切入れない純粋なパーカッションの良さ、良質なビートとリズムを最大限に引き出す姿勢と演奏技術の高さがひしひしと伝わってくるアルバムです。人間に太古から引き継がれてきたリズムの感性にダイレクトに体に響いてくるような、大袈裟ではないけれどパッションにあふれた一枚だと思います。

冨田勲『月の光』(1974)

 ドビュッシーの名曲をMoog-Ⅲで再現、再構築したアルバム。壮大かつユニークな音世界が心地よいタッチで次々と響いてくる作品でした。オーケストラを思わせるような壮大でMoogらしい宇宙的なサウンドから口笛のような繊細な音、軽快に鳴るベル、雄大なコーラスなど多種多様なサウンドが次々と鳴り響いてきますが、これがアナログシンセで全て調節されたものと考えるととてつもない調整と試行錯誤があったんだろうと思わされます。時代や当時のシンセサイザーを考えればなおさらです。一つの機械から出てきたとは思えないサウンドバリエーションの豊かさでずっと楽しく聴くことができました。他に類を見ないこのアプローチは邦楽のみならず音楽史の重要な一枚なのではないかと思います。 

以上。先月聴いたアルバム一覧のリストです↓

 だんだんこの締めの部分書くことがなくなってきたので他にも気になったアルバム何作か名前だけあげておきます

~離『Lunula (exit full screen)』(2024)
磯田健一郎『マジエルのまどろみ』(2024)  
高木正勝『Mrginalia Ⅵ』(2024)
さくらみこ『flower rhapsody』(2024)
okkaaa『汽笛モノローグ』(2024)
銅金裕司 & 藤枝守『エコロジカル・プラントロン』(1994)
セキトオ・シゲオ『華麗なるエレクトーン-ザ・ワールド-』(1975)

 ざっとこんなところでしょうか。今月は個性が際立つ作品にたくさん出会えたような気がします。Xで新譜の情報を発信している方たちのリストを追っていったら終わった11月でした。旧譜をどこで聴いていこうか考えている晩秋です。そんな感じです。


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