「コレクティブ・インパクト」と組織アジャイル
組織も一つの「システム(系)」と捉えるならば、「システム」に関する方法論、知見、仮説が組織にも通じるはずである。私が扱う "組織変革" とは「アジャイルを組織に宿す」ということだが、このアジャイルな変革についても「システム」に関する理論、実践知が頼りになると考えられる。そのうちの一つが「コレクティブ・インパクト」だ。
私はコレクティブ・インパクトについては専門家ではなく、むしろ知人からそのヒントをもらった立場である。これは、社会課題解決の文脈においてその活動の後ろ盾とも言える存在にあたる。
「組織を芯からアジャイルにする」をはじめ、これまでも様々な話の中で繰り返し述べてきているが、「異なるセクターの組織や個人が共通の目標を持って協力し合うこと」とはまさしくトラディショナルな企業において必要とする状態だ。組織を「システム(系、構造)」と見るならば、その複雑性、多様性については、"社会課題"と性質的に通じるところがあると言える。
コレクティブ・インパクトには5つの基本条件がある。
この5つの条件は、これまでのアジャイルな変革の知見からみても当てはまるところである。もし、この5つの観点について、弱いところ、まだ取り入れられていないものがあれば、さっそく参考にしたいところだ。
共通のアジェンダ:なぜ、アジャイルな変革を必要とするのか? そしてどのようにしてアジャイルな変革をアプローチするのか? WHYとHOW、その両者がアジェンダの対象になる。当然ながら、こうしたアジェンダなければ、組織内の求心力となっていくのは難しい。
ただし、重要なのは最初から「完成されたアジェンダ」は存在しないという点だ。変革に関しても、「このようにすれば突破口になりうるのではないか?」 という仮説になる。共通のアジェンダは活動の中で磨かれていく対象である。
共有された測定基準:この5つのアプローチの中で、私がもっとも強調したいのはこの観点である。多様なステークホルダーを巻き込んでいくためには、変革の活動自体を外形的に見て、どう言えるのか、どう説明できるのかが必要になる。
共通のアジェンダに対する当事者の「思い」が備わっているのはもとより前提である。そして、主観的な思いだけではなく、その活動をどう解釈できるのか、という「捉え方」がなければ、様々な思惑、関心のもとで成り立っている組織の中で、共通理解をつくるのは難しい。
アジャイルな変革において、何をもって「測定基準」とするか。これは、論点として深堀りしがいのあるもので、今後とも言及していきたい。
相互の活動の補強:「システム(系、構造、組織)」に作用する取り組みにおいて、問われるのはどのようにして協働活動を体現していくか、チーム・集団としての「動き方」である。
「異なる参加者が自らの役割を理解し、連携して行動する」ためには一定の型が必要になる。この型にこそ、アジャイルが備えるプロセス方法論としての知見を適用する。スクラムや、大規模アジャイル、組織アジャイルと呼ばれる、組織的な動き方を取り入れる。
継続的なコミュニケーション:相互の活動の補強のために、継続的なコミュニーケーションが必要であり、この観点は前項と通じるところが多い。具体的なプロセス方法論を適用するのが前項であり、本項の「継続的なコミュニーケーション」に関しては、アジャイルの価値観やマインドセット、その下支えとなるプラクティス群が有効に機能する。
活動を支えるバックボーン組織:コレクティブ・インパクトをわざわざ持ち出して組織変革を語る利点は、先に述べた「共有された測定基準」作りと、この「バックボーン組織」の存在を強調するためと言える。組織内の多様な利害を調整し続けるためには、こうしたメタ的な組織が必要になる。「取り組み全体を調整し、参加者間の連携をサポートする専門の組織やチーム」とは、いわゆるアジャイルCoEにあたる。
アジャイルによる組織変革に挑む。その手がかりとなりうることは、貪欲に仮説に取り入れていこう。