飛び出した飛行機の操縦桿を離してはいけない。
エフェクチュエーションという考え方がある。
優れた起業家の行動を洗いまとめ直した方法論で、5つの行動原則があげられている。
・「手中の鳥」(Bird in Hand)の原則
・「許容可能な損失」(Affordable Loss)の原則
・「クレイジーキルト」(Crazy-Quilt)の原則
・「レモネード」(Lemonade)の原則
・「飛行機の中のパイロット」(Pilot-in-the-plane)の原則
5つの原則に通じているのは、ゴールデンサークルのようなStart with Whyではなく、真逆で、手持ちの手段から構想する考え方。昔、はじめてエフェクチュエーションの概念を知ったとき、とても腑に落ちたことを覚えている。仕事柄、ベンチャー寄り企業の経営者の話を聞くことがよくあって、彼らが一様に話していた内容と一致したためだ。
「別にこのビジネスをやりたいわけではなかった。上手く行ったから、ビジネスを広げただけ」
最初聞いたときはなんて意義の無い決め方だろうと正直思ったが、自分自身の経験も棚卸ししてみると、意外と合致することに気づいた。上手くいったと思えることは思いの他、「手中の鳥」(自分の持っていたリソース)から始まっている。
綿密な計画に基づいて取り組んだことよりも、最小から出発して始めたことのほうが「結果が出た」という記憶として残っている。ただ、さらに冷静に考えてみると、それなりに計画を立てつつ、その後結果から小刻みに適応を続けたからこそ結果にたどり着いたような気もする(「飛行機の中のパイロット」)。最初の目論見と着地にずいぶん開きがある、ということが少なくない。
ということで、エフェクチュエーションの5つの原則は経験則からも合意ができる。
一方で、手の中にどんな鳥を飼っているのかは前提となる。手中の鳥の原則では3つの問いを用いて、自分の飼っている「鳥」を認識する。
「Who I am」自分は何者か
「What I know」自分は何を知っているか
「Whom I know」自分は誰を知っているか
「鳥」は必ず手中にある。だから、何かを始めることはできる。ただ、その何かが、「できるからやる」のか「やりたいからやる」のかでは大きな違いがある。
くだんの経営者の皆さんは「できる(た)からやる」のであり、プロ経営者の気概を伺うことができる。ECはじめて、たまたま軍手が売れたから、現場消耗材のECに振り切るとかね。ストイックで尊敬するが、誰もがそう割り切れるものでもない。
人は自分が意味があると信じることこそ実現したいと思う。「信じたいことで結果を出す」という願望と結果のフィットを暗に求める。これはエフェクチュアルから離れていくし、おそらく「結果が出る」という確度についても概ね落としていくことになる。
それでも。自分が何者かでありたいし、多くのことを知っていたいし、誰かとの繋がりを増やしていきたいと思う。それで良いじゃない。意味を与えようとすること自体が、多くの場合、人を支えることになるのだからね。
手中の「鳥」を丹念に育てて(決して飼い殺しにしてはいけない)、ある時、勇気を出して解き放ってみる(ここでの一歩に意外とジャンプが求められる)。にもかかわらず、さっそく無惨な結果が帰ってきて愕然とする。しかし、勝負はそこからだ。飛び出した飛行機の操縦桿を離してはいけない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?