最初から1周目を捨てて、2周目にかける
「アジャイル開発が必要」と声をかけられて行ってみたら、モノを作る以前の状態で、何を作っていくのか方向性がない、「必要なのはサービスデザインだった」ということが少なくない。
言葉の解像度があってない、で片付けるのには大きすぎるズレ。アジャイル開発を早期に何らかアウトプットしていくもの、くらいのイメージだけで捉えていると起きうる。どうやって、最初のアウトプットが生み出されるのか、がブラックボックス。タイムボックスという箱に蓋をして、外から眺めているだけでは、この解像度は高まらないままだ。
やむを得ないことだ。プロダクト作りのリテラシは関係者によって様々だ。アジャイルだの、サービスデザインだのが意味するところを理解するには時間も、下地も、関心も不足しがちだ。
では、目の前の立て込んでいるプロダクト作りはどうしたら良いのだろうか。何を作るのかの方向性について何ら確からしさがないところで、最初のイテレーションは一体いつ始まるのか、と期待だけが異様に高まっている局面。プロジェクトをゼロからデザインするなんてとても舵取りできない状況で。
こういうときは1周目を捨てる。捨てると言っても、状況をただ諦めるのではない。むしろ、短くとも仮説検証の活動を必ず差し込む。どういう状況を変えるためなのか探索し、自分たちが考えるソリューションがどの程度通用するのか検証する。この仮説検証が1ヶ月できることもあれば、1〜2週間の場合もある。
この仮説検証はいちはやく終えてしまわざるを得ない。結果、ソリューションへの評価が微妙なものであったとしても、作ることだけは決まっているためイテレーションを始めなければならない。それでも、全く想定ユーザーの状況がわからないまま、プロダクトを作り始めるよりは基準を持つことができる。誰の何のためにつくるのか、こうした基準すらチームで理解がバラバラであってないまま進めるプロダクト開発は、混沌としたものになる。
短い仮説検証には伏線がある。結果がはっきりとしないもやもやとしたものになっても構わない。「このプロダクトを一旦作ったあとに、また検証を行おう」という機運につなげることができる。「こうした活動は本来時間をとって行うべきだ(ただしこのプロジェクトは先に進める)」という意見でも良い。であるならば、最初に作り出す、まとまったアウトプットで検証を行おうと、先の約束を結ぶことができる。
そこで1周目をどれだけ早く終えられるかに舵を取り直す。どれだけ、ムダなものを作らないようにするか。根拠のない想定でのみで作ってしまう範囲をできるだけ小さくしたい。仮説検証を十分に行えていないので、想定の範囲は大きいままだ。だから、どれだけ作る範囲そのものを減らすかという戦略になる。
1周目を捨てて、2周目にかける。この1周目の意義は深い。人が物事を受け止めるには相応の時間が必要になる。自分たちが何を間違えているのかを理解するための時間。新たな方法を受け入れるための時間。理屈だけでは解消できないものがある。シンプルに時間が必要なのだ。1周目はそのための時間として、ある。