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"石のスープ" でプロダクトチームをつくる

 プロダクトマネジメントとは、石のスープなのだろうと思う。

 飢えた旅人が集落にたどり着き、民家に食事を求めて立ち寄ったが、食べさせるものはないと断られてしまった。一計を案じた旅人は、路傍の石を拾うともう一度民家にかけ合った。「煮るとスープができる不思議な石を持っているのです。鍋と水だけでも貸してください」
 興味を持った家人は旅人を招き入れた。旅人は石を煮始めると「この石はもう古くなっているので濃いスープになりません。塩を加えるとよりおいしくなるのですが」と説明した。家人は塩を持ってくる。
 旅人は同じようにして、小麦と野菜と肉を持ってこさせた。できあがったスープは見事な味に仕上がっていて、何も知らない家人は感激してしまった。旅人はスープのできる石を家人に預けると、また旅立っていった。

石のスープ

 この旅人が軍人に置き換わり、家人が村人になって一人ではなく複数人の村人を石で巻き込むというパターンもある。最初は協力的ではなかった村人たちが石のスープに引き寄せられて、様々な食材を持ち寄りはじめるという話。結果として皆が協力しあえば皆でごちそうにありつける。そのきっかけが必要で、きっかけ自体は単なる「石」であっても良い。
 つまり、周囲の協力を集めるための「呼び水」の比喩としての石のスープがある(私の記憶にあるのはこちらのほうだ)。

 この「石」がプロダクト作りにおける最初の「MVP(実用的で最小限の範囲の製品)」にあたる。その存在は、プロダクトの中核にあたりながらも小さく限定的である。プロダクト作りはこのMVPから始める。

 小さく限定的と言っても、MVPにはそのプロダクトのコンセプトが凝縮されている。MVPでもって、プロダクトの構想を測ろうとするわけだ。想定ユーザーからのMVPへの反応が良ければ、自ずとチームも気持ちを高められる。次への期待と繋がる。だから、MVPにはチームを引っ張る力、「その気にさせる」何かが備わっていると言える

 プロダクトチームもプロダクトと同様最初から完成されているわけではない。むしろ、お互いに様子を見合い、場合によってはどこにもリーダーシップがなく、まるで芯がないような状態から始まることもある。寄せ集められた"チーム"で始めると珍しいことではない。

 こうした集団をチームに仕立てていく手段の一つが、MVPであり、すなわち石のスープなのだと思う。良いチームが良いプロダクトを作ることができる、というもっともな話以上に示唆があるのはむしろ「良いプロダクトが良いチームを作る」ということだ。

 人と人というもっともあやふやで、他者の思い通りになることがない存在をチームに仕立てていくことは本来的に難しい。むしろ、プロダクトという「モノ」のほうが扱いやすい。外からの働きかけで、思うような形に仕立てられる。
 つまり、何らかの作用をかけて、意図的にある方向へと導こうとするならば、「人」よりも「プロダクト」のほうを起点にしたほうが筋が見いだせるのではないか。我々は他人を直接的に変えることはできないかもしれないが、モノ(プロダクト)ならば変えることができる

 ただし、石がごちそうに勝手にならないように、MVPでチームを引っ張るためには寓話における軍人なり旅人が必要である。今起きていることが何かという見方と説明、その状況をどうしていける可能性があるのかという見立てとチームへの提言。これがプロダクトマネージャーの役割となる

 たとえ、ちっぽけな石であってもプロダクトになりえて、周囲が巻き込まれていくきっかけになりえる。華麗にごちそうスープを作りあげた旅人のように、プロダクトマネージャーの腕がここで問われる。

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