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832回のイテレーションを、ありがとう

 2023年の3月から4月は、"地下20階" から "地上" へと戻るタイミングだった。"地下20階"とは、「組織」という概念の奥深さを表すもの。"地上への帰還" とは、組織変革の真っ只中からの離脱を意味する。それまでは、「組織」なるものに向き合うことに、ただただ夢中の日々だった。

 その日々に区切りをつけた、ちょうどそのとき、XPJUGが主催する「XP祭り」というイベントの基調講演の依頼を受けた。XPJUGとは、実に懐かしく、思い入れの深い、アジャイルコミュニティだった。最後に、XPJUGで話したのはいつのことだったか。10年では効かないくらい経過していることは明白だった。私は、その基調講演を即座にお受けする旨を伝えた。

 なにしろ "地上" に戻り、自分と向き合う時間を取ろうとしていたところだった。自分のことをふりかえるには、丁度良い。かつて、アジャイルコミュニティで自分が何を話していたのか。たとえ16年前のことであっても、今でも簡単に遡ることができる。

 16年前のXP祭り(2007)で、はじめて人前で話す経験を得た。まだ、20代だった自分が16年後に向けてどんな希望を託したのか。それに上手く答えられるか、どうか。16年、832イテレーション分を辿り直すことにした。

 140枚のスライドを積み上げる。1時間を超える話をする以上は、丁寧にお伝えしたい。仕事の合間を縫って、繰り返し練習した。声を出して練習する、というのも久しぶりのことだった。16年も経てば、人前で話すことにも慣れている。でも、ことこの講演に関しては、いつもの慣れの上にあぐらをかくわけにはいかない。古くからの仲間や先達が集まる場においては、そういうわけにはいかない。

 それでも、2つの箇所で、言葉に詰まるところがあった。

 72枚目。

 「ダメになろうなんて、誰も思っちゃいない。」言葉を紡ごうとしたら、声が震えた。FromからToへと、どうにか歩みを進めようとする、同朋たちのことを刹那思い浮かべたら、喉の奥が急に詰まった。このスライドに留まると、涙腺が危ない。

ー そう、だよな。分かっている。だから、代わりに言うわな。

 その一枚を乗り越えて、もう一枚。107枚目。

 素直すぎる気持ちを表現しているだけなので、ここでも言葉に詰まりそううになるとは思っても居なかった。どんなに小さな一歩であっても、一歩は一歩(このフレーズも昔良く言っていた)。思えば、その小さな変化を手がかりに、これまでやってきたんじゃないか。16年前の、本当に本当に小さな変化を握りしめて。

 72枚目が、同朋に向けたものなら、107枚目は、16年前の自分と重ね合わせるためのものだった。140枚も費やしながら、盛り込めなかった言葉をここで、補いたい。「ともに越える」を、ありがとう。来週から再開する833番目のイテレーションにともに臨む方々に向けて。そして、最初の最初のイテレーションを16年前に始めた、自分自身に向けて。ありがとう。


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