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「感情」を拠り所に、その組織の歴史の「手触り」感を得る

 組織に向けた施策は「傾向と対策」が大事。過去問を解かずに受験することがないように、その組織の歴史に触れることが手がかりになる。ただし、その組織に長く居たものでなければ、これまで何があったのか、過去問の存在に気づけ無いことが多い。

 例えば、アジャイルでも、デザイン思考でも、組織アジャイルでも良いのだけど、その組織にとっての新たな概念を取り入れようと考える際、焦点があたるのは「新たな概念をどう実装するか」のほうになる。

 概念を運用可能なように具体的にどのように落とし込んでいくか、のほうに力点が置かれることになる。当然、この検討には相当なる労力がかかる。結果、過去問に目を向けている余裕などない、ということが起こりやすい。
 この際エクスキューズとして用いられる言葉は「新しいことをやろうとしているのに、過去をみていても仕方がない。むしろ、これまでを気にしていても抵抗や足かせになるだけ」あたりだろう。

 しかし、どれだけモデルやフレームを練り込んだところで、実行するのはその組織の中の当事者なのだ。もちろん、率直な反応がそこかしこで起きることになる。その時手に負えれば良いが、勢いでどうにかなるくらいならとっくに組織は変わっているであろうし、よしんばかつてない強制力を働かせたところで持続可能になるかは賭けに等しい

 過去問を解いておくことの意義はここにある。

 「新たな概念」に寄せられる反応を先んじて得ておきたい。組織内で広範囲に広げる前に、組織内のオピニオンリーダーや現場前線の少数に向けて声をかけてみる。その時、着目したいのは「新たな概念」の成否そのものではない。どんな「感情」が相手に芽生えているかを観る(相手に施策の成否を占って欲しいわけではない)

「XXXならもうやっている」
「XXXは実は以前も取り組んだことがあるが、ああだこうだ」
「XXXの良さは分かるがこの組織ではYYYが第一なので、ああだこうだ」

 寄せられる様々な反応からまず得たいのは、「評価の拠り所としている具体的根拠」である。何をもって、どう言っているのか。ポジにせよ、ネガにせよ、具体的な根拠の中身。これが当該組織にとっての過去あったことであったり、今も続いている何かにあたる。それをポジに捉えるか、ネガに捉えるかは、その人の解釈になる。参考にはするものの「答え」ではない。

 ところが、人は意見を求められると「正しく答えよう」とする力が無意識にかかりやすい。客観的な成否の評価が前面に立ちやすい。
 「(本当のところ自分はそうは思っていないけど、正しくクレバーに答える必要があるだろうから)ああだこうだ」という具合。

 だからこそ、評論以上に「感情」の動き、芽生えのほうに目を向ける。「厭わしさ」や「倦厭」、「憂い」、「怒り」などどちらかというとネガティブな感情のほうが分かりやすく、過去問の存在とその傾向がつかみやすい。何か手が打てる可能性がある。
 一方、「励まし」や「後押し」、「勇気づけ」といったポジティブなほうはありがたい声ではあるものの、過去を分からなくしてしまいかねず、傾向と対策を練る上では状況を逆に難しくしてしまう。感動のままに会話を打ち切らず、粘り強く過去の紐解きを行おう。

 「感情」を拠り所に、その組織の歴史の「手触り」感を得る。一見、ファジーな取り組みに見えて、とてつもなく手がかりに近づける。このためにも、組織の施策もプロダクトマネジメント同様に、仮説立案と検証、小さな実験が不可欠になる。
 対象が組織の施策でも、不確実性の問題はプロダクトと同じだ。先に述べたとおり、勢いで全社展開ではなく、小さな範囲で試す、という動きを取り入れたい。「MVP(Minimum Viable Product)」にあたる、いわば「MVI(Minimum Viable Initiatives)」が必要ということだ。


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