スプリントの終わりに「結果」だけではなく、「差分」を捉える
何のためにスプリントをいくつもいくつも、繋いでいくのか?と問われたらなんと答えよう。
作るべきものが溢れているから? バックログにフォーカスすると、そういう回答になるかもしれない。あるいは何か成し遂げたいこと、到達したいことがあるから? ゴールにフォーカスすると、そうかもしれない。
バックログとゴールでは、何が違うか。バックログはWHATに、ゴールはWHYにあたる。WHYに向けて、必要なWHATが列挙される。この関係性を踏まえると、両者の違いは「焦点の当て方」でありどちらもスプリントを遂行する理由として捉えることができる。
といった具合に、スプリントの意義をWHYとWHATにのみ求めると、不足する観点がある。それは「差分(difference)」だ。WHYとWHATだけ見ていると、「結果」についての認識のみが強くなってしまう恐れがある。
ゴールは到達できたのか? 作るべきものはできたのか? 結果への意識を高めるとどんな不都合を招くことになるのか。ともするとゼロイチの結果把握に終始してしまいかねない。「差分」にも目を向けることとしよう。
「差分」を捉える問いは次のようになる。スプリントの最初の時点から比べて、プロダクト / チーム / ユーザーについて、
・何ができるようになったか
・どんな状態になっているか(ポジ、ネガ両面で)
・何が分かったか(あるいは分からなくなったことはあるか)
いずれも、スプリントを通じて獲得したこと、理解したこと、発見したことなどを捉えるための問いにあたる。
「スプリントを通じて、プロダクトは機能的に出来ることが増えた。その一方で、作りが複雑になる部分が増えてきている。」
「スプリントを通じて、チームはコミュニケーションする時間が増えて、チーム自体の状況理解が相互に進んだ。」
「スプリントを通じて、ユーザーは今提供している機能を理解できていないのではないかという疑問が湧いてきた。」
こうした理解の獲得は、ゴールやバックログの結果にのみ焦点を当てていると抜け落ちてしまいかねない。差分を捉えるということは、新たな知識を得ることに他ならない。
アジャイルの中核には「適応」という概念がある。適応とは何か。単に結果を把握するだけならば「適応」とは呼ばない。それは「進捗確認」になる。
「適応」とは実行した結果と、その結果に至る過程から、新たな知識を得て次の意思決定や行動に資することである。アジャイルのイベントを進捗確認ではなく適応の機会とするには、相応の問いを備える必要がある。