読みの体験へのこだわり
「紙と電子書籍では読みやすさが何か違う」という年に2回くらい考えるアレについてようやく分かった気がした。最初に断っておくと、紙と電子どちらで読むかは個人の好きにしたら良いこと。自分のユースケースに合わせて下さい。
さて、今回は「紙の方が何か読みやすい」という方について。私は、ラフに読んで済ませる本は圧倒的に電子を選ぶのだけど、じっくり読みたい本や電子で読んでこれは手元に置いておきたい(電子も手元にあるのにね)と思った本は、紙で買うようにしている。紙のほうが読みやすく感じる。
以前から、紙は目で読むだけではない、指でも読んでいると感じていた。指先で感じる厚み、質感が読むという行為を後押ししてくる感覚がある。ただ、今回気づいたのはそのことではなく、「本作り」を通じてのことだ。
2017年にカイゼン・ジャーニーを、2018年に正しいものを正しくつくるを、さらに2019年チーム・ジャーニー(2020年2月発刊予定)を書いた。立て続けに3冊書いて分かった。紙の本は、その一枚一枚がソフトウェアでいう「UIデザイン」にあたる。
素人感覚でいうと「文字データを何かに流し込むだけでしょ」だし、実際電子書籍ビューワってそういうことなんだよね。自分でレイアウトを決められる。文字大きくしたりね。もちろんそれがデジタルの良いところ。
一方、紙の本は、まさに物理的な紙に文字と図を焼き付けていくものだから、レイアウトを決めないといけない。もちろん、読みやすくなるようにだ。どこまでを一ページに収めるか、どこから次のページに送ってしまうか。図はどこに置くか、図の置き具合でページに収める文字量が変わる。繊細な作業だ。
執筆をはじめたばかりの頃はレイアウトを決める(初稿出し)と、「その後はあまり変えられません」と言われることに違和感を感じていた。アジャイルの本なのに、なんで本作りはアジャイルじゃないのよ、て大人気なくね。
でも、2作目の「正しいものを正しくつくる」を作っているときに、気付かされたのだ。編集者の「読みの体験」へのこだわりを。一枚一枚で起こる「読みの体験」を念頭にレイアウト設計していくのは、デジタルプロダクトのUIデザインと他ならない。
と考えるとぞっとしないだろうか。カイゼン・ジャーニーは300ページに迫る。正しいものを正しくつくるは実に300ページを超える。素直に考えたら300ページ分のUIデザインを行うということだ。気が遠くなる。
つけくわえると、読みの体験を正確に理解するためには、紙で出す本ならば紙で読む必要がある。紙と電子ではインターフェースが違う。電子で読んでOKだから、紙の本もOKということはならない。紙の本は、紙で出力して、確かめる必要がある。これもデジタル仕事を生業にしていると見落としがちだ。
ということで、紙がなぜ読みやすく感じるのか?それは、そもそも一枚一枚読みやすくなるように作っているからだ。
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