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[読書感想文] 人間レコード
2023年3月の御書印巡りのときに福島書店で買った一冊だった。本は寝かせてから読むことで味がよくなる!というわけでもないけど…
ところどころXXXとかなってるのは原稿ママなのか、原稿が汚れたり破れたりしたのだろうか。
・笑う唖女
「キキキ……ケエケエ……キキキキッ」「アワアワアワ……エベエベ……エベ……」
夢野久作にしか書けない擬音に取り込まれる。でもこれ、以前読んだことがあった気がした。別の短編集で読んだのかな。
終わり方で青の炎を思い出した。こういう唐突な終わり方系なんか好き。
・人間レコード
同じ作者が人間腸詰とかも書いてるし、人間をレコードに変形させていくグロい話かと思ったら、なんとSF方面の話だった。特定の催眠を施してから音声データを入れると、本人の記憶には残らないがまた特定の催眠をすることで音声が再生されるという、まさに人間レコード。
でもレコード役の老人が哀れ。
少年ボーイという呼ばれ方がエキセントリックだが、ここに出てくる青年と少年のコンビ、なんかかなり良い関係性で、人間レコードが使われている背景も含めればこれらの設定で別の作品が作れそうに思えた。
・衝突心理
交通事故の背景に複雑な人間関係や殺意などがあるように思わせて特にそんなことなかった、でも人間は怖いねという、怪奇暗黒傑作選に地味に向いてる短編。
・巡査辞職
この短編集の中で一番好きだった。全てのキャラクターが良い。しっかりもので有能だけど生きていくのが大変そうな巡査。というか今思うとタイトルでネタバレしとるやんけ!
そして好青年と知恵遅れの美人のおしどり夫婦。だがその夫婦の親が残虐に殺されて…!?犯人は一体!?
で、二転三転…はしないけど実はその親たちが超非道というなかなかな事実が判明して、死んだおかげでおしどり夫婦は幸せに暮らしている。が、真面目な巡査が謎を解明してしまい、好青年は自供した上であっさり自殺。巡査は嫌になって坊さんになる。嫁さんはそもそも旦那が自殺したことも特にわかっていないという虚しい終わり。
怪奇暗黒というよりは人間の暗黒面というかだなぁ。
・超人髭野博士
ナンセンス部門担当。でもこの短編集の半分くらいを占める一番の長さ。
最初は取材な感じで始まったのが、髭野博士がとにかくこれまでの歴史を語る形になるが、なんかどんどん関係のない話に繋がっていき、よくわからないまま博士がちょっと一杯食わされて終わる。
なんだったんだ。博士のキャラクターが強すぎて、彼のひとり語りを読んでるだけで気持ちよかったので読後感としては満足ではあるものの、あれやこれやそれはどうなったんだ?とだいぶ消化不良感も残る。