自意識という呪いをこじらせて
ひょんなことから2冊の本をプレゼントしていただき、読んだ。
「ありがとうございます!面白かったです!」と言ったような御礼の言葉では、ちょっとこの思った以上の衝撃が伝わらないなと思い、かと言って長文のメールも失礼だし、ファンレターを出すのも変なので、noteに感想を記すことにしました。
1冊目は「おっぱいがほしい」と題する、作家の育児&奥様への惚気(とあえて表現していいと思うんだけど)日記。
2冊目はその作家が書いた小説。
読んで、あまりの「他人事と思えなさ」に衝撃を受けた。
育児本については、自分も絶賛育児中なので、テーマからして共感しないわけにはいかない。書かれている主張のことごとく、満腔の賛意を捧げたい内容ばかりで、絶妙なるユーモアのセンスに笑い、ときにしみじみし、要所要所でともに憤慨しながら、楽しく一気読みした。
そこまでは、いい。しごく予定調和的な話だ。「この人だったら、この本に共感してくれそう」と思ってチョイスしてくださったんだろうし、その感じは全然、やぶさかではない。
問題は、小説の方だ。
最近は、小説は、ほとんど読まない。現役の作家の小説は、特に読まない。なぜかは自分でもよくわからないのだけれど、全然、読もうという気が起きない。
そんなもんで、どうしようかなと正直なところ思った。でも行きがかり上、読まないわけにはいかない。そんな感じで読み始めたこの小説のページをめくる手の止まらないこと。
題名は、「ドルフィン・ソングを救え!」。
作者よりも少し年下なせいで、ここで語られる風俗誌に微妙に追いつけない。小山田圭吾も小沢健二も知っているけど、2人が一緒にバンドやっていたのはこの本を読んで(その後少しネットで色々読んで)初めて知った。多分元ネタを知ってる人が読んだら、ニヤニヤが止まらないんだろうなー、一緒に盛り上がりたいなー、でもその話題、微妙に知らない。単語は聞きかじったことあるけど、深くは頷けない、そんな感じの、微妙なズレ。
そんなズレがあるにもかかわらず、読み進める手が止まらなかったのは、この主人公は奥様のイメージが(たぶん、いや、ほぼ確実に)濃厚に投影されていて、直近ご本人にお会いしたこともあって、オーラの名残が重なってしまって、でも対面した時の印象からは想像を絶するようなところもあって、なんか不思議な感覚が生じた、というのが第一の理由である。(うまく言語化できず、変な日本語で、申し訳ない)
とまあ、それもあるんだけれど、それは置いといて、全然それ以上に、物語を語る「声」が、自分の内側にある何かと共鳴したような感じがあった。
それは、天才なる存在へのあくなき憧憬と屈折、とでも言えば良いだろうか。
ここから先は、さらにうまく言語化できる自信がないのだけれど。
例えば、村上春樹、宮崎駿、尾田栄一郎、太宰治、宇多田ヒカル、という系列と、高橋源一郎、押井守、冨樫義博、坂口安吾、椎名林檎、という系列がずっと昔から自分の頭の中にあって。どちらの系列の皆様も綺羅星のごとき天才なのだけれど、前者の系列は天然物の天才で、後者の皆さんは自意識が育てた天才、とでも言えばいいのか、後者の皆様の作品には、ものづくりにおける屈託を感じるのです。
彼らの生み出す作品はもちろん素晴らしい、大好きだ、けれど、変な言い方だが、作品について語る言葉の方が、時に、面白い。
野球でいえば、長嶋と野村の違い、とでも言おうか。山崎まさよしとスガシカオ、と言ってもいいし、秦基博と長澤知之、と対比してもいい。
つまり、後者の皆さまには共通して、「自意識という鏡に照らして、言語化せずにはいられない衝動」が、ある。
樋口毅宏という作家の語るこのお話、その声には、濃厚にその種の自意識、屈託を感じた。そして、自分が共鳴したのは、その屈託にこそなのだ、と思う。
物語の終盤に、あのどうしようもない男を殺したのは、きっと、そういう自意識との決別の表明であり、象徴なのだろう。
そういう風に読んだのは、多分、いま、自分自身が、自分の中の屈託と決別しようと四苦八苦しているからなんだと思う。まあ、でも、この手の自意識って、呪いみたいなものだから。そう簡単には。
ホールデン・コールフィールドは、そういうこじらせ系人間の元祖なのだと言えるかもしれない。樋口毅宏氏は、ライ麦畑について、どう思うのか、聞いてみたい。
そういえば、映画「ライ麦畑の反逆児」で、みんな自分だけが特別だと思っている、というパラドックスを皮肉る描写があった。確かに、自意識というものには、そういう星新一的なおかしみがある。
そしてふと思う、この作家がタモリ論を書いてベストセラーになったのだとしたら、そして、それがこのご夫婦を結びつける縁となったのだとしたら、それは自意識にまつわる話だったのではないだろうか。
まだ読んでない本のテーマを想像するという。なんか、変な感じがするけど、ちょっと早く読んでみたい。
ともあれ、全著作に触れたわけでもない身で、ああだこうだと語るのも浅ましいし、おこがましいことなので。でもそれを差し置いても何かを語らずにはいられなかった初期衝動をとどめておきたくて、したためました。
そろそろ、素敵なご本の紹介に感謝しつつ、おいとまいたします。